第31話 二人の事情
「一応国としては奴隷を禁止しているので、国境を越える時には表立って奴隷としては出国出来ないんです。だから手足を縛られ、口にも布を入れられた状態でリサとは別々の木箱に入れられて国境を越えたのですが、この国の街に入る前に奴隷の首輪を嵌める為に木箱から出されたんです」
色々私が無知だったせいで寄り道させてしまったが、やっと二人がどうしてここにいるのか、どうして木箱に入れられていたのかを説明して貰った。
「じゃあその時に逃げ出して来たのね?」
「そうです。僕は妹を、リサを人質にとられて奴隷の契約をされて首輪をされそうになった時に、リサが恐慌状態になって暴れてナイフで腕を伐られ、初めて獣化して拘束から逃げ出したのを見て、僕も暴れてリサを先に逃がしてからなんとか逃げたんですけど……」
拘束は獣化して無理やり解いて逃げ、囮としてリサちゃんとは別の方向に逃げ出したが追いつかれてあの場で切られ、でも命からがら逃げだして私達に出会った、ってことか。
「二人とも助かって本当に良かったわ。あの時は、ウィトが何だか気にしていたからあの場所に行ったんだけど、やっぱり狼だから通じるものがあるの?」
「あの時は、傷からの出血で意識が朦朧としていて……。もうダメだ、誰か助けてって遠吠えを最後にしたかもしれません。はっきり覚えていないのですが」
「その遠吠えをこの家からウィトが聞き分けたのね。凄いわ、ウィト!」
隣に座るウィトの顔を手で挟み、ぐりぐりと強めに撫でさせるとベロンと舐められ、いつものように抱き着いてじゃれていると。
「……本当にウィトさんと仲がいいんですね」
「ふふふ、そうなの!ウィトと出会ったきっかけは、あなたと似ているのよ。ウィトが怪我をした出血で倒れたのが丁度私の目の前でね。放っておけなくて手当をして、それで森で一人だった私について来てくれたの。……そうだ。話ができるのなら、ウィトに聞いて貰いたいことがあるの。私はなんとなく言いたいことは鳴き声と声から察することが出来るだけで、話すことはできないから」
本当はずっと気になっていたのだ。こうしてウィトが私と一緒に居てくれるのは、私の家族になってくれたからだとは思っているし、私のことを好いてくれているのも分かってはいるけれど。でも。
「何をですか?」
「……ウィトの親が亡くなっているのはウィトの鳴き声でも分かったんだけど、本当は元々両親と群れで暮らしていたんじゃないのかって。こうして一緒に暮らせているのは嬉しいし、もうウィトが居ない生活なんて考えれないんだけど、どうしてもそれだけが気がかりだったの」
「ガァウッ!!グルゥウウ、ウォンッ!!」
私の言葉にいつもよりも大きな鳴き声を上げたウィトが、私を気遣っているのは分かるのだけど。
「……ウィトさんは、群れでは暮らしていなかった、両親はあなたと出会う前に魔物に襲われた時に死に別れた、と。あの時あなたに出会わなければ自分も死んでいたと言っていますね。だからそんなに絆が強いんですね。まだウィトさんも成獣ではないのに、なんであなたと仮とはいえ契約して絆を結んでいるのかと思っていましたが。お二人は二人で群れの家族なんですね」
ラウルが通訳してくれた言葉で、やはりあの時に両親は亡くなっていたのだと納得した。でも、二人の絆が強いって傍から見えるのはとても嬉しいけど、契約って?
「え?あの、私は魔獣のこともほとんど知らなかったんだけど、契約を結んだつもりは私には全くないの。確かに呼びかけるのに名前をつけさせてはもらったけど。だって契約を結べば騎獣として従えることになるんでしょう?私とウィトは対等に家族として付き合いたいって望んだんだもの」
そう、一緒に行こうとウィトに告げた時にも、呼び名をつけた時もしっかりと契約じゃなくていいと伝えたのだ。
「ええと、魔獣との契約は、騎獣として従えることではないですよ?確かに人族はそういう契約を結ぶと聞いたことはありますが、獣人の間では相手と魔力を交わして絆を結び、より強く結びつくことを契約と言います。どちらが下とかではなく、お互い対等な関係なんですよ。まあ獣人は知性のある魔獣とは会話が出来る故かもしれませんが」
獣人が知性のある魔獣と会話が出来るということは、狼の獣人だからウィトと会話が出来る訳ではなく、例えば猫の獣人だったとしても会話が出来たってことね。……なんかすっごくうらやましい。対等の契約で、強く絆を結ぶ為なら、確かにウィトと結びたいとも思うけれど。
「……でも私、ウィトと魔力を交わした記憶はないんだけど。あと仮の契約とは、ウィトがまだ成獣していないから、ってことでいいの?」
「……グルルゥ、グル。ウォフッ」
「ああ、成程。そういうことでしたか」
じっと見つめる私からバツが悪そうに視線をそっとそらし、しぶしぶ鳴いた声を聞きとって納得の声を上げたラウルにじっとりとした視線を向けると。
「ウィトさん、説明しますからね!その、水を生活魔法で出してくれていましたよね?あの、魔法で出した水にはその人の魔力が含まれているので、その魔力を契約としたそうです……。いやっ、あの、僕達にくれた水は、水としてしか意味はありませんからっ!!」
「え?そ、それって、もしかして生活魔法で出す水って、本当は人に飲ませるもんじゃない、ってこと?それに私、決してそんなつもりじゃ!」
はあ?もしかして怪我を治療したことを盾に、契約を迫ったってことだよね?え、えええっ、何その命を助けたんだから命をくれっていうジャイアン理論みたいなことは!(混乱中)
「ガウウッ!グルゥ、グルグルグルル、ウォンッ!!……キューーーーン」
「わ、分かった、分かりました、きちんと説明しますからっ!あの、ノアさん。ウィトさんは、決してそんなつもりで水を飲んだ訳ではないそうです。助けてくれたノアさんと一緒に居たいと思ったから、自分で望んで契約の意味なんて知らないだろうノアさんと絆を結びたかった、と。あの、反省しているから嫌わないで、と」
……え?だって、ウィトに水を出したのは、それこそ治療してすぐのことだったよね。その時からウィトは私と契約をして絆を結びたいと思ってくれていたの?そんなの……。
「もうっ!嫌う訳なんてないじゃないっ!私、ウィトのこと、大好きだもの。本当はあの助けた時だって、最初からずっと一緒にいてくれたら、って思っていたんだから!だから……。契約を、私との絆を望んでくれてありがとう、ウィト。これからもずっと一緒よ。よろしくね、ウィト」
不安そうにしょんぼりと項垂れて尻尾まで力なく垂らし、うろうろと視線を彷徨わせてこちらを伺うウィトに飛びつき、頬を思いっきり引っ張って笑うと。
「ウォフッ!ウォンッ、ウォンッ、ウォオオーーーーンッ!!」
さっきまで項垂れていた耳はピンと立ち、尻尾はブンブンと勢いよく突風を起こす勢いで振り回され、喜び過ぎて逆に圧し掛かられて押し倒され、ペロペロと顔中を舐め回される。
「ちょっとウィト、落ち着いて!もう、そんなに舐めないでったら!」
目も開けられず、腕を突っ張ってウィトの顔を押しのけようとしても止まらず、おかしくなってしまいには笑いながら逆にウィトに抱き着いてぐりぐりと顔の涎をウィトのもふもふの毛皮に擦り付けてしまった。
そうしてしばらくウィトとじゃれていたが、すっかりラウルのことを忘れていたことに気づき、慌てて起き上がってラウルの方を見ると。
「本当にウィトさんとノアさんは仲がいいんですね。……羨ましいです」
「え?でも、私とウィトは家族だもの。あなただって妹のリナリサちゃんとは、命を懸けて助けるくらに仲良しなんでしょう?」
家族でも愛が無い関係もあることは前世の家族のことを思えば理解できている。でも、ラウルはリナリサちゃんのことを死にそうになりながらも訴えるほどに愛している筈なのだ。
「確かにリサのことは可愛い妹です。僕の家族は仲がいい家族でした。でも……。父が死んで部族を追い出され、母が無理して働いて亡くなり、妹と二人で身を寄せた孤児が集まった集落でも、奴隷商人の襲撃があった時には見捨てられました。……だからもう、リサには俺しかいないし、俺にもリサしかいないんです」
ぼんやりと、どこか虚空を見つめるかのように暗い瞳で語った二人の境遇は、両親が亡くなっているのは私と一緒だったが、それでも今まで何度も裏切られ続けて来たのだとその瞳が語っていた。
人の境遇や幸不幸なんて、その人がどう感じるか次第だから分からない、そう言ってしまえばおしまいだが、いきなりの事故死からの転生、そして両親の死とこれまで境遇に振り回されて嘆いていた自分がちっぽけに思えて来る。
……ラウル君は強いな。昨日だって、奴隷商人に囚われていたという理不尽なことから抜け出す為に怪我をしたのに、たまたま怪我の手当をした私のことを真っすぐに見てお礼を言っていた。私だったら、どうして、なんでこんな、私だけ、と嘆き、それに囚われて心を閉ざしてしまっただろう。
「……もしかしてあなた達も、帰る場所がないの?私も両親が亡くなって、叔父から逃げて家を出て来たの。ウィトも両親がいないし、ねえ、良かったらここで一緒に暮らさない?こんな森の中だから、買い物も出来ないし他の人と話すことさえ出来ないけど。もし国に帰ることに拘らないのだったら、私達と家族になる?」
ふっと、気づくとそんな言葉が出ていた。私もウィトが居ても、人と話せることがうれしくて、本当はずっと居ればいいのに、と思っていたのだ。
出会ったのは昨日だけど、ウィトの時と同じように、彼等なら家族になれるんじゃないか、と感じられたから。
寂しいからとりあえず一緒に温もりを分かち合う為でもいい。家族なら、自分で目標を見つけたのなら笑顔で送り出すことも出来るだろう。だから。
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だるくてストックが増えませんが、修正がほぼいらなかったので予約しておきます。
副作用、しつこいですね……( ;∀;)
明日からは復活したいです。
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