始まりはいつも、空を見上げて
七加瀬特別事件相談事務所内にて要件を言い終えた依頼人が出て行った後、七加瀬は椅子にもたれかかり、リラックスしながらため息をつく。
「あんまり軍人っぽく無い人だったな。でもよくよく考えたら、斎藤も変な奴で軍人っぽくないし、世間一般のイメージが間違ってんのかね」
「斎藤少佐も仕事の場では、きっと堅苦しい軍人らしさを出してくれると思いますよ。それにさっきの人は“元”軍人です」
「元ねえ」
元にしても、軍人由来の硬さや、生き残る為の悪知恵を働かす力が、余りにも乏しい様に見えた。確かに能力は素晴らしいが、あれでは軍では残れないだろう。だからこそ、今はドロップアウトしてしまったのかもしれないが。
依頼人である斑井に
「いいんですか。あの人何か・・・」
「ああ、臭うな。護衛じゃなく犯人を捕まえろか。普通は襲われたら保身第一、ついでに捕まえる位が普通ではある。おまけに襲われたことに対しての恐怖が全く見られなかったし、襲われたとかいう場所と時間は教えてくれたが、犯人の特徴どころか身長の情報までないときた。間違いなく何か隠してる。それに終始発言が、どもっていたしな」
「どうやって八つ裂きジャックを退けたか、教えてくれなかったのも気になりますね」
「それなぁ。それが一番気になるところなのに」
「七加瀬さんの気になるというのは、能力持ちバトルの話が聞きたいってだけでしょう?」
「そうとも言う。でも八つ裂きジャックの能力が分からんってのは厄介なんだよな」
「そうですね。罠の可能性もあります。今からでも依頼をキャンセルしますか?」
「いいや、受けるさ。斎藤が絡んでるんだ。恩を売るのに良い機会だ。それに・・・」
「それに?」
「お前のメイド服に消えた金を返す手段がない」
「確かに」
険しい顔での即答。しかしこいつ、反省していない。その証拠にわざとらしく作った険しい表情が早々に崩れて半笑いに近づいていっている。
まったくこいつは。
「その分の働き、期待してますわよ、有利さん」
「お任せあれぇ。で、冗談はさて置きどうしますか?依頼人にもう一度会って詳しい話を聞き直しましょうか?」
「いや、ああいう手合いは無理に色々聞き出さないほうがいい」
実際にあの場で依頼人、斑井幸古に無理に色々と聞き出そうとしていたら、話がどんどんこじれていったであろう事は明白であった。
「じゃあ彼女がなにか、問題を背負っていたとしたらどうしますか?」
有利は真剣な表情で尋ねてくる。
「うちの事務所は安心安全・周囲環境改善・アフターケアもしっかりやることを信条としてる。隠し事に対してもうまくやらんとな。まあ絶対に悪いようにはしない」
俺は有利にむかって微笑む。
「やっぱり仕事中の七加瀬さんはかっこいいです!」
「仕事中って言葉は余計だ。俺はいつもかっこいいぞ。それよりさっそく情報収集だ」
抱きしめようとしてくる有利を抑えつつ、話を進める。
「そうですね。ニュースでの情報や斑井さんの話からすると、どうやら深夜帯にしか八つ裂きジャックは活動しないらしいですから、日の出ているうちに済ましてしまいましょうか」
「そういえば今日二件依頼があるとか言ってなかったか?」
「もう一件は十六時ごろ予定ですね。依頼人は坂口さんですね」
「坂口かよ。・・・坂口の依頼内容も、もしかしたらだな」
「そうですねえ。ここら一帯をしきるヤクザの坂口さんも、今回の殺人事件は見逃せるはずもないですし。依頼内容、もしかしたら被るかもですね」
「これは一粒で二度美味しいという奴なのでは。爆儲けだな。まあ十六時まではまだ時間あるし、それまで各自情報収集だな。俺はとりあえず殺害現場でも回って様子を見てこようかな」
「私はとりあえずは斑井さんの襲われた現場近くのお店や住人に聞き込みをして、お昼ごろになればスーパーのママさん達にも聞き込みをしてって感じで情報を集めます」
「スーパーのママさん達は凄いからな・・・」
スーパーのママさん達は凄いのだ、彼女たち特有の情報網を持っていて彼女達が話す噂話はバカにはできない。以前にスーパーのママさん達の情報によって事件が解決したこともあるほどだ。
「スーパーには用事もありますしちょうどいいです」
「用事ってなんだ?」
「買出しですよ。今日は特売の日です」
「そういえば冷蔵庫空だったな。わかった、じゃあ今日は昼すぎまで別行動。その後にいつもの場所で昼飯を食べながら集めた情報の整理。そのあとは坂口のおっさんの相手して、夕方は豪勢に食事。そしてすぐ寝て深夜に備える。これでいこう」
そう言い終わると、すぐに二人で事務所を出た。そして有利と別れた後に、腐るほど見飽きた青い空を見上げながらつぶやく。
「今回は
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