令和はSF
あがつま ゆい
第1話 俺自身がSF
1993年から30年後……西暦2023年のとある春の日。
あの天使が言うには、バックトゥーザフューチャー2よりも未来な世界だという。その割には見た目は昔と変わらない実家へと彼は30年ぶりに帰ってきた。
「ただいま」
「!? あなた誰?」
出て来たのは30第後半から40代の見たことがない女。おそらく30年ぶりに帰ってきた彼の弟である
「竜二の嫁さんかい? 俺は竜二の兄の
「竜二さんのお兄さん? 確か学生のころ雪崩に巻き込まれて死んだんじゃ?」
「どうした?」
出迎えた竜二の嫁らしき人物が突然玄関に現れた竜二の兄だと語る青年に戸惑っているところに、休日で家にいた成長したというよりは「少し老けた」と言った方が正しい、中年太りしたオッサンがやってきた。彼は来訪者を見て、固まる。
「!? お前、兄貴!? いや、兄貴は死んだはずだ!」
「その死んだ兄貴だよ。信じられないかもしれないけど、俺死んで生き返ったんだわ。30年かけてな。これが証拠だ」
竜一はそう言ってポケットから生徒手帳とバイクの運転免許証を取り出した。
「生徒手帳!? それに運転免許証まで!」
2つとも有効期間は切れていたがまぎれも無く本物だった。
「兄貴!? もしかして本当に竜一兄貴なのか!?」
「ああ。何だったらお前の初恋の相手言ってやろうか? 確か中1の時のクラスメートの
「あー……そこまで言い当てられるのならもう兄貴だと信じざるを得ないなー。うん」
「そういうわけだ。30年かかったけど生き返ることが出来たってわけさ。信じられないだろうと思うけど」
兄だと名乗る青年の報告を中年の弟は黙って聞いていた。
「まぁいい、立ち話するのもアレだから上がってくれ」
中年の弟は目の前の青年を兄だというのを半信半疑ながらも認め、家の中へと招くことにした。
30年前の1993年の2月、その日高校1年生だった竜一は中学時代からの親友数人とゲレンデでスキーを楽しんでいた。
十分遊び終えた友人を残して竜一は最後にもうひと滑り、と1人でゲレンデを滑っていたその時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
それを目の前にして竜一はものすごい冷静だった。雪崩だ。雪崩が彼目がけて押し寄せてきた。
友人たちとスキー場に旅行に出かけてゲレンデを滑っていたら、とんでもなく不幸なことに、遭ってしまった。
彼の体に液状の巨大な何かにぶん殴られるような衝撃が全身に伝わった後、身体の感覚が無くなった。多分、死んだのだろう。
竜一は気が付くと真っ暗な空間の中にいた。その目の前には背中から純白の羽が生えた男がいた。天使だろうか?
「あんたは誰だい? 天使さんか?」
「ああそうだ。俺はしがない運命修正担当の天使さ」
「運命修正……?」
「そうだなぁ……お前にとって分かりやすい言い方をすれば『バタフライエフェクト』って言えば分かるか?」
「ああ、知ってる。SFの定番だからな。それがどうしたんだい?」
バタフライエフェクト。
「ブラジルにいる
「知ってるなら話は早い。そのせいで本来死ぬべきでない人が死んでしまう事がごく稀にだがあるんだ。それを修正するのが俺の仕事ってわけさ」
本来は死ぬべきでない人が死ぬ……?
「って事はもしかして俺ってやっぱり死んだの?」
「ああ。残念だけど、君は死んだよ。でも想定外の死だったから生き返らせるよ。何せゲレンデ内での雪崩だからね。方法は2つある。
1つは今の自分を捨てて赤ちゃんから人生をやり直すこと。君がそれでいいというのなら即座にやる。今持ってる記憶はなくなっちゃうけど日本で産まれる様にするから安心してくれ。
もう1つは今の姿、持ち物、記憶をそのままにもう1度この世に戻ること。ただ、肉体や所有物の再生で時間がかかるね。大体地球時間で30年はかかると思う」
「地球時間で30年かかる……? つまり……コールドスリープって事か!? よし! 今の姿で生き返る!」
「いいのかい? 30年ってのは人間からすれば相当長い時間だよ? 産まれたばかりの赤子が成長して、親になっていてもちっともおかしくない位の長さだよ? 常識の違いに大きく戸惑うと思うけど、それでもいいのかい?」
「いいさ! 30年間コールドスリープに入るようなもんだろ!? SFの体験が出来るなんてスゲェじゃん!」
「そこまでいうのならわかった。じゃあ30年後に蘇える方向にするよ」
そう言って天使は消えた。と同時に自分の身体が何かに引っ張られるような感覚がして、気が付いたら実家の前にいた。
手荷物やカーブミラーに映った自分の姿を見るに、おそらくはゲレンデに行く前日の16歳の頃の姿だ。
多少古くはなったが見慣れた実家に帰っていった。
【次回予告】
30年前に死んだ竜一が当時の姿と記憶のまま帰ってきた。無視するわけにもいかないので竜二夫妻は家に招き入れることにした。
竜一にとっては日常風景ですらSFの世界そのまんまだった。
第2話 「テレビはSF」
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