第46話 初めての傷薬

 雨期だけ採れる野草と薬草は、なんと川沿いの岸の水たまりに一時的に生える水草だった。なんでも元々川に生える水草の一種が変化して水がない場所でも枯れず、一定の水に満たされると一気に成長するのだそうだ。


「うわあ!本当に一気にみるみる内に成長してる!す、すごいっ!」


 豪雨が止んだ直後、ラウルに連れられて小川に行くと、すぐ近くの大きな池のようになった水たまりの中に、わさわさと目に見えてどんどん成長する水草の姿があちこちに見えた。

 まるでコマ送りのようにどんどん伸びる水草の姿に、ポカンと口が開きっぱなしになってしまった。


「面白いよね。でも、この水草は採っても水の中でしか保存できないし、水に入れておいても三日でダメになっちゃうんだ。だから雨期の時期にしか食べられないし、この時期にかかる三日熱の特効薬としてしか使えないんだよ」


 三日熱とは、子供が雨期に三日高熱を出して寝込んでしまうという病気だ。原因は不明だが、頬が真っ赤に腫れるから三日熱にかかるとすぐに分かり、前世のおたふく風邪と症状が似ていた。

 この病気に大人が掛かることはほとんどないが、かかってしまうと高熱に耐えきれずに亡くなってしまう方が多い。だが、このミナという水草の薬草を煎じて飲めば熱が三日経たずに下がるらしい。


 テムの町では三日熱にかかる子供はほとんどおらず、大人もかかったとは聞いたことが無かったし、特効薬のことも知らなかった。

 薬を軟弱と否定する割には、リンゼ王国の森にある集落で薬草に関する知識が豊富なことは皮肉なことだと思う。薬草の知識を求めるのなら、薬草を薬にする調合にもっと力を入れれば国力としてもっと上がると思うのだが。


「それは凄いね。でも、三日しか持たないんじゃ、このミナが生えない川沿い以外に住む人には特効薬は届かないんだね」

「僕らの集落のある森にある川には雨期にはこのミナはどこでも生えるけど、そういえば平原の街ではどうしているのか知らないな。街には一度も行ったことがないから」


 なんでも集落で作ることが出来ない金属製の剣などの武器や鍋などは、集落を回る行商人が持って来るのだそうだ。それらを買うのは当然硬貨ではなく、それまでに獲った獲物の毛皮や牙、爪などの素材と物々交換らしい。


「森で採れる薬草でも行商人と物々交換出来たけど、ミナは三日間しか持たないから取引できなかったしね」

「そっか。でも、行商人が薬草を引き取って行くなら、街に森の薬草は届いていた、ってことだよね。ちょっとだけリンゼ王国の街にも興味があるな」


 何せランディア帝国では街や町、村を行き来するのは商人とギルド員のみで、一般人はほぼ自分が生まれた町を出ることはない。村の子供が八歳の洗礼を受けに街に行くのは、それこそ一生に一度の特別なことのような感じなのだ。

 だから洗礼でスキルを授かっても街へ見習いに入る伝手もないので、そのまま死蔵して親の職業を継いだりするのが普通だった。


 そんな国なので、今考えれば子供が一人で門をくぐる、というのはかなり異常なことで、いくら身分証明書を持っていても通れるかどうかは不明だった。

 だから調合のことを教わりに行くなら、リンゼ王国へラウルとリサちゃんと行く方が現実的に思えるのだが。


「……そうだね。僕達が大人になったら、好きな場所に行けるように力をつけなきゃな。力がないと、居場所を守れないから」

「ラウル……。うん、そうだね。私達はまだ子供なんだし、なんでも頑張ろう!例えスキルとして現れなくても、何かを身に着ける為の土台にはなる筈だもの。だから今は私はミナを使った薬を作れないかやってみたいから、採取しよう!ねえ、ミナはどこを摘んだらいいの?」


 そう、一つ一つこの家に皆で家族として暮らしながら、積み上げて行くんだ。そうすればいつか別れることになっても、安心して笑顔で見送れるだろう。


 それからラウルに教えられ、ミナと食べられる野草をたくさんとり、夕食に食べた。固いツンツンとしたとげとげしいスギナのような野草は、コリコリとした触感でおかひじきのようで美味しく、雨期の楽しみが一つ増えたのだった。




 冬の間にラウルに調合道具として木で乳鉢や薬研を作って貰い、秋の内に集めた薬草で色々と実験を繰り返していた。

 雪の間から生える貴重な薬草も手に入り、生薬を刷って練って生薬にしてみたり、乾燥した薬草を薬研で粉にしたのを合わせてみたり、お湯でに出したり水で抽出してみたり、と様々に試してみた。


 でも、薬草の効果はラウルが知っていても、それを使った薬は誰も知らないので、作り方が適しているのか飲んで大丈夫かは見た目で判断できる訳もなく、それは通販スキル頼みとなった。


 まず作った薬をタブレットを出して収納し、収納した物がどうリストに表示されているのかを確認する。ここで注意なのは、一度に色々入れてしまうとどれがどれだか分からないので、一つ一つ確認しながら収納することだ。


 収納すると、大抵『~草の水煮』とか『~草と~草の混ざり物』と表示されるが、明らかに失敗だと思われるものは『混合物』としか出ず、それよりもひどいと『ーーー』とだけ表示され、名まえさえ無しだったのだ!

 ポイント的にも一ポイントにもなっておらず、明らかにスキルにゴミと認定されたのだ。


 ~の~と表示されることにも驚いたが、『ーーー』がゴミ扱いだと悟った時には驚きというか怒りというか何ともいえぬ感情がぐるぐるして、その後三日は何も手につかなかった。


 ただこれも通販スキル自体の検証が終わっていないので、何を持って『傷薬』と認証されているのか、名称を持った収納物は全て変換リストに載るようになるのかがまだ不明なので、その辺りの検証をしながら手探りの作業になる。なのですぐに結果が出る物でもないと諦めてはいた。


 ただリサちゃんが冬の間に一度だけ微熱を出した時に、熱下しの薬草をそのまま煎じて飲むのではなく、私がいくつかの熱さまし用の薬草を合わせた物を飲んでくれた。

 人体実験のようで反対したのだけれど、ラウルも原材料が薬草以外使っていないなら少し飲んで様子を見るくらいは獣人は頑強だから大丈夫だと言ってリサちゃんを支持したのだ。


 用意した丸薬状にした薬を一つお水で飲んで貰い、つきっきりで様子を見た結果、翌日にはすっかり熱は下がっていたけど、薬が効いたのか自然の回復力で快癒したのかははっきりいって謎だった。


 だから今はやみくもに色々実験しているだけだが、こうして続けていればいつかはラウルが言ったように経験がスキルとして定着するかもしれない、とそれを希望に頑張っている。

 何年かかるかは分からないが、調合スキルを得られればもしかしたら効果がある薬かどうか判断がつくようになるのではないかと思うので、それまではとりあえず通販スキルの収納で確認しながら一つ一つ積み上げていくつもりだ。


 ただ何度も何度もすり潰していたラウルが作っていた乳鉢は木製なので、キレイに洗っても汁がしみ込んでしまうのか同じ薬草を使ってもたまに違う色の物が出来るようになってしまった。

 でもいきなり粘土を見つけて焼き物を作る、なんてことは現実的に無理なので、石をなんとか削って造れないかと岩山で石を物色していると、リサちゃんが「私がやってみる!」と言ってくれた。


「土も石も、元々は細かい砂が固まって出来た物なんだよ。だから魔法でその固まりを緩めれば石も削ったり変形できたりすることも可能な筈、なのよ。わかるかな?」

「んー?……あっ!リサ、分かったかも。畑を作っていた時、土が固まって石みたいになっているのがあって、それをえいって力いっぱい蹴ったら砕けて土になったことあったの。そういうことだよね、お姉ちゃん!」


 おおお、リサちゃん、なんて賢いの!もう、可愛くて賢いなんて、うちの子、どれだけ私を萌え殺しに来るの!


 内心わきゃわきゃしながらはりきるリサちゃんに頼んでみると、最初は全く変化せずムームー唸っていたのに、いつの間にかコツを掴んだのか半月くらいで五センチくらい削った石をプレゼントしてくれた。

 石を魔法で結合をほどいて崩すやり方で掘ったからか、表面も滑らかで混ぜやすく、そして洗いやすくてとっても感激して半日リサちゃんとはしゃいでまわってしまった。


 そのリサちゃんが作ってくれた乳鉢で、血が止まる効果があるとラウルに教えて貰った薬草、ガイナ草をメインに、傷口が化膿しないようにする薬草、それにいつもの殺菌効果があるバナの葉を少しだけ加えて混ぜ、傷薬を変換する時に材料となる薬草と一緒にすり合わせて作ってみた私作の傷薬は、転んで擦りむいた自分の傷口に塗ってみると。


「……あっ、傷口が塞がってる!もしかして、少しは効果のある傷薬が出来たのかも?」


 翌日にはほぼ塞がっていた傷口に、ドキドキしながらバナの葉にくるんだ同じ薬をタブレットを出して収納してみると。


「……『ガイナ草の傷薬』に変化してるっ!昨日使うまでは、『ガイナ草の混ぜ物』って出てたのに!なんで?効果を私が認識したから?私の認識が通販スキルに影響があるの?えええっ?」


 初めてのきちんとした薬としての効果が実証された薬を作れた喜びと、また明らかになったスキルの謎への混乱に、素直にうれしいと思えずに複雑な心持だった。


 因みにそのことを夕食の時に報告したら、ラウルとリサちゃんに凄い!と褒められ、やっと素直に喜ぶことが出来たのだった。


 








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今週までは毎日更新を頑張ってみますが、力尽きたらすみません……( ;∀;)

どうぞよろしくお願いします!

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