八話
ライゴウがワールを捕縛したことでルルとリルも投降して戦いは終了した。そして現在彼の前にはトウマを初めとする異世界から来た十三人の異世界人が集まっていた。
「……あんなものを見せられては異世界に転移したという話も信じるしかないな。貴方の言葉を疑ってしまい、申し訳なかった」
「いえ、分かってもらえたらそれでいいですよ」
ナツミが言うあんなものとはワール達が乗るソルジャーがこの世界に転移してきた光景のことであり、彼女はライゴウの言葉を疑ったことを頭を下げて謝罪して、ライゴウは別に気にしなくてもいいと返事をする。
「ねぇ? 一体何の話?」
ライゴウとナツミの会話を聞いてソルジャーから降ろされ、ライゴウの呪術で作られた手錠で両手を拘束されたワールが隣にいるアレックスに質問をする。ちなみにルルとリルの二人も姉と同様にソルジャーから降ろされ、両手を手錠で拘束されていた。
「ん? 冗談みたいな話なんだが、ここは俺達がいた世界とは違う異世界らしい。まあ、詳しい説明はあのライゴウってのが今からしてくれるそうだ。……そうなんだろ?」
「はい。もちろんです」
アレックスがワールに答えてからライゴウに話しかけると、二人の会話を聞いていたライゴウは頷き、この場にいる全員に今の状況を説明した。
「まず、もう一度言いますけど、ここは皆さんがいた世界とは別の異世界です。そしてこの世界では異世界からロボットとその操縦士が転移してくる百機鵺光という現象が起こって、皆さんはそれでここに転移してきました」
『『……………』』
異世界に転移という単語を聞いてトウマ達異世界から来た十三人全員が戸惑いを見せるが、ライゴウはそれに構わず話を続ける。
「俺達陰陽師は異世界から来たロボットの操縦士との交渉、そして今回のようにロボットが攻撃を仕掛けてきたら応戦して鎮圧することを仕事としています。今回は偶然この近くを通りかかった時に百機鵺光の前兆、鳥の鳴き声のような音が聞こえてきて、駆けつけてみたら皆さんが転移してきたというわけです」
ライゴウの話を聞いてトウマ達異世界から来た十三人は信じられないという表情を浮かべていたが、少ししてからルルが口を開いた。
「……とても信じられる話じゃないけど、確かにそれだったら宇宙にいた私達がいきなり地上にいることも納得……できる……かも?」
「ちょっ! ちょっと待てよ!」
ルルが自分の言葉に疑問を抱きながら言うと、そこに金髪で耳にピアスをした十代の男が大声を出す。
「異世界からロボットと操縦士が転移って言うけど、俺達はロボットになんか乗っていねぇぞ! 何で俺達まで転移したんだよ!?」
(彼はダニエル・アードラーか……。何というか予想通りの反応だな)
ライゴウは金髪の男、ダニエルの言葉を聞き内心で呟いた。
アニメのダニエルはトウマと同じ学校のクラスメイトなのだが、ことあるごとにトウマを見下して嫌がらせをするキャラクターとして登場していた。そして父親が地球にある大企業の社長である彼は普段は自信家なのだが、戦闘や今のような未知の状況に置かれると余裕をなくして取り乱し、周囲に当たり散らす場面がアニメではいくつもあって、それはここでも同じようだった。
「百機鵺光についてはほとんど分かっていなくて……。ただ、昔の百機鵺光の資料によるとロボットの操縦士だけでなく、ロボットの近くにいた人達も転移した例がいくつもありました」
「……っ!? つまり全部トウマのせいってことかよ!」
「えっ? そんな……」
「待てよ! 何で全部トウマのせいになるんだよ? そもそも、トウマがあのロボットに乗って戦ってくれなかったら、俺達はコロニーでの戦闘に巻き込まれて……」
「うるせぇっ!」
ライゴウが百機鵺光でロボットの操縦士以外の人間も転移してきた例があることを言うと、ダニエルが憎しみがこもった目でトウマを睨み、そんなトウマの前に長身で茶髪の十代の男が庇うように立つ。茶髪の男は善田友成というトウマの幼馴染で、アニメでも今のように嫌がらせをしてくるダニエルからトウマを守っていた。
このままだとダニエルと友成の間で争いが起こりそうな雰囲気が生じたので、争いが起こる前にライゴウが異世界人達に声をかける。
「皆さん。もし良かったら俺に着いてきませんか?」
「何? それはどういうことだ?」
ライゴウがそう言うとナツミが彼の言葉の意味を聞く。
「俺達陰陽師は貴方達のような百機鵺光でやって来た異世界人の対応の全権を国から認められています。そして俺に着いてきてくれたら、俺は皆さんが元の世界に戻る時まで寝床や食事を提供することができます」
『『……………!?』』
ライゴウの思ってもいなかった提案に、トウマ達異世界人のほとんどが驚きながらも歓喜の表情を浮かべる。しかし数人、喜びの表情を浮かべていない者もいて、その中の一人であるワールが疑わしそうにライゴウを見て口を開く。
「それで? 見返りは何なの? まさかタダで私達の面倒を見てくれる訳じゃないんでしょう?」
「そうだな。そこの傭兵の言う通りだ。いくら私達異世界人の対応が仕事だと言っても、面倒を全て見てくれるというのは気前が良すぎる。国からの指示だとした、そのまま私達を国に引き渡せばいいだけだからな?」
ワールの言葉を引き継いだのはナツミで、二人の女性に探るような視線で見られたライゴウは内心で苦笑を浮かべて頷いてみせる。
「はい。二人の言う通り、もちろん寝床と食事の見返りはもらいますよ? 俺が求める見返り……それは情報です」
『『情報?』』
ライゴウが求めた見返りが意外だったのか、トウマ達の全員が同時に呟く。
「そう、情報です。当然、貴方達のロボットの情報も欲しいのですけど、それ以外に貴方達の世界の歴史、街の様子などといった様々な情報が欲しいのです」
「え? 機体のデータはまだ分かるが……歴史とか街の様子を話すのが見返りになるのか?」
アレックスが理解できないといった感じでライゴウに聞くと、ライゴウは再び頷いてみせる。
「なりますよ。貴方達にとっては何でもない話でも、俺達にとっては新しい発明や発展の手がかりが隠されていることがあります。この世界は異世界人達から聞いた話を参考にして、様々な新しいものを作ってきました。そして俺の家、『松永家』は三百年前から積極的に異世界人達を保護して、その情報を集めてきたのです」
「なるほどね」
ライゴウの話を聞いて一応は納得できたのかワールは警戒を僅かだが緩め、ナツミは目を閉じてしばらく考えた後、目を開いてライゴウの方を見た。
「……分かった。私達にはこの世界で行くアテがない。ここは貴方に着いて行くことにしよう。よろしく頼む」
ナツミはライゴウに着いて行くことに決めて、それに反対する者は一人もいなかった。
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