第43話 「恥ずかしいんだから何か言ってよ」

「あーーー!! ダメだ! ダメだ! 春斗遊びいこうぜ!」


 昼下がりの午後、ついに省吾くんが発狂した。

 あんなに一生懸命に描いていた絵をぐしゃぐしゃっと丸めてしまう。


「もったいない!!」


 思わず、ぐしゃぐしゃにされた画用紙を見て声をあげてしまう。


「こんなんじゃダメだ、ダメだ。やり直しだ」


 省吾くんがぽいっと、何の未練もなく画用紙をゴミ箱に捨ててしまった。


「せっかく、上手だったのに……。捨てるなら欲しかったなぁ」


 隣にいた陽葵も、もったいなさそうにゴミ箱を見ていた。


「あんなの見せられるか、そんなことよりみんなで川に泳ぎでも行こうぜ」

「俺はいいですけど……」


 俺がそう言うと、省吾くんは雅文さんを呼びに二階にあがっていった。


「陽葵は行ける?」

「うん、大丈夫だよ!」


 こんなこともあろうかと、俺は今回はちゃんと水着を持ってきていたのだ!

 前回みたいな着衣水泳大会はごめんだったからだ!


「よーし! 雅文オッケーだってさ。春斗、陽葵ちゃん準備して泳ぎ行こうぜ」


 省吾くんが二階から意気揚々と戻ってきた。

 あれ? 誰か一人忘れてないでしょうか。


「そ、それはいいんですが佳乃さんは誘わなくていいんですか?」

「あのゴリラを誘ったらいつもひどい目にあうだろ、いい加減学べよ」


 省吾くんが毅然とそんなことを言い放つ。

 ……そういうことするから、ひどい目にあうんじゃないかなぁ。


「とりあえず、今回はちゃんと水着とか準備していこうぜ。10分後に玄関前に集合な」


 そう言って、省吾くんは一度自室に戻っていった。




※※※




 やっぱりな!

 絶対こうなると思ったんだ!


 泳ぐ用意をして陽葵と一緒に一階に下りると、用意ばっちりな佳乃お姉さまがうきうきと玄関前で待ちかまえていた。

 お姉さまは、大きい浮き輪とビーチボールを脇に抱え、目にはサングラスをかけて準備ばっちりだ。既に水色のビキニに着替えていて、いつでも泳げる状態になっていた。

 佳乃さんが少し動くたびに、大きいブドウ畑に地震が起きて非常に目に悪い。


 ……佳乃さんの震源地に目をやっていると、隣の子がすごい勢いで緊急地震速報を鳴らしながらにらんできたので、すぐにその震源地から目を遠ざけた。


「おーい、早く行こうよ」

「……なんであねごがここにいるんです?」

「泳ぎに行くって聞こえたから」


 ほぼ俺たちと同時に省吾くんと雅文さんも下りてきた。

 はぁと、省吾くんが大きなため息をついた。

 半分こうなるの分かってたじゃないですか、省吾くんもいい加減学んでください!


「か、佳乃さんはそのままで行くんですか!?」

「そうだけど?」


 ビキニにサンダルでそのまま川辺に行こうとする佳乃さん。


「さ、さすがにそれは」


 陽葵が大きめのタオルを佳乃さんの肩にかける。


「おー、ヒマリは優しいなぁ」

「い、いえ」


 陽葵と佳乃さんがそんな会話をしながら、先に外に出て川辺のほうに歩きだしていってしまった。


「よしっ! このまま俺たちだけ別行動するかっ!」


 省吾くんがとんでもないことを提案してきた。


「そ、そんなことしたら俺が陽葵に粉々にされますし、佳乃さんにも消し炭にもされちゃいますよ!」

「くそぉ……」


 俺がそう言うと、渋々、省吾くんが玄関を出て川辺のほうに歩きだした。


「雅文さんは大丈夫なんですか……?」


 黙ってことの成り行きを見ていた、雅文さんに声をかける。


「俺はトレーニングするだけだから」

「そ、そうですか」


 あっ……絶対この人、ガチ泳ぎする気だ。

 

 そんな会話をしながら俺たちも陽葵と佳乃さんをおって、川辺のほうに向かうのであった。




※※※




「は、春斗くん見ないでね」


 川辺に到着して、俺も含めみんな水着に着替えた。

 陽葵だけは今回は水着を着てこなかったらしく、たった今、岩陰に隠れて着替えをしていた。陽葵の服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえきて妄想がかきたてられてしまう。


 他の三人はというと、着替えが終わるとすぐに川辺に飛び込んで遊んでいた。

 佳乃さんの大きな笑い声がこちらにまで聞こえてくる。


「陽葵まだー?」

「も、もうちょっと待って」


 陽葵の着替えの見張りをしていたのだが、暑い日差しの中、ただじっと待ってるものつらいものがあった。

 何より、既に泳いでいる三人が気持ち良さそうだった。


「お、お待たせ……」


 それから少しだけ時間が経つと、恥ずかしそうに陽葵がこっちにやってきた。


 ……てっきりスクール水着に着替えているものだと思っていたが、予想とは違う水着に着替えた陽葵がそこにいた。

 

「ど、どう?」

「……」

「恥ずかしいんだから何か言ってよぉ……」

「に、似合ってるよ」


 フリフリとした白いフリルがついたビキニ型の水着だった。

 可愛らしい水着で、陽葵にとてもよく似合っていた。


「よ、よかったぁ、春斗くんが前に見たいって言ってたからこの前買ってきたんだよ」


 陽葵の白い素肌が見えて、何だかドキドキしてしまう。


「ほ、ほら陽葵、みんな待ってるから早くあっちに行こう」

「ねぇねぇ、ドキドキしてくれた?」


 陽葵が俺の腕を組んでびったりとくっついてくる。

 今、くっつくと肌と肌とが直接当たるわけで……。

 陽葵の胸部の一番柔らかいところも俺の腕にちょいちょいと当たっていた。


「ドキドキしてるからっ!! 早く泳ぎに行こう!!」

「えへへへ、分かった」


 恥ずかしくてやけくそ気味にいったのだが、陽葵はますます俺にくっついて満足そうな顔で笑っていた。

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