第47話 初夏の到来と調合
初めて次作の傷薬を成功させた後は、夢中で傷を癒すのに効果のある薬草の配合を変えて何通りもの傷薬を試作した。
それらはほとんど失敗で『ーーー』となったが、いくつかは『~草の傷薬』と収納のリストに表示され、傷薬としての効果がある薬となった。
それでもやはり一度使った効果を確認しないと『~草の混ざり物』表示となるので、自作の物は自分で効果や使い道がはっきりと意識していないと通販スキルにも反映されない、ということがほぼ確定となった。
「チッ、チチィ!」
「あっ、プーア、何か見つけたの?……その木の実って私も食べられる?」
「チィ?チチチッ!」
プーアは雨期の間はあまり家からは出ず、巣ごもりのように家に置いた木の枝の上に乾燥した草などを置いて過ごしやすいように改造していた。
ラウルが聞いたところ、雨期の雨はプーアの体では耐えきれないので、基本的に木の洞などでほとんこ動かずに過ごすものなのだそうだ。
そこで雨期が明けたことで、プーアも積極的に私達と一緒に森へ採取に来るようになっていた。
プーアも野生だからか、食べられる木の実と食べられない木の実がきちんと判別がついており、今までラウルでも食べられるかどうか分からなかった木の実も、プーアのお勧めによって食べられるようになっていた。固い木の実も乾燥させてから火で炙って食べたり、砕いて野菜と肉と炒めて食べている。
ピスタチオみたいな味やカシューナッツのような味の木の実があって、以外と美味しくてラウルとリサちゃんが気に入った木の実を大量に確保してくれている。
最初は食べられるだけで、と嬉しそうだった二人が、どんどん美味しい物をと求めるようになったのは、生活がその分ゆとりができたということでなんだかうれしくて、つい色々と工夫をしながら料理を作っている。
もうテムの町でのような毎日ほとんど同じ味の食事は物足りなくなってしまっているんだよね……。街に出る予定は今のところないからいいけど、簡単なハーブ塩のような調味料も色々作れたらいいな、とは思っている。
プーアにも油が搾れるようなオリーブのような木の実があったら教えてと頼んでいるので、その内見つかって植物油が手に入るようになったら更にレパートリーは広がるし。楽しみだよね!
「お姉ちゃん、これは美味しいよ、って!リサ、たくさん採って来るね!」
「気を付けてね!」
プーアが渡してくれた木の実を味見すると、気に入ったのかするすると木に登り木の実を採り出したリサちゃんに声を掛け、私とラウルは野草と薬草などを探す。
ラウルが知っていた薬草は、基本は季節毎に採れる熱さましになる薬草や、傷に効く薬草がほとんどだ。これは集落の今までの経験からの知識で、お母さんからしっかりと教わっていたそうだ。
その知識はとても素晴らしい物だが、当然それ以外の薬草もたくさんある筈で。
うーん……。こうなって来ると通販スキルに鑑定スキルがついてないことが本当に残念だよね。あの神から貰った能力だし、これ以上頼るつもりはないんだけど、人の欲望は果てしないね……。だからこそ自制しないと、なんだけどさ。
この世界でももしかしたらどこかで植物紙が発明されていて、本だって気軽に読めるような国があるのかもしれないが、聞いた感じだとリンゼ王国でも紙は貴重だったそうだから本も望めないだろう。
植物図鑑があれば、と今まで何度となく思っていたが、やっと自分で薬を作ることが成功した今、何よりも植物図鑑を切望していた。
ウィトやプーアが毒がある植物が分かるだけでもかなりありがたいんだから、この世界的にはかなり贅沢な望みなんだろうけどね。でも、教えてくれる人がいないのに薬を調合しようとしているから、せめて材料の薬草のことについては詳しく知りたいのだ。
紙があれば自作で見た目と名前だけの図鑑なら作れるかもしれないが、ないものは作れないし絵心もない。でもせめて収納に入れた時に、入れた物の名前だけでなく食用かどうかだけでも出ればいいのに。といつも思ってしまう。
それに……。薬が私が効果を認識したから傷薬と表示される、っていうのも考えてみれば変なんだよね。だって薬草の名前なんて私は知らないのにリストには載っているんだし。……でも、それをいったら鑑定だって変だもんね。いや、この世界に鑑定のスキルなんてあるのかどうかは知らないけど、あったら何を根拠に情報を得ているのか?
「ノア、また考え込んでる。外なんだから警戒しないと。ほら、あそこにネロがあるから採ろう」
「あっ、ラウル、ごめんね。じゃあ土を柔らかくするね」
つい考えすぎてドツボにはまりそうになり、上の空になってしまっていた。
慌てて今は採取に集中し、ネロを掘る為に土に手を当てたのだった。
「うーん、やっぱり煮ても薬効が完全に溶けないのかな……。それとも、お湯で煮ている分、薄まっているのかな?」
それかやっぱりファンタジー世界らしく、ここで魔力を注ぐと色がピカーッ!と変化してポーションが出来るとか?
夏になり、暑くなってからは早朝から午前中に採取や畑の世話を終わらせ、午後は皆好きなことをやる時間としている。
畑の世話はほとんどリサちゃん任せだが、最近では土魔法で一気に辺りを柔らかくしたり、とどんどん魔法を研鑽していた。恐らくスキルとしてリサちゃんは土魔法を得るのでは?と思っている。
私としても水をウォーターボールやウォーターニードル、ウォーターカッターのように変化させて飛ばす魔法を練習してみたが、空中にボール状態で出すことには成功したが、それを打ち出すようには未だになっていない。
これは魔力を操作するのに生活魔法では出すまでは補助が入っても、それ以上には補助が入らない為自力で操らないとならないのだろう、と推測している。
つまり、リサちゃんと私の違いは魔法を扱うセンスの差ってことなのかなぁ……。イメージはアニメとかで見たのを描いているから、私の方が具体的に出来ている筈だもんね。だったらやっぱり私にはスキルになる程の魔法の適性がないんだろうなぁ……。
そうは思いつつも、毎日練習だけはきちんと続けている。魔法がある世界なのだから、自由に魔法を使うことを簡単には諦めきれないのだ。それに鍛錬の成果がスキルなら、地道にずっと続けていればいつか魔法スキルも手に入る筈、と思っている。
「水魔法、っていうと、温度の変化も出来る話が多かったけど、分子をイメージとか、さすがに無理だったしな……」
分子の運動で水はお湯になったり氷になったり、はたまた湯気となって気体となる。学校の授業では習ったが、それをイメージしろ、と言われても難しい。これも出来るようになるには、私の魔力操作の練度しだいなのかな、と思っている。
そして水に魔力を注ぐのも、その魔力操作の練度が関わって来るのだろう。
「ハア……。やっぱり身体の中の魔力を感じ取ってそれを自在に操れるようになることからかな。水薬はそれまで諦めて、練る薬の方をもっと色々配合を変えてやるしかないのかな」
一番最初の手探りで何でもやってみた時は、こうして乾燥させた粉末をお湯で煮たり、生の薬草を擦ったりきざんだりして煮たりしていたが出来た物は全て『ーーー』だった為、しばらく練り薬の方に集中していた。でも、さすがに何十、何百通り試しても一度も傷薬以外は成功しないので、気晴らしに今日は熱さましになる薬草を何種類か合わせてお湯で煮出してみたのだが。
「チィ、チッチッチチッ!」
「ん?プーア。今火を使っているから近づくと危ないよ?……え、その木の実を入れてみろってこと?」
竈で煮出している鍋に手をかざし、なんとか魔力を注ごうとしてみたが鍋の中身は全く変化することなく、今日も失敗かな、と諦めかけたその時、プーアが小さな手で小さな赤い木の実をいくつか持って差し出して来た。
プーアは普段は火が怖いのか、竈に近づこうとしないのに、ビクビクしながらもしきりに手の上の木の実を差し出すので、もしかしたら?と思って聞いてみると。
「チィッ!チチチッ!」
そう、その通り!と言わんばかりに頷きながら更に手の上の木の実を差し出す。
その南天の実に似た赤い小さな木の実を一粒手に取り、これをどう入れるのかと潰したり擦ったりと身振り手振りで聞いてみると。
「お姉ちゃん、プーア、多分だけどその木の実を潰して汁をその鍋に垂らすって言っているみたいだよ?」
「あっリサちゃん、ありがとう!やってみるね」
外から戻って来たリサちゃんが、私とプーアのパントマイムのような会話を通訳してくれると、プーアもうんうんと大きく頷いた。
プーア、もしかして私が薬を作っているのが分かっているのかな?……その上で足りないのがこの木の実の成分だって分かったのなら、とんでもなく賢いというか、野生で暮らしていたのに薬のことが分かるなんてどういうこと!と叫べばいいのか……。ま、まあ、とりあえずどうせこのままなら失敗だし。やるだけやってみよう。
プーアが差し出した赤い木の実は今日プーアに言われてたくさん採ってあったので、収納から出してまとめて潰して汁を少しだけ絞ることが出来た。
その汁を、ドキドキしながら竈の上の鍋に垂らしてみると。
「お、お姉ちゃん!色が、色が今、一瞬で変わったよ!」
いかにもまずそうな深緑だった汁の色が、一滴、二滴と垂らしただけでどんどん澄み渡るような透明感のある緑へと変化して行ったのだった。
ーーーーーーーー
プーアのもふもふ回もその内やりたいですね……。
日曜までは毎日更新出来ます。月曜からは……が、頑張ります!
どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます