五話
ライゴウが転生したこの世界には「陰陽師」と呼ばれる者達がいる。
陰陽師は元々、星や月の動きを観測して季節の変わりを予測したり人の運勢を占うことを専門とする者達であった。しかし長い歴史の中で「呪禁師」と呼ばれる薬や呪術を扱う者達を取り込むことを切っ掛けにその在り方が変わることになる。
呪禁師を取り込むことによって天体の観測と占いの他に薬や呪術も取り扱うようになった陰陽師は、それに加えて海外から伝わってきた錬金術と蒸気機関に関する知識、百機鵺光で異世界よりやって来たからくり仕掛けの巨人の操縦士達が伝えた異世界の科学技術と魔導技術をも取り込み、その結果かつての陰陽師と大きく違う存在となった。
現在の陰陽師達は、錬金術と異世界の魔導技術を取り込んだ呪術によって特殊な蒸気機関を作り出し、蒸気機関が生み出す力を使って大がかりな工事から治安の維持まで様々な仕事に従事する者達で、その中で最も重要な仕事が百機鵺光の対応である。
百機鵺光でやって来る異世界の者達は必ずこちらに友好的というわけではなく、中には自分と一緒に転移してきたからくり仕掛けの巨人を使い悪事を働く者だっている。しかし一体で百人の兵士を超える戦力を持つからくり仕掛けの巨人に通常の軍隊では太刀打ちできるはずもなく、そこで陰陽師の出番となる。
目には目を、歯には歯を。そしてからくり仕掛けの巨人にはからくり仕掛けの巨人を。
呪術で蒸気機関と、それで動くからくり仕掛けの巨人「式機神」を作り出すことに成功した陰陽師達は、異世界から来るからくり仕掛けの巨人と交渉、あるいは戦うことを望まれたのだった。
陰陽師の家に生まれたライゴウはこの話を聞いた時、異世界からのロボットを実際に見られる機会がある上に、自分だけのロボットを手に入れることができると大喜びした。
それからライゴウは寝食を忘れて陰陽師の修行に励み、前世のロボット知識を使い自分だけのロボット、式機神を作り出した。それが轟音蜘蛛である。
(はは……! ついに、ついにこの時がきた! 自分が作り出した自分だけのロボットに乗って憧れのロボットと戦う! ロボット好きなら一度は夢見た展開のハズ! この世界に転生して陰陽師になって! そしてこの瞬間に立ち会えて! 俺は本当に幸せ者だ!)
百機鵺光は連日で起これば何年、何十年と起こらない日々が続くことだってある。だからこそライゴウは、轟音蜘蛛を完成させてロボットの相手をする準備が整ってから今回の百機鵺光が起こった幸運に感謝をして、目の前にいる三体のソルジャーを興味深く観察する。
(さあ、彼女達はどう出るんだ?)
「何あれ? あれもソルジャーなの? 一体何処から現れたの?」
「なんだか強そう……」
ソルジャーのコックピットでルルが突然現れた鎧武者の巨人、轟音蜘蛛を見て呟くと通信機からリルの声が聞こえてきて、彼女はそれに声には出さないが頷き同意する。
青と赤の甲冑を身に纏った轟音蜘蛛は、背中に大砲を背負い両腕にそれぞれトゲつきの鉄球を装備した重装甲重武装の機体で、見る者に凶悪な印象と威圧感を与えていた。
そんな凶悪そうな機体がいきなり何もない所から現れたことにルルがどうするべきか考えていると、通信機から今度はワールの声が聞こえてきた。
「ふん! あんなのただのこけおどしよ! あんな小型機、これで!」
ワール達が乗るソルジャーはライゴウの轟音蜘蛛の二倍近い大きさで、そんな小型機なんてすぐに倒せると考えたワールは自分の機体が持つマシンガンを撃とうとしたのだが、それより先にライゴウが行動に移った。
「っ! させない!」
「………!?」
ワールのソルジャーの動きを察知したライゴウは右腕に装備した鉄球を発射して、ワールのソルジャーは鉄球の直撃をくらって後方へと吹き飛ばされた。そして彼は吹き飛ばされたワールのソルジャーを、正確には吹き飛ばした自分の鉄球を見て内心で感動していた。
(やったぞ! 俺の轟音蜘蛛の武器は異世界のロボットにも通用する! やっぱりロボットと言ったらロケットパンチ的な武装だよな!)
ロボットの代表的な武装と言えばロケットパンチと考えているライゴウは最初、轟音蜘蛛の腕をそのまま飛ばして武器にすることを考えていたのだが、それでは手の指の関節がすぐに崩壊してしまうので代わりとして考えたのが、この両腕の鎖で繋がったトゲつき鉄球を発射する武装である。ライゴウはトゲつき鉄球とロケットパンチを組み合わせたこの武装を気に入っており、気に入っている武装が異世界のロボットにも通用した現実に興奮を隠せなかった。
「姉さん!」
「お姉ちゃん!」
ルルとリルは自分達の機体を吹き飛ばされたワールの機体の元へ移動させ、それを見たライゴウは安堵の息を吐いた。
「よし、それでいい。ここで銃を撃たれたらたまらないからな」
ライゴウの背後には機体に乗っていないトウマ達がいて、もしあのままワールのソルジャーがマシンガンを撃っていたら彼らも巻き添えを喰らっていたかもしれない。だからこそ彼はマシンガンを撃とうとしたワールのソルジャーの左肩を攻撃して、トウマ達をいつでも庇えるように背後に気を配りながら轟音蜘蛛をワール達の元へ向かわせた。
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