着歴

@im_0299

着歴

2019年10月2日、友達が死んだ。学校の屋上から飛び降りたらしい。死亡推定時刻は20:00-21:00。先生の証言から20:20頃と分かったらしい。私のスマホには20:16に着歴があった。でも私は出なかった。私はヒトゴロシだ。



この頃連続自殺事件が起きている。学校の屋上から生徒が飛び降りるのだ。全員が死ぬ直前に友達に電話をかけているが、その友達は誰も出ていない。それどころか電話があったことにすら気づかなかったという。また、全ての事件が誰かに目撃されていて、その時間は20:20頃だったというのだ。友達への電話の時間は全て20:16と一致していた。これほどの一致率に警察は宗教や他殺を疑った。しかし死んだ生徒に宗教にはまるきっかけもなければ、部屋中探しても証拠が出てこない。他殺の線に関しては、目撃者の中に飛び降りる瞬間を見たという者もいるので、連続事件としては辻褄が合わなかった。死んだ生徒同士にはなんの関係もなく、示し合わせて、とは考えづらい。前日までの行動でも特に不審な点はなかったという。



友達と遊んでいた。ゲーセンでみんな盛りあがっていた。スマホはバイブにしてポケットに入れていたから、電話が来ていることには気づいていた。でもどうせまた心配性な親からだろうと思って出なかった。電話に出たらこの楽しい空気が台無しだし。だからそっと電源を切った。私のせいじゃない。



全員電話が来たことに気づかなかったことから警察はハッキングを疑った。だが、いくら死んだ生徒とその友達のスマホを解析してもハッキングされた痕跡は見つからなかった。



塾で自習中だった。音を切り忘れていて、静まり返った教室に着信音が響いた。たまたま先生がいなかったから、慌てて電源を切って周りの友達に謝った。誰からかなんて見なかった。ただ必死で...。僕は悪くない。



新たに生徒が死んだ。今までと全くおなじ条件だった。なんの手がかりも得られないまま警察は死体を増やしてしまった。生徒たちはみんな19:30頃に家を出たらしい。理由はまちまちで、親は特に止めなかったそうだ。しかし防犯カメラを調べたが、どこにも映っていなかった。



家でゲームをしていた。電話にはすぐ気づいたけど、ちょうど喧嘩した日だったから話したくなくて無視した。明日謝って仲直りすればいいやって思っていた。俺のせいじゃない。



行き詰まっている警察署に1人の女の子が現れた。「私がやりました。」そう言って微笑む少女に全員唖然とした。とりあえず話を聞かなければ、と急いで取調室を用意した。以下、少女と警察官のやり取りである。



「まず、君の名前と年齢は?」

「天塚命《あまつかみこと》です。今日17歳になりました。」

「今日?今日が誕生日なの?」

「はい、自首するならやっぱり誕生日かなって。」

「そ、そっか、えっと君がやったっていうのは最近生徒が屋上から飛び降りている事件で間違いないかな?」

「はい、私がやりました。」

「やったって言うのは具体的には何を?」

「そうですね、洗脳?になるのかな。たまたま会った子に、私を忘れること、20:16に友達に電話をかけること、そして20:20に屋上から飛び降りることを命令しました。」

「洗脳?そんなものが本当に?」

「信じられないならやって見せましょうか?飛び降りる直前に止めればいいんですし。」

「あ、あぁ考えておくよ。生徒たちとはどこで会ったんだ?」

「ええと、本当にたまたま会った子なのでよく覚えてないんですけど...道端とかショッピングモールとか...。」

「電話をかけさせたと言うけど、その友達たちは誰も電話に出ていなくて、全員が気づかなかったと言うんだ。電話には何か細工をしていたのか?」

「いいえ、何もしていません。電話に友達が出ても20分に死ぬようになっています。」

「それならなぜ?」

「みんな気づいていたと思いますよ?電話があったこと自体は。でも認めたくないんですよ。自分が殺したなんて。私もそうだったから。」

「そういえば動機を聞いていなかったな。」

「私と同じ目にあって欲しかった。誰でもいいから仲間が欲しかった。」

「仲間...?」

「私の友達は2年前の2019年に自殺しました。20:20に。私のスマホには20:16に電話があって、でも、漫画を読んでいた私は出なかった。後でLI○Eしとこうって。結局LI○Eも忘れて。21:00過ぎに学校から電話があって死んだって聞かされて、警察に話聞かれて、わたし咄嗟に電話があったけど気づけなかったって言ってしまいました。結局そのまま自殺として終わって、でも心の中で私がヒトゴロシなんだって考えが消えなかった。だから、この苦しみを分かち合える仲間が欲しかったんです。」

「2019年にあった学校の屋上からの飛び降りってそれ10月2日の?」

「はい、2年前の今日です。私の友達は私の誕生日に飛び降りました。」

「それは確かに同情するよ。でもそのために何人もの命を奪って罪悪感とかなかったのか?」

「だって私はヒトゴロシなんです。1人も100人も変わりません。」



取調記録はここで終わっている。結局天塚命は罪を認めているとはいえ、洗脳という証拠のないものであったため、有罪には至らなかった。しかし精神状態に問題ありとして、監視の元5年間の入院が義務付けられた。そして2年後た同じ事件が起きた。

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