第9話

「やっと明日だなあ」

雪乃は学校の帰り道に、気が抜けた声でつぶやいた。ぼーっとしながら、いつもの道を歩いていた。

あと少しで駅に着くころ、何かにぶつかった。

「あっごめんなさい」

「大丈夫なの」

そう答えたのは、小さな少女だった。

身長は、雪乃より、10センチ以上小さく、145センチといったところだろうか。雪乃は、小さい子と話すように少しかがんで話を進める。

「お母さんは?」

「そんなに子ども扱いしないでいいの」

「それじゃあ、どこに行くところだったの?」

「駅なの」

「行先は?」

「3つ目で降りるの」

「私と同じじゃん!」

「一緒に行く?」

「だから、そんなに子ども扱いしないでほしいの。まあどうしてもっていうなら、考えてやってもいいの」

と、口では冷たそうにしているが、彼女の様子を見ると、すごくついてきてほしそうな顔をしている。

「どうしても!だからついてきて」

(あ、待ってこれって私不審者みたいなことしてる!?)

だが、もう遅かった。「じゃあ行くの」と裾を引っ張られてしまった。雪乃の母性本能は爆発し、結局ついていくことになった。


「あ、電車が来たの」

ぷしゅーという効果音をならし、やってきた電車には、人があまりいなかった。今日はすいているようだ。

「今日はあんまり混んでないからゆっくりだね」

「運がいいの」

「よいしょ」と雪乃が、席に座ると隣に「失礼するの」といって、隣に座ってきた。

「これも何かの縁なの。これを授けるの」

「えっなにくれるの~?」

お菓子だろうと思い手を出したところ、渡されたのはこけしだった。大事なことだからもう一度言おう。そう、こけしだったのだ。

到底理解できない雪乃だが、頭をフル回転させ「これは見間違いだ」という判断になった。

(さすがにね?)

深呼吸をもう一度、手元を見る。

(こけしだーーー…)

キーホルダーでもなく、しっかりとしたこけし。

「なぜに、こけし…」

「いつも、親睦を深めようとする相手には、このこけしをあげているの」

(だから理由を聞きたいのーーー!)

「そ、そうだったんだー。ありがとうね」

ぎこちない返事だが、今はこんな反応しかできないほど雪乃は、混乱していた。

「それで、今日引っ越してきたばかりなの」

「へぇ~そうなんだ!」

(この子の両親が待ってるんだろうなー)

この、ほのぼのした空気になり、次第に話は進んでいき、いつの間にか、2駅を通り越し、目的地についてしまった。


「それじゃあ、ここまでありがとうなの」

「ばいばい!元気でね!」

若干、不思議そうな表情を浮かべたが「ばいばいなの」と小さく手を振った。


「結局何だったんだろ。あのこけしの子」

まあいっか。と、一息つくとピンポーンとインターホンが鳴った。

誰だろう。と思い、制服のまま外に出ると…

「あ、浅倉さんまだ、制服だったんだ」

「今日ちょっと遅れちゃってね」

「なんかあったの?」

「なんかね、小さい子とぶつかって~……」

と、さっきまであったことを話す。

「何で一人だったんだろうね」

「そうそう。それが謎なんだよねー」

「あ、そういえば、メアド交換しない?明日のこともあるしさ」


「メアド…」

湊にとっては、初めてのことだった。女子とメアドを交換したことがない(千夢は例外)ので、妙に緊張をしてしまう。

「う、うん。いいよ!」

「それじゃあ、はい!」と出されたスマホの、番号を打ち込む。

「よし!できた~」

少々、緊張してしまったが、何とか交換できたことに、達成感を覚える。

(なんでこんなに緊張してるんだろ…単純に初めてしたからなのか、それとも───)

その先は、まだ口に出せなかった。そういえば、最近妙にドキドキしたり緊張したりしていると思ったが、それは、単なるコミュ障だけじゃないのかもしれない。と思う湊であった。

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