七話

「おい! ボーッとするな! 来るぞ!」


「え? ……うわっ!?」


「はぁっ!」


「やあっ!」


 トウマが乗るドラグーンに見惚れていたライゴウだったが、アレックスの声によってワールとリルの攻撃に気付き間一髪で避けることができた。


「全く……油断するなよ。確かライゴウって言ったな? ここは一旦協力して戦うぞ。構わないな?」


「はい! 是非よろしくお願いします!」


(憧れのロボットとの共闘! 俺の夢がまた一つ叶った! 今日は本当に良い日だ!)


 憧れのロボットとの共闘という、ロボットと競い合うのと同じくらい待ち望んだ夢が叶ったことにより、ライゴウはアレックスからの申し出に興奮気味に即答する。


「あ、ああ、そうか? それじゃあ俺は赤いヤツとやるから、お前さんはそのまま黒いヤツと。坊主は青いヤツの相手をしろ」


「了解です」


「わ、分かりました」


 アレックスはライゴウとトウマに指示を出し、二人の返事を聞くと赤いソルジャー、リルが乗る機体に攻撃を仕掛ける。


「それじゃあ、行くぜぇ!」


 アレックスの気合いの入った声に応えるように彼の乗るソルジャーが高速で飛んだ。


 アレックスのソルジャーは彼専用のカスタマイズ機で、背中に大型の翼とブースターを装備しているため大気圏内での飛行も可能となっており、高速で近づいて攻撃して離脱する一撃離脱の戦法を得意としていた。


「食らいやがれ!」


「………!」


 アレックスは機体が持っている武器、中世の騎士が持つような大型ランスを前に突き出し加速を活かした突撃をする。一瞬で最高速度に至った大型ランスの突撃は、まともに受ければソルジャーの装甲など容易く貫けるのだが、リルはそれを大型の盾を使って正面から受けるのではなくランスの矛先をズラすことで受け流した。


 自分の攻撃を受け流されたアレックスは、そのまま速度を落とすことなく上空へと飛び、外部音声でリルに話しかける。


「今のを防ぐだなんて、中々ガードが堅いじゃないの?」


「べーだ! リルはそう簡単に落ちる安い女じゃないのよ、オジサン!」


「女の子だったのかよ? だけど俺はオジサンじゃない。まだ二十代だ!」


 アレックスの言葉にリルも外部音声で返事をして、戦っているアレックスは戦っている相手が女性だと知って驚きつつも、今度はリルが乗っているソルジャーに向けて大型ランスに内蔵されているマシンガンを発射しながら再び突撃をする。


「~~~! いい加減に、して!」


 リルはマシンガンの銃弾を盾で防ぐと右手に持つ剣を振るう。狙いはこちらに迫ってくるアレックスのソルジャーではなく、それが持つ大型ランスで、まず武器を破壊する目的であった。


「おおっと!」


 だがアレックスはリルの狙いに気づくと大型ランスを下げて、自分に向けて振るわれた剣を左手に持つ円形の盾で防ぐ。そのお陰で機体と大型ランスは無事だったが、盾に大きく削られた傷が生じてアレックスは舌打ちをする。


「チッ! やってくれたな!」



 そしてアレックスとリルが戦っている時、ドラグーンに乗ったトウマも青いソルジャー、ルルが乗る機体の相手をしていた。


「は、速い!?」


「この、ちょこまかと……!」


 戦闘中、トウマが焦った声を出し、ルルが僅かに苛立った声で呟く。


 ルルのソルジャーは先程のライゴウの攻撃により武装のバズーカとマシンガンの両方を破壊されていた。それに対してトウマのドラグーンは新開発のビームを連続で発射するビームマシンガンと、ビームで刀身を作るビームブレードを装備していて、戦力だけで言えばトウマの方が圧倒的に有利であった。


 しかしルルは巧みな操縦技術で常にビームマシンガンの射線の外に移動しながらドラグーンに近づき、逆にドラグーンを捕縛しようとする。いくら新型の操縦システムによりドラグーンに操れると言っても、戦闘回数が元の世界でのを合わせても五回もないトウマは、ルルの動きに翻弄されてなんとか捕まらないように逃げ回ることしかできずにいた。


「クソッ! ビームさえ! ビームさえ当たれば勝てるのに!」


 まだ近くに一緒にこの世界へと来た実の姉であるナツミや友人達がいる状況でビームマシンガンを乱射することはできない。そんなトウマの焦りが更に銃の照準を合わなくしているのだが、焦っているのは機体のスピードがドラグーンの方が上で中々捕まえられないルルも同様であった。


「本当に嫌になる……! あの機体のスピードに反応速度! それに……っ!?」


「うわあああっ!」


 ルルの言葉の途中で、いよいよ我慢が出来なくなったトウマがビームマシンガンを発射する。しかし全く狙っていない状態で撃ったため、ビームマシンガンから放たれた数発の光の銃弾は見当違いの方向へ飛んでいき、地面や木々を吹き飛ばした。


 ルルはビームマシンガンによって吹き飛ばされた地面や木々を見て、その威力に冷や汗を流して呟く。


「あの威力、一発でも当たったらひとたまりもないわね……。一体どうやって捕まえたら……」


 トウマのドラグーンとルルのソルジャー。二体のロボットの鬼ごっこは続く。



(おおお……! やっぱりロボット同士の戦いはカッコいいな。アニメで見た戦いを実際に見られるなんて本当に感激だよ。……だけど)


 アレックスとリル、トウマとルルの戦いを見ていて感動していたライゴウだったが、冷静になって周囲を見てみると自分達の戦いのせいで森に少なくない被害が出ているのが分かった。


「流石にこれ以上戦いが長引くのは不味いし、そろそろ終わらせましょうか」


 そう言うとライゴウは自分の前にいる黒いソルジャー、ワールの機体に目を向ける。


「そろそろ終わらせる? はん! もう勝ったつもりかい? 大した自信じゃないか?」


 ライゴウの言葉を聞いたワールが外部音声でライゴウに鼻で笑ってみせると、彼は轟音蜘蛛の中で彼女のソルジャーを注意深く観察しながら口を開く。


「……この世界は今から三百年以上昔から百機鵺光の危険にさらされて、異世界からやって来るロボットはこの世界より何百年、何千年と進んだ科学技術で作られた高性能な機体ばかりだった。そんなロボットに俺達陰陽師がどうやって勝ってきたと思う?」


「異世界? 陰陽師? 一体何の話?」


 ワールはライゴウの言葉の意味が理解できず聞き返すが、ライゴウはそれに答えることなく自らが乗る轟音蜘蛛を動かした。


「それを今教えてあげますよ!」


「っ!? ちっ!」


 背中の二本の昆虫の脚、ブースターから大量の蒸気を噴出して高速で迫って来る轟音蜘蛛を、ワールのソルジャーは右手に持つ斧を振るって迎撃しようとするのだが、ライゴウはそれを避けて黒いソルジャーに接近すると術式を発動させた。


「急急如律令! 鎖人縛!」


「なっ!? こ、これは……!」


 ライゴウが術式を発動させた瞬間、ソルジャーのコックピット内に突然何本もの鎖が現れてワールの体を拘束する。操縦士の指示がなくなった黒いソルジャーは急に動きを止めたことで体勢を崩し、地面に倒れてしまう。


「ロボットの最大の弱点はやはりそれを操る操縦士自身。俺達陰陽師は異世界から来るロボットに対抗するためにこの三百年、式機神だけじゃなく操縦士を無効化する術も研究してきたんですよ」


 ソルジャーのコックピット内に現れた鎖は、轟音蜘蛛のと同じライゴウの呪術で作られたものであった。彼は地面に倒れた彼女に自分が勝った理由を説明すると、今も戦っている異世界のロボットの操縦士達に聞こえるように大声を出した。


「そこのロボット達! もう勝負はつきました! これ以上戦っても無意味です! 戦闘を止めてください!」

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