第28話 酷い過去

 ルチルが生まれるより遠い遠い過去の話。

 飛竜を従え、空から、地竜を従え地上からと破竹の勢いで侵略を進めていた竜人は周辺諸国を飲み込み人間の王国をいくつも滅ぼしていた。

 有翼、長耳、ドワーフ、岩人……残すは国を失い結集した人間の抵抗勢力と有翼、長耳の一部のみとなっている。

 だが、理想のユーカリ林を築いたコアラにとって蚊帳の外の話である。

 彼のユーカリの夢が面白そうと冒険についてきた数人にとってもまた同じ。彼らはユーカリ林に作ったログハウスの傍で木漏れ日にうたた寝する日々を過ごしている。


「お前一応王子なんだろ。そろそろ戻らなくていいのか?」

「今更第三王子なんて誰も必要ないと思いますよ。身内同士で水面下で争い合う貴族社会には飽き飽きしていましたし」

「そうか。俺もお前がいてくれると助かる」

「コアラさんくらいですよ。そんなことを言ってくれるのは。緑属性なんて貴族社会ではまるで役に立ちませんし」

「腐ってるな。人間社会。緑属性ほどいいものはないぞ。俺も使いたい」

「ははは」


 などと30代半ばを過ぎた元王子とユーカリをもしゃりながら笑い合うコアラ。

 そんな平和なユーカリ林に事件が訪れる。

 

 突如飛来した飛竜が炎のブレスを吐いたのだ。

 それが――。

 ユーカリの木に激突し、哀れユーカリの木が燃える。

 

「許さん。許さんぞ! おい、ラインハルト」

「んー」

「人間たちが森に押し寄せて暮らしている。あいつらを連れて行ってもらえんか?」

「コアラさんは?」

「俺か、俺はあいつらを許さねえ!」


 ごああああとコアラの毛が逆立ち、暗黒のオーラで包まれた。

 かつてない怒りが彼の身を焦がす。

 ユーカリの木を丸ごと一本、灰にしたのだ。

 彼の友人、ラインハルト・ジギスムント・シルバークリムゾン第三王子に敵を排除するに邪魔だった人間たちを外に連れ出してもらい、コアラは犯人を徹底的にとっちめることを決意する。

 手始めに襲い掛かって来た飛竜だ。

 どこからともなく長い槍が出現し、コアラの頭上に浮かぶ。


 ――コアラ流、槍術。第二の業 ヒラリとユーカリのように舞うグングニル。


「もっしゃああ!」


 轟音を上げ槍が飛竜に突き刺さり、槍が爆発し、飛竜が四散する。

 

「穏やかじゃないねえ」

「このユーカリの木はもっと痛かった。もっと苦しかった。ユーカリの木を補填させるまであいつらは許さねえ!」

「人間を連れてって、僕らはどうすりゃいいんだい?」

「何か俺の敵と同じ奴に追い回されているみたいだったからな。人間のところに行ったら敵が分散するだろ。これ使え」

「気が済んだら教えてくれよ。また戻って来る」

「おう、すまんな」


 こうして、第三王子は残った人間を連れて壁を構築し、竜人の手を逃れた。

 残ったコアラは竜人たちと単身戦うことになる。

 ユーカリの木を補填させるまで。

 

 この後、コアラの逆鱗に触れた竜人たちは大損害を被り、彼と盟約を結ぶことになった。

 燃えたユーカリの木は戻らない。しかし、結局、第三王子の魔法によって新しくユーカリを育てることでこの場は収まる。

 竜人たちはこのことを後世に伝え、コアラの住む森を禁断の森とし、立ち入ることを禁じた。

 

 コアラ物語、おしまい。


 ◇◇◇

 

 語り終え、満足そうにユーカリをもしゃるコアラさんに絶句する。

 

「え、えっと……」

「もふもふさん大活躍ですね!」


 エミリー、あなたは黙ってて。

 彼女の口を塞ぎ、後ろに押しやる。

 竜人のことで興奮したコアラさんに、過去に何があったのか聞いてみたの。そうしたら、後世に語り継がれる壮大な物語が始まって……。

 シルバークリムゾン王国の成り立ちとか、人間が命からがら逃げてきた理由やらが分かった。こんな微妙な事情を知りたくはなかったわ。

 伝説は伝説として文献で語られるものが真実ではない。それは分かってる、分かっているんだけど、理由が飛竜のブレスがユーカリの木に当たったことだなんて。

 飛竜がわざわざユーカリの木を狙い撃ちにするなんてことないだろうから、誤爆か誰かを狙ってその人が回避してユーカリの木にクリティカルヒットしたのよね。

 

 同国出身のエミリーはもふもふトリップしている。

 なので自然と僅かに眉を動かし話を聞いていたウンランに目を向けた。

 表情を変えずに彼は静かに首を横に振る。うん、そうね。聞かなかったことにしましょう。

 私だけそう思ったんじゃないと安心し、コアラさんもユーカリの葉を食べて落ち着いたのでこのままにしておこうと決めた。

 

 ◇◇◇

 

 番外編その3

 

 ここはルチルが暮らす世界とは別の謎空間。二頭身キャラとなった彼女らが勝手きままに語る空間である。


「よおし、エミリー、今の状況を説明していくわよ」

「分かりましたああ。それにしてもルチル様、意地悪です」

「と、唐突ね。私がエミリーに意地悪なんてしたかしら……」

「大賢者様がもふもふさんだったとちゃんと教えてくれなかったですっ!」

「そ、それね。あの時は伝えることが多すぎたから。いずれ出会うこともあると思ってね」

「そうだったんですね! ビックサプライズでした!」

「そんなわけで、今の状況をまとめちゃうわよー」

「はいい!」


《ルルーシュ僻地の問題点》

 ・村人が死んだ目をしているよ!《解決の目途有》

 ・畑は雑草が生え放題。元の痕跡を探すのも難しいくらい《未着手》

 ・原因の井戸水はインプを使い魔にしている有翼族の「呪い」だったわ。

 ・有翼族とは一応和解。村人たちが元に戻ったら事情を語るつもりよ

 ・蔦の化け物は嫌い! だけど、役に立つ。悔しい。

 

《村の施設》

 ・うーん、村人が復活してくれないと何とも。今は何もないに等しいわ

 ・ジェットさんの畑と家。

 ・ルチルとエミリーが住むお屋敷、お屋敷の果実は育ってるわ。


《もふもふさん》

 ・クレセントビーク 汚い声で鳴く

 ・コアラ 大賢者様

 ・トラシマ コアラのペット? 大きな猫

 ・インプ 有翼族の使い魔


「エミリー、もふもふさんって、もふもふじゃないのも混じってるわよ」

「いいんですー。みんな可愛いのでひとくくりです」

「そ、そう……」

 

《お仲間》

 ・ジェットさん 村外れに住む頼りになる人。風属性。

 ・ウンラン 有翼族。秀麗な顔。冷たい雰囲気。金属性。


《謎》

 ・村人たちにインプが食糧を届けていたわ。《解決》

 

「井戸水の件は完全解決ね! 後は村の人たちが元に戻るのを待ってからね」

「そろそろ、でしょうか」

「ウンランに聞かなきゃね!」

「はいい」


 ペコリとお辞儀をするルチルとエミリーでした。

 

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