悪魔に取り憑かれた少女と、悪魔を祓うために生きる少年

@urontya21

プロローグ

 人の肉の焼ける臭いが、鼻の奥を突き刺す。


 中央の広場は逃げ惑う人々でごった返しており、時折街中で上がる炎が、彼等の顔をオレンジ色に照らしていた。シンは、人の群れの中で一人立ち尽くしている。遠くで、女性の悲鳴とも、鳥の鳴き声とも取れるような、甲高く硬い音が轟いた。シンは、音の方向を見つめながら両親の話を思い出し、この鳴き声は彼等の習性であることも思い出していた。


「シン! 何故こんなところにいるんだ!」


 逃げ惑う人の群れの中で直立したままのシンを、軍服を着た男性が抱え上げる。シンは、抱え上げられながらも、鳴き声のした方向を見つめていた。視線をそのままに、男性へ言葉を発する。


「オッタおじさん、僕はこの声を知ってるよ」


 軍服の男性はシンを抱え上げると、人の流れに乗って駆けだした。人々の間を縫うように進んでいく。


「パパとママは、この声の先にいるんだよね?」


 また、鳴き声がした。地響きとともに大気が揺れている。群れの中の数名が転倒し、耳をふさいで叫び声をあげていた。シンは男性の肩から顔を出し、音の方向へ視線を向けたままでいる。


「そうだ。俺もこれから行かなくちゃならない。お前を安全なところへ送り届けたらな」


 すでに、はじめにいた場所からは500mほど離れていた。子供を抱えて疾走した影響か、男性は息を弾ませ、額には米粒ほどの汗が滲んでいる。そのうちの一滴が、こめかみの辺りで弾むように跳ね上がり、宙を舞った。


「一般市民はこちらへ避難してください! 女性、子供は優先的に車へ!」


 太く高い男の声が聞こえた。人の群れの流動性が固くなる。男性もそれに合わせて移動する速度を落とした。走るのは止めて歩いているものの体の熱は収まらないようで、顎の辺りまで汗が垂れてくる。シンは、特に表情を動かさずそれを見つめていた。


「この子を頼む」

「オッタ少佐! 承知いたしました!」


 軍服の男性が、同じく軍服を着た若い男性にシンを手渡そうとする。若い男性がシンを抱え上げたそのとき、遠くで大きな爆発音が鳴った。これまでよりも数段大きい衝撃が、人々の足元を揺らす。同時に、黄金色の炎が天へと昇っていった。炎は辺りを昼間のように照らし出し、あらゆる影を追いやるように引き延ばしていく。


「パパ、ママ……」


 シンは、立ち昇る炎を不安そうに見つめていた。

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