炎上ネタバレ中二病

エリー.ファー

炎上ネタバレ中二病

 僕は物語を読むと、そのオチが分かる。

 予想、予測、推測、そんな言葉では表現できないレベルでオチが分かってしまう。

 僕はこの超能力をラストページと呼ぶことにした。漢字では、脳内連載、と書く。

 友達にも話しているので、何人かはオチを知りたい漫画を持ってきて僕に読んでくれと頼んでくる。もちろん、オチはすぐに分かるので、その場で教えるようにしている。

 不特定多数の人に伝えるようなことはしていない。その物語を作っている、つまりは作者の耳に入ったら怒らせてしまうのではないかと思うからだ。

 地球を真っ二つにできるとか、人類を絶滅させられるとか、台風を百個も二百個も作れるとかそういう能力ではないので、不安になることはない。でも、できる限り、人に迷惑をかけないようにしたいとは思っている。

 炎上するのも、ネタバレするのも、人によっては不快なものだ。

 僕は中二病ではない。

 自分の力を振り回すようなことはしない。

 ある日、廃校に忍び込み、そこで煙草を吸った。

 趣味と表現するのが最も適切であると思う。

 誰の視線もない。これだけで十分楽しめる。ニコチンがあるならなおいい。

「一本、貸してもらえませんか」

 何か影が近づいてきた。

「あの、一本。駄目ですかね」

 何者なのか分からない。

 僕の視界が濁っているのか、それとも目の前の存在が濁らせているのか。

「あ、どうぞ。一本と言わず、二本でも三本でも」

「あぁ、ありがとうございます」

 廃校舎に用事なんてあるものではない。僕くらいだろう。

 この影は僕を待っていたのか。まさか、でも、妙な考えが巡ってしまう。

「ここ、いいところですよね」

 影はいつのまにか煙草に火をつけて、指の中で回して見せた。

 僕も挑戦しようと思ったがやめた。地面に落としてしまったらもったいないし、火傷する危険性だってある。

 ただ、リラックスしたいだけなのだ。

 深い目的をここへと持ち込みたくはない。

「この廃校舎って、昔、ネタバレの目に遭ったそうなんです」

 火災や、地震といった災害ではなく、ネタバレの目に遭った。

 どういう意味だ。

 この影は何を言っているのだ。

「意味がないんですよ。物語っていうのは、幾つかの繊細な要素によって組み立てられています。そのせいで、僅かな悪戯心が致命的な傷を作り出す場合がある。きっと、青春モノだったのでしょう。ヒロインが死ぬかどうか、野球部が優勝できるかどうか、生徒会を打ち倒すことができるかどうか、誰かがネタバレをしたんでしょうね。そうなったら、もう校舎は必要ない。生徒も必要ない。勉強も、部活も、休み時間も、放課後も、夏休みも、冬休みも、教科書も、机も、椅子も、黒板も、チョークも、黒板けしも、大きな三角定規も、分度器も、何もかもいらない」

「だから、廃校」

「そう、いらないからです。お払い箱ですよ。用済みというやつです」

「怖いですね」

「お互い気を付けなければいけませんね」

 僕は気が付くと、一人で煙草を吸っていた。

 そして。

 超能力も使えなくなってしまった。

 まだ、殺人はしていない。

 いつか、するかもしれない。

「なあ、この漫画のオチってどうなると思う」

「分からないなぁ」

「え、いつもみたいに当ててくれよ」

「面白くないから、たぶん打ち切りだってことだよ。オチにも行き着けないって」

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