第16話 お酒とスイーツと恋心
待ち合わせ先に入店していたゼノンは、時間通りにやってきたレベッカに向かって微笑んだ。
「やあ、レベッカ。来てくれて嬉しいよ」
しかし、レベッカの姿を上から下まで一巡すると困ったように口を開く。
「なんというか……気軽な気持ちでいいって言いましたよね?」
デートという雰囲気を出せば、きっと彼女は困ってしまうと思い、手紙にはお礼という名目で誘っている。そのため、服装も気軽なものにと手紙で念押ししたつもりだった。しかし、レベッカの格好は、いうなれば『ちょっとお外で買い物気分のお嬢様』である。金髪を緩やかに結わい、花の
どちらかといえば、気軽に遊びに出かけるような格好ではない。むしろ、気合が入っていると言っていいだろう。対してゼノンは彼女と並び立っておかしいほどではないにしろ、少し洒落っ気を出した軽装。一応高級ブランドとして有名なスイーツ店であるため、それなりにちゃんとしていたが、これは予想外だった。
(これは家族や侍女達に着飾されてしまったのかな? 手紙ではなく口約束にしておけばよかったな……)
なんせ彼女が着ているワンピースの色は自分の瞳の色に似ている。デートだと勘違いされて用意されたのを渋々着たのだろう。今の彼女は自分に気がないのだから、そう考えるのが妥当だった。それに彼女から並々ならぬ緊張感が伝わってくる。一体、何があったのだろう。
(ちょっと茶化して、雰囲気を和らげてあげよう。ここのオーナーにも彼女にデートだという印象を出さないように言ってあるし)
今日は外堀を埋めるというより、彼女にはケーキを純粋に楽しんで欲しい思いで誘ったのだ。なんせこの一週間、カローラが頑張ってくれたおかげで、他家のお茶会に参加していないゼノンにもレベッカの動向が耳に入ってくるのだ。おそらくお茶会で知人から色んな人間を紹介されているのだろう。嫌でも想像できる。彼女もストレスが溜まっているはずだ。
「そんなにお洒落をしてきてくれるとは思いませんでした。もしかして……」
「何をおっしゃっているんですか、ゼノン様」
「はい?」
彼女は持っていたカバンの持ち手を握り潰す勢いで強く握った。
「王都でも指折りの高級ブランドですよ! そんなお店でケーキを食べるのに、気軽な格好で入店するなんてお店やパティシエはもちろん、ケーキにも失礼です! このぐらいめかしこんで当然なんですよ!」
どうやら彼女はケーキとデートする為にめかしこんできたらしい。並々ならぬ緊張感もケーキに対する情熱であった。カローラから話は聞いていたが、まさかお酒と同じくらい喜ぶとは思わなかった。
(またやられた……)
彼女は本当に自分の予想を上回ってくれる。
彼女はさらに「ここはブランデーを香りづけに使ったものも素晴らしくて」と熱弁し始めた。それに肩を震わせて笑っていると、彼女は不機嫌そうに口を開いた。
「何を笑っているんですか?」
「いえ、なんでもありません。着飾ってくるほど、楽しみにしていたのでしょう? 二階は貸し切りにしてあるので、どうぞゆっくり食べてください」
ゼノンがそういうと、彼女はぱぁっと顔を明るくさせた。
(うーん……まずはお酒とケーキの次くらいに好きになってもらえるようになろう)
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