第4話新規の彼

次の日、土曜日でも旦那は会社に休日出勤していた。


暁人は休日も家にいることが多い。


私も今日はパートは休みだが、新しいアプリで出会った人と会う約束があった。


「暁人ー、お母さんでかけるから、お昼作ってあるから好きな時食べてねー」


すると、だるそうに部屋から暁人が出てきた。


「めっちゃ、オシャレしてるじゃん」


驚いたように見られると、少し照れくさい。


「ランチ行くのに、変な格好できないでしょ?」


「まあ、関係ないけど」


クールな息子。

それくらいがちょうどいい。


「じゃあ、夕方には帰るから」


私は足早に家を出る。


この瞬間から私は、左薬指のリングを外す。無くさないように、いつもの薬ケースの中へいれる。


これが、母親である私が、ただの女になるスイッチのようなものだ。



アプリ内の連絡で今日会う彼と連絡を取り合う。


今日の私はだいぶ気合が入っている。

久しぶりに、顔がストライクゾーンど真ん中の人なのだ。(写真では)


私は彼に会う前に駅のトイレでしっかり自分をチェックした。


ちょっと、気合い入れすぎかな?


まあ、これくらいでもいいか。

相手は公務員の27歳の男性。


13歳も年下の人と遊ぶのは初めてだが、今回は私からハートを送り、怪しくないように先にメッセージと写真も添えると、丁寧な文で返信が来た。


なかなか、自分から送ることはしないが、この人とはどうしても会いたいと、直感で感じた。


私が待ち合わせの場所に着くと、まるで、彼の周りだけドーナツホールでもあるかのように彼だけがそこに際立っていた。


人の多い駅で、土曜日だから待ち合わせも多いはずだと覚悟してきたのに、たまたまその時間だけ人がまばらだった。


理想の顔立ちにシルエット。


間違いなく彼だ。


「あの、ユウさんですか?」


私が話しかけると、彼もすぐに私が分かったようで、パッと笑顔を作ってくれた。


「はい、ユリさんですね?」


「はい、よかった。すぐわかりましたよ、写真と変わらない」


「ユリさんも、写真通り綺麗でびっくりしました」


「また、優しいですね」


そんな会話をしながら、私たちは彼が予約してくれたカフェに入っていった。


塩顔とよばれる分類の顔、色白でシルバーのメガネが知的に見て、清潔感があって、優しさが滲み出ているように、一緒にいて心地よかった。


「ユウさんは学校の先生なんですね。今の子と向き合うのって、大変そうですね」


「ええ、繊細な子たちが多いので、でも、やりがいがありますよ。先生ってやっぱり子供の頃の記憶に絶対残るものだし、特に、いい先生って、大人になっても覚えてるじゃないですか」


そう、笑顔で話す彼は、無邪気な子供のようにも見えて、あどけなくて、ずっと夢見たことを実現できた、先生という職業に誇りを持っていることに、私は尊く感じた。

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