第19話 透明飲料はSF

 ゴールデンウイークが終わって学校が再開された帰り、竜一りゅういち竜也たつやはお互い部活には所属していない、というのもあって一緒に帰ることにした。その途中、竜也は自販機にお金を入れてとある飲み物を買った。

 中身は透明な液体で、一見すると水のように見えた。


「えー? 水にカネ? お前水なんて家で水道の蛇口じゃぐちをひねればいくらでも飲めるじゃないか」

「いや違うよ。これは透明な紅茶で、時々飲みたくなるんだよね」

「へー、透明な紅茶ねぇ。合成紅茶かな?」


 竜一も自販機にお金を入れて竜也が買ったものと同じものを買い、ペットボトルの中に入っている透明な液体を飲む。

 見た目は透明な飲み物なのに、口の中には確かに紅茶のような茶葉の味と香りが広がった。


「こ、これは、この味はッ!」


 竜一は一瞬で悟った。


【ディストピアSF下層労働者が飲む合成紅茶の味ッッッ!】と。


「な、何だコレ!? 水じゃない!? 確かに紅茶っぽいけど」

「そうだよ。これは透明な紅茶さ」

「こいつはスゲェ! ついに合成紅茶が出たのか! やっぱり平成の先にある時代はスゲェな! どんどんSFの出来事が現実になってくるよ!」

「合成紅茶って……一応は本物の紅茶だよ? 茶葉からエキスだけを抽出して透明にしたんだって。合成飲料や食べ物のほうがずっと高くつくよ」

「ス、スゲェ! 透明な紅茶を作れるようになるとはさすが30年後の未来はすごいことになってるなー。どんなSF作家が描いた未来予想図でも透明な紅茶なんて出てこなかったからなー」


 竜一の時代からすれば未来のテクノロジーが、またもや予想すらできないアクロバテックな物を出したことに大いに驚いていた。




「「ただいまー」」


「おう竜也、兄貴、お帰り。何かあったか?」


 竜二りゅうじは兄と息子の様子を聞く。日ごろから話をしているのは何かあったら災いの種が芽吹く前に対処しなくてはという父の責務だ。


「竜二、今日は合成紅茶を飲んだんだよ。透明なのに紅茶の味がするんだ。まさか『ディストピアSF下層労働者が飲む合成紅茶』が自販機で買えるとは思ってなくてびっくりしたぜ」

「ハハッ。合成紅茶ねぇ……透明な紅茶なんてものが出てきたらそうなるだろうなぁ。実際にはまだまだ合成食品が出るのは先になるだろうけどなぁ。

 実は俺も似たような物飲んでるんだ。紅茶じゃなくてドリンクヨーグルトみたいなものだけどね。試しに飲んでみるか?」


 そう言って竜二りゅうじはペットボトルの中身を竜一のコップに注いでいく。彼が飲んでみると……。


「こ、これは、この味はッ!」


 竜一はまたもや一瞬で悟った。


【ディストピアSF下層労働者が飲む合成ヨーグルト飲料の味ッッッ!】と。


「何だこれ!? 紅茶だけでなくついにヨーグルトまでも合成して作るようになったのか!? いやぁー30年後の未来は本当にSFだなー。

 俺の想像をはるかに超えるとんでもないものが出回ってるぜすげぇわコレ」


 竜一はSF小説にも出てこない品物がごく当たり前ように市販、つまりは量産化され幅広く流通していることに驚きを隠せなかった。


「そういえば昔、透明なコーラもあったよね?」

「ああ、あったあった。結局1回だけしか飲まなかったけど」

「何だってぇ!? コーラも透明になったことがあったのか!? スゲェ! やっぱり30年後の未来は進んでるなー、あのコーラも透明になるとはなー」

伯父おじさんは相変わらずだなぁ。いちいちオーバーリアクションで反応するよなぁ」

「まぁ兄貴は昔からこうだったからなぁ。新しいことがあるといつもこんな感じだったよ」


 更に透明なコーラに話が移るとまた驚く。




「竜二、お前透明なコーラ飲んだことあるみたいだけどどうだった?」

「『コーラに憧れたはいいがそれになり損ねたサイダー』って感じだったな。2回目は無いね」

「そ、そうなんだ……まぁ透明なコーラってだけでもインパクトがスゲェよな。

 2023年になってペプシパーフェクト(映画の「バックトゥザフューチャー2」に出てきた飲料)は無かったけど透明なコーラが発売された、ってだけで帳消しだな」


 透明なコーラという予想だにできないものに竜一は満足していた。

 彼以外の家族からしたら当たり前のように普及しているものが彼にとっては全て新鮮で新しい、なおかつセンスオブワンダーを引き起こさせる未来であった。




【次回予告】

 竜一が生きていた1993年から30年後のゲーム機はどういうものだろう? どうせディストピアSFみたいにみんな同じグラフィックになってるんじゃないの?

 そう舐めてかかっていた竜一はその多様な描画ぶりに度肝を抜かれる事となる。


 第20話 「ゲームはSF」

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