第47話 ワイヤレス充電はSF

「うわやべぇ!」


 夏休みに入って今日で8月。灼熱しゃくねつの太陽がギラギラとした日光を浴びせる中、竜一りゅういちは図書館で宿題をしているところから帰ってきた。


「どうしたの竜一君? 何かあったの?」


 彼は玄関にいた咲夜さくやに対し「ヤバい」とだけしか言わずに慌てて自室に戻ると電源ケーブルをスマホに差して充電を始めた。

 本当は昨日やるはずだったのだがうっかり忘れてバッテリーの残量はわずか7%。省電力化モードが起動し何とかここまで持ったのだ。

 ようやく充電出来て一安心した後で、竜一は1階から上がってきた咲夜に何が起こったのかを告げる。


「どうしたの竜一君? ヤバいとか言ってたけど……」

「ああ、咲夜さんか。いやぁスマホの充電するのを忘れて電池切れ、いやバッテリー切れか? それが起きそうになってたんですよ」

「あら、何だそんなことだったの? うっかり屋さんね。てっきりもっと深刻な事だと心配してたよ。その程度でよかったとも言えるんだろうけど」


 確か図書館に行くといって朝から出かけてたけど何かあったのでは? と心配になったので彼女もまた一安心と言ったところか。

 階段の前でそういう話をしていると竜一の隣の部屋、咲夜の部屋から着信音が鳴った。


「あ、電話鳴ってる」


 咲夜は電話に出るために自分の部屋に入っていく。竜一もそれに続いた。




 竜一にとっては初めて入る咲夜の部屋は「専業主婦の部屋」なだけあって本棚には料理本や掃除、洗濯に関わる本がメインで、あとは「ダイエット本」や「ヨガ本」さらには「化粧に関する本」も置かれてあった。


「うん、わかった。そっちも特に何もなくて安心したわ。じゃあね」


 竜一が周りを見ている間に咲夜は通話を終えたらしく、スマホを何かのパッドらしきものの上に置いた。


「誰からでした?」

栃木とちぎに住んでる私のお姉さんから。今度のお盆は帰って来るのか? って聞きたかったそうよ。昔は盆や正月やお彼岸には毎年帰ってたけど今はコロナがあるじゃない?

 だからすぐに決められることじゃないのよね。本当のところは何年も会ってないから帰りたいんだけどね。おいっ子やめいっ子もいるし。

 多分ビックリするほど大きくなってると思うわ」

「ふーん、そうですか。ところでそのパッドみたいなものは何ですか?」


 竜一が注目したのは咲夜のスマホの下に敷かれた、謎のパッド。何をするのか今一つ分からないものだったのだが、彼女の説明で度肝を抜かれる。


「これ? これは「ワイヤレス充電パッド」って言って、置くだけでスマホの充電が出来る道具なのよ」

「え!? えええええ!? ワ、ワイヤレスで充電できるのか!? ス、スゲェ! いかにもSFっぽいじゃねえか! へー、電気が宙を飛んでスマホに行く時代なのか! スゲェ事になってるな!」


 令和の時代に出てきたのは「ワイヤレス充電器」というSF作家でも思いつかないようなハイテク機器。

 字面だけ見ると電気が宙を舞ってスマホに入るのか!? と思わせるようなものだった(実際には違うのだが)。


「じゃ、じゃあ! 俺のスマホでもワイヤレス充電が出来るのか!?」


 彼は慌てて自分の部屋からスマホを持ち出し「ワイヤレス充電パッド」の上に置く。が、何も起こらない。

 実を言うと竜一のスマホは新品ではあるが廉価版れんかばん、しかもその型落ちのモデルで「ワイヤレス充電機能」は搭載されていなかった。


「……あれ? 何も起こらないぞ、どうなってるんだ?」


 ワイヤレス充電されない事に竜一は疑問に思うが、咲夜は彼のスマホの機種や型番を調べて検索をかけ、答えにたどり着く。




「分かった。竜一君のスマホには「ワイヤレス充電機能」が付いてないのよ。だから線をつないで充電するしかないわね」

「……そういうオチかぁ。でもそのうち新しいスマホに買い換えたら出来るようにはなるんですよね!?」

「まぁ長い話になるかもしれないけど、そういう事ね。何年先になるかはまだ分からないけどそのうちね?」

「なるほど。その日が来るの待ってますわ」


『令和の時代にはワイヤレス充電機能がある』今日竜一が知ったセンスオブワンダーだ。携帯電話やゲーム機を始めとしたワイヤレス技術はここまで来たか! とうならされるような新技術かつ科学技術が見せてくれるワクワクが詰まっていた素晴らしいものだった。




【次回予告】

 竜一が生きていた頃は物を買うにはどんな場所でも現金が必要だったのだが、

 令和の時代には何でもカードでピピッと買い物が出来るらしい。


 第48話 「買い物に現金が要らない!?」

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