第3話

「ここまでとは…」

雪乃が作った、だし巻き卵は疑問形にしたほうが正しいような食べ物になってしまった。

単刀直入に言うと、それはだし巻き卵という名を持った、異質の物体と化していた。

見た目は、スクランブルエッグのようになっていて、一口食べると味蕾が吹き飛びそうな、味があっちこっち言ってるような、感じだった。

あまりおいしくない。というのが本音だがここで残すのは、雪乃に対して失礼だと思い、口の中にかきこんだ。

「おいしくなかったよね…というか、本当にごめんね。ここまで料理ができなかったとは思わなくて…」

「いや、俺が食べたいっていったんだから、気にしないで」

半泣きになった雪乃を見た湊は、慰めるようにやさしく答える。

「うーん…とりあえず今日は、俺が作っていいかな?」

「ありがと…それじゃあ、月城君のを見て勉強する!」

さすが生徒会長、切り替えが早い。

(それじゃあ、今日は…オムライスでいっか。一応俺の得意料理だし)

湊は、雪乃の許可を取り、冷蔵庫を開けた。中にはいろんな食材が入っていて、何でも作れる準備は万端だった。

「よし!」



30分後…

15分でコメが炊けるという炊飯器のおかげで、順調に進めることができた。

「お待たせ~」

「すご!」

「写真撮ればいいんだっけ?」

「そうそう!」

カシャという音と同時にオムライスの写真がよく撮れていた。

「いっただっきまーす!」

「どうぞ…」

(いつも自分か、家族にしか作ってないから何ともなかったけど、やっぱり、それ以外の人は緊張するな…)

「うーん!おいしい!」

料理を作って、「おいしい」と言われることがこんなに嬉しいことなのか…と湊は喜びを感じる。

「あれ?そーいえば、一人分しかないの?」

「うん。できるだけ使う食材抑えたいし」

「そうなのかー。それじゃあ、一口あげよっか?」

「いやそれは…」

「はい、あーん」

「ぅぅ…」

食べるしかないのか。と羞恥心を抑えながらも食べようとすると…「噓だよ~♡」と目の前には、ニヤニヤしている小悪魔な雪乃が湊を見つめていた。

「もう料理作ってあげない!」

ふん!と湊が、怒ったように目を背ける。だがこれは、当然、怒っているわけではない。そっちがその気なら、こっちもやられただけでは終われまい。と、少し意地悪をしてやろうとしたのだ。

(どんな反応するのかな…?)

「えっ!?それだけは~~」

(意外とちょろい…)

学校では、授業をまじめに受け、遊ぶときは遊んで、集会などでは皆をまとめ…と、皆からあこがれの的の生徒会長。という感じなのだが、今の状況を見ると「少し子供っぽい高校生」に退化してしまっている。

「冗談だよ」

「よかった~。月城君がいなかったら私、このアパートに住めないよ~」

「でもこれからは、自分で作れるようにしなきゃ」

「だよね!頑張らないと!」

ふんす!と、雪乃は、息を鳴らした。





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