第2話 テレビはSF

 居間へと招かれた竜一りゅういちはとりあえずTVでも見ようかと顔を向けた、その瞬間だった。


「とりあえずTVでも、って何だぁ!? TVがすんげえ薄くなってる!? 何があったんだ!?」


 TVと言えば重たく分厚いブラウン管で、大人が2人がかりで何とか持ち上げられるほどの重量があるもの。

 というのが常識だった竜一には信じられないほどテレビが薄く、彼1人でも持ち上げることが可能なほど軽くなっていることに驚きを隠せない。 


「液晶TVっていうの。今のTVはみんなこれよ」

「兄貴が学生だった頃はTVのモニターは全部ブラウン管だったからなぁ。そりゃ戸惑うのも無理ないか」


 TVが信じられないくらい薄くなっている事に驚く実の兄、あるいは義理の兄に竜二りゅうじ夫婦の2人は簡素にそう説明する。


「スゲェ! 30年でここまでTVが変わったのか! もう少し頑張れば壁掛けTVも現実になるんじゃねえのか!?」

「壁掛けTV? もう普通にあるよ?」

「へ? だって壁掛けTVだよ? TVが壁に掛かってるんだよ? あの重たいTVが。SFの世界にしかないだろそんなの?」


 TVと言えば「ブラウン管」で止まっている竜一にとっては壁掛けテレビなんてSFの世界にしかない代物だ。




「ウチには無いけどスポーツバーとかのお店に行けば普通に壁掛けTVなんてあるよ?」

「何ぃ!? もうバーに置いてあるのか!? スゲェ! さすが30年後の未来だけあるなぁ!」


 竜一はTVの常識を根本から覆す、壁掛けTVが既に現実のものになっているという現実に驚きと嬉しさを隠せない。

 さすがは30年後の未来。TVが壁にかけられる程薄くて軽くなっていることにある種の感動すら呼び起こす。

 目の前の弟夫婦は、今では当たり前になったことのどこがそんなに素晴らしいことなのか、これっぽちも分からない。という感じだったが。


「はーすげーわ30年後の未来は。下手なSFよりもSFっぽいぜ……何だ? 未来のリモコンはごちゃごちゃボタンばっかりだなー。まぁいいや」


 彼は興奮冷めやらぬままTVのリモコンを手にし、TVの電源を入れると「12」のボタンを押す。


「……あれ? 12チャンネルがTVTOKIOじゃないぞ?」

「ああ。地デジになってチャンネルが移動したんだ。TVTOKIOは7チャンネルだよ」

「地デジ? なんだその地デジって?」

「簡単に言えばテレビの映像の配信方法が変わったんでその影響でチャンネルが移動したんだ。兄貴の頃のテレビはアナログって言われてるよ」

「ふーん、アナログねぇ」


 弟のセリフを聞きながらもリモコンをいじくってた竜一は奇妙なボタンを見つける。「青、赤、緑、黄」とだけ書かれていたボタンだ。

 黒いリモコン本体とそれに合わせたような黒色のボタンばっかりなリモコンの中でそれらだけ着色されており、妙に目立つ。


「なぁ竜二、この色のついたボタンは何なんだ? 何に使うんだ?」

「ああ、それはこちらから情報を送信するのに使うんだ。まぁTV局側があらかじめ設けたアンケートを選ぶくらいの簡単なことしかできないけどね」

「な、何ぃ!? TVって言ったら一方的に受け取った情報だけしか流せないはずだろ!? それをこっちからも送れるのか!?」

「そうだよ。でも選択肢を選ぶとか簡単な事しかできないけどね」

「なんだよそれSFでも出てこねえぞそんなの! スゲェじゃないかそれ!」


 まさかTVにそんな機能が持っている事さえ想像できなかった。双方向通信ができることに竜一は大興奮だ。さすが30年後の未来だけある。そう思って感動していた。




「いやー30年かけて生き返る選択をして大正解だわ! すげえよ未来は!」

「そんなに凄いものなの? 私からすれば普通の事なんだけど」

「いやいやスゲェ話だよ。やっぱ30年後の未来は未来感があるなー」


 竜二たちにとっては当たり前だがいきなり30年も時が過ぎればそうなっても仕方ないなと笑っていた。

 30年前から生き返った青年、竜一にとって令和の世界はまさに自分の想像を超えるほどのSFの世界そのものだった。

 さすがに服は明らかに未来人な銀ラメな服ではなかったが、それ以外は想像もできなかった未来だった。


 重たいテレビが壁にかけることができるほど薄く軽量化されている上に、視聴者側からも情報送信ができるという、

 今となっては常識なことが彼にとってはSFの世界にもなかった画期的なことであり、センスオブワンダーを感じさせる出来事だった。




【次回予告】

 壁掛けTVが既に現実のものになっている。ブラウン管で止まっていた竜一にとってはそれすらもSFの世界そのままだった。

 しかし驚きはこれだけではなかった。さらなるセンスオブワンダーが彼を待っていた。


 第3話 「電子レンジはSF」

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