9月のお題【贈り物】

 婚約者からのプレゼント 

「プ・レ・ゼ・ン・ト」


 甘ったるい声を出しながら侯爵家嫡男である私の前にリボンのかかった少し大き目の箱を差し出したのは、婚約者である伯爵家のご令嬢だった。

 今日は予定が変わり一人で過ごさなければならなくなり不機嫌だったのが、この女の顔を見て余計に気分を害した。

 学園が長期休みに入ったので顔を合わせなくて済むと思っていたのに。


 この女との婚約を解消したいと思ったのは聖女の様に優しい男爵令嬢のせいではない。優しさのかけらもなく頭の固い真面目くさった女に愛想が尽きただけだ。

 格下の伯爵位のくせに力のある隣国との太い繋がりを自慢し、態度が大きいのも腹立たしい。


 以前の私の趣味は狩りだった。

 それを聞いた男爵令嬢は、涙を浮かべて命の尊さを説いた。

 彼女の話に感銘を受けた私は自分を恥じ、狩りへ行くのを減らした。

 貴族であるからには出席しなければならない催しもあるのでゼロにはできないが、断れそうなものは極力断るようにした。


 それに対してこの女は私が狩りを始めて間もない頃、悲しむどころか喜々として私の仕留めた獣を手に入れお抱えの職人に剥製を作らせ飾っていた。

 彼女とは大違いだ。


 確かに以前の私は剥製の出来に感心して、剥製制作を頼んだことがあった。だが今は違う。心を入れ替えたのだ。


「ねえ、開けてみて」


 女を早く追い返すために箱を開ける。

 箱の中を見て息を吞む。


「次はあなたね」


 女の声を聞いて考える。

 私からのプレゼントをねだっているのか、それとも……。


 箱の中には男爵令嬢の首が入っていた。

 


 

 


 

 

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