第48話 買い物に現金が要らない!?

 お盆も終わって夏休みも後半戦に入りようやく暑さのピークが過ぎた夕方、竜二りゅうじ竜一りゅういちは運動のため家の周りを歩いていた。


「ふう。やっぱり夏はこの時間でもまだ暑いな」

「最近は暑いよな。昔はここまで暑かった気はしなかったんだがなぁ」


 お互いに半袖半ズボンという服装をして暑さで汗をダラダラと流しながら、それでも運動せねばという竜二にくっつく形で竜一も歩いていた。


「丁度いい。ミネラルウォーターでも飲もうぜ」


 竜二はポケクリGOをやりながらいつも歩くルート上にある自販機を指さしてそう言う。


「竜二、悪い。今日は財布を家に置いたままなんだ。帰ったら払うから今はおごってくれないか?」

「分かった。そうするわ」


 竜二は竜一からの「おごってくれ」という申し出に素直に従うと、お金を入れずに自販機のボタンを押す。そして自販機にスマホをかざすと、お金を払っていないにも関わらずミネラルウォーターが出てきた。

 彼はそれをもう一度行い、竜一の分のペットボトルも自販機から出した。


「はいよ。兄貴の分だ」

「!? りゅ、竜二! お前何したんだ!? お金を払ってもいないのに自販機から商品を取り出すなんて「あくどい」ことでもやってるんじゃねえんだろうな!?」


 現金を投入しないで商品を手に入れた竜二に対し、竜一は不正行為でも目撃したかのような目つきをする。


「ああ、これか? スマホにプリペイドカード機能が付いていて、その機能で買ったんだ。だからタダでもらったり不正行為は一切やって無いから安心してくれ」

「ぷりぺいど……? 何だその「ぷりぺいど」とやらは?」

「ああそこからか……」


 そもそも「プリペイド」という物が一体何なのか分かってない兄に対し、弟は言葉を吟味ぎんみしながら説明しだした。




「プリペイドっていうのは「前払い」っていう意味があって、先に料金を払ってその分のポイントをチャージして必要な時にそこから払って商品を買う方式なんだよ」


「って事は先にカネを払っておいて後でいつでも取り出せる方式なのか。現金持ち歩かなくてもピピッってやるだけで買い物が出来るなんて結構SFっぽさっていうか「センスオブワンダー」っていうのがあるよな。

 でも現金さえあれば別に困るわけじゃないだろ? なんでまたプリペイドなんていうややこしいことをするわけ?」

「小銭を持ち歩かなくて済むから財布が小銭でかさばらなくなるし、買い物するときも小銭を取り出したりして後ろで並んでる人を余計に待たせなくても済むから、プリペイドにするメリットはあるんだぞ。

 それにいくつかのプリペイドカードは外国でも使えるから、クレジットカードは使うのをためらう人でもプリペイドなら……っていう人もいるから需要も結構あるんだよ。それに無くした時もプリペイドカードなら失うのはチャージした金額だけで済むんだ。これがクレジットカードだったら限度額まで使われる所だぜ?

 実際海外出張に行くこともある俺の上司はプリペイドカードを持っていくそうだ」

「なるほどそういう事か、防犯上のためか」


 プリペイドにはそういう利点もあったのか! と竜一は「世界が広がる瞬間」を体験していた。




「あとはポイントだな。買い物すると100円か200円ごとにポイントが付くんだ。日本人は昔からポイント貯めるのが好きだったからそれが反映されているのさ」

「なるほどポイントね。そういえば俺が生きてた頃はスーパーで買い物するとシールやサービス券もらったりしてたけどあれの親戚みたいなものか?」

「そうそう、まさにそれだよ。まぁ親戚ってよりは進化系って言うべきことなんだろうけど、大体は合ってるぞ」


 あとはグッと身近な話としてポイントがたまるというのも教えてあげた。


「ってことはさっきのミネラルウォーター買った時もポイントがたまっているわけか?」

「ああそうだ。100円ごとに1ポイントだから2ポイントほどたまったと思う」

「なるほどそういう事か。現金じゃポイントが付かないからプリペイドを通せば、って話か。

 にしてもスマホは便利だな、プリペイドカードとか言ったか? それの代わりにもなるなんてな。これだと無くした際にとんでもないことになりそうな気もするんだが」


 竜一はスマホは便利な反面、無くしたら怖いと思っていた。プリペイドならまだしも、噂ではクレジットカードと連動しているらしく、無くしたら大変なことになりそうだ。


「ああ、そうなるだろうな。一応は無くしたことをスマホの契約店舗に電話すればいろいろ対応してくれるそうだ。

 幸い俺も咲夜さくや竜也たつやも無くしたことはないけどな。兄貴も無くさないように気を付けるんだぞ」

「大丈夫。置き場所をきっちり作ってあるからそんなヘマはしないから。スマホ買ってもらってすぐにそうしてるんだ。これなら無くす心配はない……はずだ」

「へぇ。俺がやっている方法と同じことしてるじゃないか。なら大丈夫そうだな」


 自分と同じことをやっている兄に、竜二は血のつながりとでもいうべきものを感じたという。




【次回予告】

 友人との付き合いというか「接待」のために竜一はクソ暑い幹線道路沿いに出かけてあるものを見た帰り、

 自宅の車が「ハイブリッド車」であることを初めて知る。


 第49話 「ハイブリッド自動車はSF」

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