第6話 初めての依頼
偵察依頼のみでそれも動物型モンスターなら対策も考えることができるから他のBランク依頼よりリスクと報酬ではまだ安全だ。
「よし、これにしよう」
「はい、頑張りましょう!」
…………今回 ガイナス(仮)とシルヴィアが調査に向かったのは街から少し離れた森の奥地だ。
ちなみに今回は過去にメルシーとハインが共同で作っていた転移魔法のスクロールで移動する。
調査には少数化のためスキル『隠蔽』を持つ私と補助のできるシルヴィアで行くことになった。
……しかしまじでハインすごくね?
「(……この中か)」
森の中にあった洞穴から獣の独特の匂いを感じた。
「(そうみたいですね。それにしても私達薬師さんみたいな匂いがしますね)」
事前に匂い消しのため薬草の匂いを付けたローブをまとっている。
しっかり水で落とせるところもポイント高いぜ。
試しに小石を一つ洞窟に投げてみる。
コツンコツンと音が反響はするが特に反応はない。
侵入においての警戒心はそこまで高くないと判断できる。
「……『ライトオン』」
シルヴィアが小さな光の灯をともす。
洞窟自体は規模は小さくすぐに最奥が見えた。
獅子の顔に胴体、山羊の頭もある。
そして毒蛇のような尻尾を持つ巨大なモンスターだ。
その大きさは普通のライオンの3倍ほどはある。
……これは、確かに強そうだな。
『ガゥ……』
「……っ!?」
突然キマイラが吠えた!
「!?」
シルヴィアが口を思いっきり塞ぐ。
俺はなるべく音をたてず彼女の元へと駆け寄った。
「(だ、大丈夫です。ちょっとびっくりして……それに気づかれてはいません)」
彼女の『魔法結界』があるため準備さえあれば気づかれて攻撃されても撤退はできるはず。
「(これくらいが近づく限界かな?)」
「(はい、これ以上近づいてしまえば戦闘になります)」
「(了解。じゃあここから観察を続けて何か異変があったら共に情報共有)」
「(はい)」
よし、とりあえずはこれで大丈夫だろう。
俺たちはそのまましばらく待つことにした。
***
「(なんか、変な感じだな)」
「(えぇ……)」
あれから数時間経ったが何も変化がない。
ただずっとその場で寝そべっているだけだ。
「(まさかとは思うけど……あのキマイラって奴はここらで餌を食ってるだけじゃないのか?だとしたらわざわざ冒険者に討伐させてまで倒す必要ないんじゃないか?)」
「(そうもいかないようです。最近は人的被害がなくても家畜が食べられて全滅してしまう事案が少なくないとのことですよ)」
「(なにそれ最悪じゃん)」
「(はい。なので今回の依頼は緊急性が高いということでBランクになっています。もちろん依頼料は通常の同ランクの1.5倍は頂けるようです。ただ……)」
「(なんだ?言ってみろよ)」
「(最初の被害が少ないときから、もともとCランクの任務だった。とのことです)」
あーなんだか嫌な予感がしてきたー
生活魔法が放つ少ない光の中でキマイラの様子をせっせと記録していたがそろそろ引く頃合いかもしれない。
いくらライオンの3倍サイズで大食いでも家畜全滅なんてありえない。
家畜の規模は知らないけど。
しかしキマイラ討伐依頼は主人公達は受けないはずなんだ。
「(……もう十分だ。引き返すぞ)」
「(はい。……っ!結界に反応があります!)」
何者かが来たと言うことか!
「(何が来たかわかるか)」
「(反応はキマイラと比べて小さいですね。数は複数です)」
小さくて複数、しかしキマイラとの挟み撃ちは避けたい。
……どうするべきか。
「(ここは一度逃げるぞ。俺の予想が正しければおそらくあいつらは……)」
「(……わかりました)」
俺はそのまま洞穴の外へと向かう。
するとそこには先程はいなかったはずの人影が3つあった。
「(ゴブリンか)」
キマイラが気づいてしまうからせめて騒ぐなよ。
「(……あの今思いついてしまったのですが……)」
「(思いつく?何をだ?)」
「(あのゴブリン達をキマイラらに誘導したらもっと調査が捗るのではないかと)」
……確かにそれはいい考えだ。
しかし……。
「(ダメだ。安定した調査が優先だ。それとシルヴィア……)」
「(はい)」
「(この作戦は君ありきで行っている。だからもし万が一失敗した時のことを考えるとリスクが高い。それに……)」
『グギャギャ!!』
『ギャギャ!!』
『……ガゥ?』
終わったー!
ゴブリンどもそこをどけぇ!!
君らは私達を守る肉壁じゃー!
「(ガイナスさん!?)」
シルヴィアを担ぎゴブリン達を通り抜けて洞穴から脱出した。
幸いゴブリンの声にしか反応してない。
私達を追跡するためゴブリンが洞穴から出ようとすると……
『グルルルゥ……』
キマイラが既にゴブリン達のもとへ接近していた。
『ギャギョギョー!?』
ドラゴンと同ランクの危険度なキマイラと低級魔物ではどちらか勝つかなど予想がそのまま結果に直結する。
「(瞬殺か)」
全てゴブリンを丸呑みにすると洞穴の奥へと戻っていった。
「……ふぅ、さすがに焦ったぜ」
「そうですね……」
「それにしてもなんでこんなところにキマイラがいるんだ?」
「……この森には駆除依頼があるゴブリンキングがいましたよね。配下のゴブリンを餌とするためではないでしょうか?」
すまんゴブリンキング始めて知ったわ。
「ありそうだな。躊躇いなく食ってたし」
約半日をかけた偵察から私達は撤収した。
鑑定スキル?は感覚的には何も反応がなく死にスキルかもしれない。
家畜を襲いに行くこともなかった。
__________
翌日、ギルドにて。
「お疲れ様です!」
「おう、ありがとう」
受付嬢さんが差し出した報酬を受け取る。
「えっと、これが今回の依頼の分になります。それとこれはおまけで付けておきますね。またよろしくお願いします!」
「あぁ、助かる」
俺は昨日の調査結果を早速まとめた資料を彼女に渡す。
「……なるほど。畜産動物以外にもゴブリンを餌にするためにあそこを根城にしている可能性ですか」
「まぁあくまでも推測だが」
「いえ、十分にあり得そうです。依頼書にも書いてある通りキマイラはゴブリンを食べていたんですよね?そしてそのキマイラはゴブリン達の鳴き声によく反応しているのでしたら。もしかすると……」
「……何かあるのでしょうか?」
シルヴィアが不安げな顔を見せる。
「ゴブリンキングとゴブリンの群れ、仮に奴らをキマイラ以外でも捕食するとしたらな」
「危険な魔物が集まるかもしれない……ですか」
「どうだろう?俺たちは見てないからなんとも言えない」
危険な依頼が増えるかもしれない。
ハインでなきゃヤバいかも。
……あっ(察し)。
何かなかったか?
魔物襲来的なイベントが。
ハインが大活躍したやつ。
もしくはガイナスがぐぬぬさせられたイベント。
「……さん」
思い出せ、ガイナスのプライドへし折るストーリーを!
「……イナスさん!」
雑魚にやられる何か……あった、ロックドラゴンの次の次のざまぁ!
「ガイナスさぁん!!」
「っ!?どうした?」
シルヴィアの声で意識が思考から戻る。
「大丈夫ですか?急にボーッとしてましたけど……」
「悪い、少し考え事をしていてな。それでどうした?」
「はい。実は……最近この辺りの森に魔物の集団が近づいているみたいなんです。まだ詳しい情報までは掴めていないのですが……とりあえず皆さんの邪魔になりますので受付からはどきましょう」
「あはい。ごめんなさい」
周囲にペコペコしながら受付から遠ざかる。
「……最近ガイナスのやつ変わったな」
「直接話してないけどよぉ、なんというか偉そうぶることないし女の尻追っかけなくなったしなぁ?」
「まぁさっきみてーにシルヴィアちゃんに恥かかせるのはどうかと思うけどよ」
冒険者達の評価は残念なままであった。
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