第40話 それぞれの過去3

 そして翌日。やはり昨日の夜からずっと振り続けている雪はやまず、扉から外を見たら五段ある階段の一段目はもう雪で完全に埋まっていた。


「ウィト、ウィトなら心配いらないと思うけど、気を付けて見回りに行ってね」

「ウォフッ!」

「じゃあ、行ってらっしゃい」


 朝方の冷え込みとウィトが見回りに立ったことに気づいて目が覚めたので、そっと気配と声を殺しつつ、ギュッと抱き着いてから吹雪の中を飛び出して行くウィトの姿を見送った。


 ラウルの提案で入り口を階段を五段分上げて扉を作ったが、そうしていなければ焚火を消さずにいても夜眠れなかったかもしれない。本当にラウルには助けられてばかりだ。

 雪が入り込む前に扉を閉めて室内に戻ると、ブルリと震えが来る。慌てて焚火に薪を足し、火をつけた。


 扉をつけて風が入らなくなって大分ましになったけど、でも壁が岩だからやっぱり冷え込むんだよね……。まあ、雪かきの心配がないんだから贅沢を言うな、って感じなんだけど。もっと寒い日は、ウィトに薪が無くなる頃に火を消すのを頼んで、焚火を消さないで眠らないと寝れなくなるかもしれないな。


 どうしても隙間はあるので、酸欠の心配はそこまでしなくても大丈夫だとは思うが、やはり一晩中火をつけたままにするには精神的に無理だ。

 湯たんぽみたいな物は作れないかな、とだんだんと暖かくなって来た焚火に手をかざしながらぼんやりと考えていると。


「……おはよう。今日は早いね」

「おはよう、ラウル。ウィトが見回りに行くのに離れたら、寒くて目が覚めちゃって。外、まだ吹雪いているよ」

「じゃあ、今日も止まないかもしれないね。後で屋根の雪だけ見てみるよ」

「無理しないでね?とりあえずお湯わかしてお茶を入れるね」


 竈に薪を足し、焚火から一本薪を取って入れて火をつける。小さめの鍋に魔法で水を入れ、竈に置く。そうして台所に新たに設置した棚からハーブティーを入れた袋を取り出した。


 ハーブティーは、冬用の食料を集めていた時に見つけたハーブを乾燥させ、ハーブ塩と一緒に適当に配合して作った物だ。

 カモミールに似たハーブを見つけたので、それに乾燥させたベリーや他のハーブを入れてリサちゃんにも美味しく飲めるようになっている。


 そのハーブもラウルに食べられると教わっていた物を使ったのだが、ハーブティーとしては飲んでいなかったらしく、最初に飲ませた時はラウルも驚いていたが最近では美味しそうに飲んでくれている。


 まあ、テムの町でもハーブティーどころかお茶もなかったんだけどね。基本は水か白湯だったし。果物が多く取れたら果汁を飲んだりもしたけど、それも贅沢品だしね。


 小鍋に沸いたお湯に直接スプーンでハーブティーを適当に入れて煮だしていると、その香りに誘われたのかリサちゃんも起きて来た。


「おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。今日は寒いね……」

「おはよう、リサ」

「おはよう、リサちゃん。外はまだ吹雪いているから、今日はずっと寒そうよ。さあ、ハーブティーが丁度入ったから、飲みましょうか」

「うん!」


 目をこすりながらもぞもぞと毛布から這い出し、挨拶をするリサちゃんの姿にかわいい!と萌えつつ、小鍋から直接三つのカップに注いだハーブティーを出した。

 ティーポットなんて物も茶こしもないので、なるべく葉っぱは入らないようにはしているが、まあ、食べられるハーブだしそこは諦めている。


 皆で揃って湯気をたてるハーブティーを飲むと、フウ……と吐息が三人揃って吐き出された。

 お腹の中に暖かなお湯が入り、体の中からやっと少しずつ温まって来たようだ。


 それからまだ朝早いけど皆が起きたことだし、と残ったお湯に水を注いだぬるま湯で皆顔を洗い、そして私とリサちゃんで朝食の準備を、そうしてラウルは屋根の雪を見に出て行った。


「ねえ、お姉ちゃん。今日、お祝いするんだよね?」

「ふふふ。そうよ。たくさん美味しいお料理を作りましょうね」

「うん!!」


 とりあえず朝食は寒いので温かいスープにすいとんを入れたのを作り、ラウルが戻って来ない内に脂身が美味しいお肉を収納から取り出し、分厚く大き目に一つ塊を切り、もう一つは薄めにどんどんスライスをしていく。

 その様子を目をキラキラさせながら隣で見つめているリサちゃんに、久しぶりに変換で出したパンを取り出し、半分に切ると、それを細かく砕いてもらうように頼んだ。


 お肉はウィトやたまにラウルも魔物や動物を獲って来るから大量にあるし、痛む前に食べないと勿体ないので毎日食べているが、それでも普段は焼いたり焚火で塩を降って串焼きにするくらいだ。

 竈が一つしかないので、スープを作るとどうしても手早く作れる料理をあと一品くらいしか作れないのだ。

 今日はお祝いなので、ハーブと塩くらいしか調味料はないが、何品か肉料理を作ってみる予定だ。


 でもそうなると流石に竈が一つだと足りないよね……。よし、この際だからもう一つ竈を造っちゃおう。まあ、煉瓦がまだあるから、それを組んで簡単な物だけど。


 そう、野営をしていた時に組んでいたくらいの竈なら、すぐにでも造れる。火を何箇所も使うと注意が必要だが、今日は一日家にいるから心配はいらないだろう。


 頭で今日の料理で使う野菜の下ごしらえをしていると、ラウルとウィトが一緒に戻って来たのでささっと朝食以外の物は収納する。


「屋根と崖の方を見回って来たよ。今のところ屋根から雪が落ちるようなことはまだなさそうだった。ただ、このまま振り続けると崖の屋根の根元が心配だから、吹雪が収まって来たらちょっと雪かきしてくるよ」

「やっぱり雪の重みで屋根の石板が上がりそう?そこだけは心配だったんだけど、どのくらい積もるか分からなかったから」

「多分大丈夫だとは思うんだけど、このままドカ雪が降ったら怖いしね。ウィトも手伝ってくれるから、朝食を食べたら天候を見ながらやって来るよ」

「ラウルもウィトも気を付けてね。じゃあ、朝食を食べちゃおう」


 この調子だと案外気づかれずに料理を作れそうだね、と目線でリサちゃんに合図をすると、口を手で押さえながらうんうんと頷いていた。


 ……バレないように必死で隠してるのかな?その仕草がかわいすぎるんだけど!


 そうして朝食を食べ、アダを織る準備に木の板を加工していたラウルは、外の吹雪が止んだのかウィトが「ウォンッ!」と鳴くとウィトと一緒に外へ雪下ろしに出て行った。

 その隙に急いでリサちゃんと料理を再開する。


 まず簡単に竈を組立て、そこに中くらいの鍋を出して水を注いで沸騰させる。そこに大きく切っておいた油ののった肉の塊と臭み消しようのハーブを入れ、グラグラ煮だったら一度鍋のお湯をスープ用の大きな鍋へ全て入れる。

 そして今度は肉が半分浸かる水を入れ、そこに塩や香辛料を入れて濃い目に味付けをしていく。そして蓋をするとコトコト煮込んで行く。


「お肉のいい匂い……。お姉ちゃん、もう美味しそうだよ」

「ふふふ。まだまだ煮込むのよ、これは。さあ、次はキャサの根を細かく切ってくれる?」


 竈にスープ用の鍋を置き、肉を煮たお湯に水を足してそこにリサちゃんが切ってくれた野菜を入れて行く。そしてここには試しにソミュール液につけて作ってみた干し肉をそいで入れて出汁をとる。

 次に薄切りに切っておいた脂身の多めの肉を出し、ナイフで叩いて細切れにしていく。ひき肉までは無理でも、なるべく小さめに切った。


「リサちゃん、この大きな木皿にそのキャサの根を入れてね」


 カラカラに干した切り干し大根か氷大根のようになっているキャサの根に、スープの鍋から少しだけ汁を入れて戻し、そこに朝リサちゃんに砕いて貰ったパンを入れる。そうして十分にふやかした後に、細切れにした肉を入れた。


「リサちゃん。手をキレイに洗って、これを手でよーく混ぜてくれる?」

「うん!」


 お目目をキラキラさせながらずっと見守っていたリサちゃんに頼むと、スープに残った薄切り肉を入れて自家製のハーブ塩と香辛料を少し入れて味つけして行く。


「うん、もういいかな。じゃあ、それを今度は丸くしていくよ。こんな感じね?」


 手をしっかり洗ってから、リサちゃんが混ぜた肉を手に取り、楕円形にして中央を少しへこませ、空気を抜くように両手の間をポンポンと飛ばす。そう、作ってみたのはハンバーグだ。


 本当はデミグラスソースくらいは作りたいんだけど、香辛料がもうほとんどないしね……。森でいくつか見つけたけど、胡椒もまだ見つけてないし。春になったらラウルと森の奥まで行って、色々教えて貰ったら何か見つかるかな?


 リサちゃんが楽しそうにハンバーグを作るのを見守りつつ、塊肉を煮ている鍋を見て、肉をひっくり返す。

 後はハンバーグを焼くまで冷やしておきたいので、外に出て雪を木箱に入れて戻り、ハンバーグを並べた木皿をその中へ入れた。


「ねえ、お姉ちゃん!いつお兄ちゃんの誕生日のお祝いをするの?」

「そうね……。夜まで待てないし、お昼にしましょうか!」

「うん!楽しみだね!」


 私はウィトが狩りをしてお肉を確保してくれるようになってから、基本的に三食食べている。テムの町でもお昼は少しだけ食べたが、基本は朝と夕の二食だった。

 それはリンゼ王国でも同じようで、ラウルにお昼ご飯を最初に出した時には驚かれたが、全員育ちざかりだから!と押し切った。


 遠出したりすると食べない時もあるが、やはり三食食べるようになると、ラウルもリサちゃんも栄養が足りたのか目に見えて身長が伸び出した。

 私も今ではテムの町での平均的な八歳の女の子よりは身長が大きくなっているから、やはり栄養は大切なのだ。


 醤油はないけどコトコト煮込んでいる角煮もどきの塊肉の鍋からいい匂いが部屋中に漂い出した頃、ラウルとウィトがが外から戻って来た。


 その匂いにキョロキョロする二人になんとか昼食用だと言って誤魔化したのだった。








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今回は過去にまつわるエピソードがひとつもないんですが( ´艸`)次で過去は終わりです。

どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

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