第18話 井戸の様子は?
意識して魔力を手繰り寄せると内部魔力を使っていた時の数倍の魔力が流れ込んでくる。
う、うう。全力で魔力を集めたら絶対に倒れちゃう。
今までの全力が今だとちょこっと集めるだけより少ないんだもの。魔力酔いしないように、暴走しないように慎重に魔力を扱わなきゃ。
初めての時より慣れてきたけど、まだまだ自然と使うまでには遠い。
術式構築……よし。
「みんな元気になって! 緑の精霊ドリスよ。ビリジアンヒール!」
緑の光が辺り一面に降り注ぎ、葉や茎が生き生きとピンと上を向く。
それだけではない。
ベリーやオリーブの実ができ、元々実をつけていたクルミとピスタチオに木に至っては一回りくらい成長した。
「ルチル様! 今まで見た中で一番すごいです!」
「えへへ。王国の頃より沢山魔力を使ったんだよ」
「複数の木や蔦を一息に! あ、でも、その……」
「全然平気! 二回目だから、クラリとも来てないわ」
両手を握り、ぐっと腕を自分の体に寄せる。
そうなの。彼女に言った通り、ユーカリの木を元気にした時と違って体調に変化はないの。
今すぐ全力疾走しても全く問題ないくらいに。
え、えっと魔法を使う前と使った後に魔力量を把握するんだった。
魔力量を計ることは息を吐くようにできるようになってきたけど、外部魔力ってやっぱり規格外よね。
何度も何度も驚かされるわ。
魔力が際限なく蓄積していくので、使っても使っても魔力保有量が減らない。
増え続けたら、どうなっちゃうんだろう。少し怖くなってきた……コアラさんに聞いてみようっと。
「エミリー。植えるのを手伝ってもらえるかな?」
「はい! 古代種じゃないですか!」
「大賢者様の住む森には沢山の古代種があったから、ここに植えちゃおうかなって」
「やりましょう。どの辺りに植えますか?」
パタパタと手際良く動くエミリー。
彼女は昨日のうちに小屋から一通りの道具類を出していてくれたんだ。
彼女と一緒になってどこにしようと悩む。
古代種ことユーカリの木は巨木になるから、周囲に木が無い方がいいよね。
そんなわけで、クルミの木から数メートル離れた場所に植えることに決めたの。
植えたユーカリの木にビリジアンヒールをかけたら、三メートルくらいの高さの木に急成長した。
これなら、コアラさんを呼んでも彼の食事には困らないかな。
ううん、もう少し成長させて彼を驚かせて……その隙に「うぎゅう」を。うふふ。
コアラさん、喜んでくれるかな?
まだまだ魔力に余裕はあるけど、一旦お庭作業はここまでにしてお屋敷から外へ出かけることにしたの。
このまま夜までお庭作業でも楽しいんだけど……村の方も見ておかなきゃ。
うっそうと生い茂った雑草を踏みしめながら、お屋敷の門へ向かっていたら雑草が気になってきて……これを全部綺麗にしたら気持ちいいだろうなあ。
「ルチル様ー」
「ご、ごめんね。すぐ行くー」
危なかったわ……エミリーが呼んでくれなかったら、外へ出られなくなっていたところだったわ。
◇◇◇
やって参りました。井戸です。
さあ、どうなっているかなあ。
エミリーと一緒に水桶を引っ張り上げ、ふうと一息つく。滑車が二つか三つ付きのロープに換装したいところよね。
単純に引っ張り上げるだけの構造で、水桶が少し大きめだから結構な力がいるの。一人だと自分の体重を乗せて思いっきり引っ張らないと上げられないくらい。
エミリーと二人なら踏ん張らなくても引っ張り上げることができるから、彼女がいてくれると大助かりね!
お水の様子はどうかな。じっと水面を見つめ、魔力の流れを掴もうとしてみる。
…………。
………………分からない。
微弱過ぎるのかしら。全然、魔力が見えないよ。
ならばと指先から水の雫を落とすかのように魔力を一滴落とす。
反応なし。さざ波も立たず、私の魔力がすううっと水の中に広がって行った。
「呪いは無さそうよ」
「誰かが魔法をかけたのでしょうか?」
「半日くらいしか経過していないから、もう少し様子を見ましょうか」
「承知です!」
エミリーと頷き合う。まだ呪いが解けたわけじゃないんだけど、お互いに自然と微笑んでいたの。
きっとエミリーも村の人たちが目の光を取り戻した姿を想像したに違いないわ。
このまま、安全な水を飲んでいれば隣のコルセア村のようになってくれるはず。そうなればお手伝いできることが沢山できる!
今のままだと畑を耕すことさえしていないから、魔法を使おうにも作物がないから何の足しにもならない。
固有属性「緑」は他の属性にはない力を持っている。
こう書くと何だか偉そうなのだけど、他の属性は他の属性で私の持つ緑の属性じゃできないことができるのよ。
それぞれ得手不得手があるという感じ。
緑の属性でしかできないこと。それは、植物に活力を与え元気にすることなの。
エミリーの水属性があれば、干ばつだろうが水を出すことができる。水が無いと人も作物も生きていけないわ。
他にも土属性なら魔法で畑を耕すことができたりする。
要は私とエミリーの魔法だと畑が耕されて種がまかれていなければならないってことなのね。
早く良くなってくれますように。
そうお祈りしてから井戸を後にする。
すれ違う村人の様子は昨日までと変わらず、虚ろな目で下を向いて歩いていた。
水だけ補充しに来ているのは分かるのだけど、食糧はどうしているのかしら。あの状態だと余り食べないでも生きていけるとか?
聞こうにも会話が成立しないんだもん。聞きようがないの。
村で話ができる人は私とエミリー以外となると、今のところ一人しか知らない。
私たちはその人のところに向かっていた。
この時間だから狩りに出ているかもしれないと思ったら、彼は畑の整備をしているところだったみたい。
「こんにちは」
「おー。どうなることかと思ったが、ちゃんと生活ができているみたいだな」
クワを持つ手を止めて、汗を拭いながらジェットさんが挨拶を返して来る。
私も小さく手を振ってペコリとお辞儀をした。
「おかげさまで。ジェットさんからいろいろ教えてもらえたからよ」
「そうかそうか。俺だって嬉しんだぜ。ほら、誰とも会話できないってのも辛いもんだ。村外れに住みたくて住んでるわけじゃねえからなー」
「それはいい事を聞けたわ。今日はお礼をと思って来たの!」
「ほお? 何かうまそうなもんでも獲れたのか?」
「ううん。私、魔法が使えるようになったの」
「そんなことってあるのか!? お前さんは魔法が使えなくなったからここへ放り出されたんだよな?」
「うん。だけど、色々あって使えるようになったの! だから、ジェットさんにお世話になったお礼ができるなって」
「そうかそうか。それなら遠慮なく頼むぜ。何が起こるのか楽しみだ」
ジェットさんは魔法のことについて特に突っ込んでくることもなく、畑の脇にドカッとあぐらをかく。
じゃあ、緑の魔女の本領を発揮させてもらうことにしましょう!
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