第11話

「ついた~!」

気まずい空気のまま、歩いて5分。ショッピングセンターにようやくついた。その空気は、悠と千夢が話している空気と同じくらい甘かった。会話はその間ほとんどなかったが。

「映画まで時間あるし、なんかしたいことある?」

今日予定していた映画の時間まであと30分ほどある。なんかあった時のためにと、お金は結構持ってきていた。

「せっかく、月城君のお礼に来たんだから、服とか選んでもいい…?」

(いつもより元気がない?さっきのことを気にしてるのかな)

「うん。いいよ」

(さっきまでは距離が近かったのに、なんか避けられてる…?いや、気のせいか)


「いらっしゃいませ~」という、異様に高い声に不快感を少し感じながら店に入っていく。この店は、いつも湊がお世話になっている手ごろな値段で服が、買える店とは違いおしゃれな雰囲気だった。湊としては、少し立ち入りずらい店だが、雪乃と一緒に行ると思うとこれくらいの店があっているのかもしれない。

そんなことを湊が、考えていると雪乃が洋服がずらりと並んでいる前で、「うーん…」とうなっていた。

(そこまで、俺に合う服がないのだろうか)

「これとかどうかな?」

持ってきた服を試着室で着ることにした。

「どうかな…」

自分には、おしゃれすぎると思い緊張しながらも雪乃にその姿を見せると、「おおー」という言葉が雪乃から漏れた。

「お、俺にはおしゃれ過ぎないかな…?」

「全然そんなことないよ!むしろ今の髪型だから似合ってるってのもあるし…」

もにょもにょと言葉を濁す雪乃に、ますます湊は不安になる。

(でもこの服は買っておこう…)


「それじゃあ、今度は俺が服を選んでみてもいい?」

ここから名誉挽回をしよう!と思い立ち、服を選ぶ宣言をしてしまったが、悩むこと早5分そのことを後悔した。

(そういえば俺、おしゃれなんてわかんないよー……)

「あー終わったー」と叫びそうになった瞬間、一つのワンピースが目に留まった。そのワンピースは白一色というシンプルではあるが、直感的に似合いそうと思ったのだ。

“おしゃれ”という言葉と無縁な、湊にとってはその直感を信じるしかなかった。

「これとかどうかな?」

「着てみる!」

意外と反応が良く、試着室へとたったったと、入っていった。

数分待っているとシャッと、試着室のカーテンが開いた。そして、ワンピース姿の雪乃は、焦った様子で話しかける。

「あのさ、映画の時間やばくない?」

「え?」

自分の腕時計を見ると上映の残り3分前となっており、湊たちは急いでレジに向かった。

「すみません!これ着たままでいいですか?これお金です。レシートはいりません!」とだけ残し、映画館に向かって早歩きをする。

なぜ走らないのか?その理由は雪乃がワンピース&ハイヒールだからだ。

運がよく意外と近いところに、映画館があったので、ぎりぎり間に合うことができた。

席に座るとプロローグがすぐに始まった。ほかの映画の宣伝を見るのも楽しいがすぐに始まるのもまた、これもいい。

そんなことを考えながら、映画が始まった。

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