第5話 マリー①
私が子爵夫人となって、二年が過ぎようとした頃。
今年は運が悪い事に、不作だった。
領民から支援を訴えられても、財布を握っているジェームズからこれ以上は無理だと言われればどうしようもなかった。
それならばと、自分の持ち物から売っていった。
着て行く所がないから、ドレスなんかは真っ先に売り払った。
何か他にできないかと、人手が必要なところを手伝って回った。
今まで自ら体を動かして働くことなどした事がなかったけど、そんな私の手が必要なほど、町の皆は焦っていた。
何とか冬を越せる見通しを立てなければならなかったけど、でも、困るのは次の蒔種の時だった。
そんな時に、追い打ちをかけるように、慣れない事で無理がたたったのか、私は病気になってしまったのだ。
手足に力が入らなくなり、眩暈も止まなかった。
薬代だけで、私に許されたお金の殆どが消えていく。
支払う賃金が無いからと、慣れ親しんだ使用人達もどんどん辞めさせられていき、残ったのは家令であるジェームズと、メイドのマチルダだった。
エルドに追加の支援を求めてみて、それでも音沙汰無ければ、エルドに叱られようとも両親に援助を求めるつもりだった。
御両親の意志を継いで、領民の事は大切にしているエルドだから、町の人の声を届ければ、きっと少し無理はしてでも手を差し伸べてくれるはず。
夜になると不安に襲われ、何度も泣いた。
エルドが、私のことなどこれっぽっちも気にしていないのはわかっていた。
でも、離婚などできなかった。
離婚して、悪く言われるのは女側の方だ。
そして、両親と弟に迷惑をかける。
弟はまだ学生だ。
私が家に戻れば、この先、弟に負担を強いてしまう。
手元を照らす小さな明かりの下で、エルドにあてた手紙を書いた。
その手紙は翌日、ちょうど町に商品を卸に来た商人に託した。
隣の領地から出してほしいと。
薬が買えないから生活費を増やして欲しいと言った内容と、領地の窮状についても書いた。
家令に託すと嫌な顔をされるので、商人に頼んで、エルドの返事を知りたかった。
でも、それにも返事はなかった。
おかしいとやっと気付いたのは、エルドのプライドを傷付けてしまうと思いつつも、恥を忍んで両親に援助を求めた時だった。
確かに手紙を送ったのに、待てど暮らせど返事がこない。
ジェームズは、本当に手紙を送っているの?
両親が私の手紙を無視するなどあり得ない。
何かがおかしいと気付いて、ここに居てはダメだと屋敷を出たけど、病の進行は思ったよりも早く、乗り合い馬車での移動の途中で、具合が悪くなって動けなくなっていた。
不安がらせてはならないと、町の人を頼らずに領外に出たのがいけなかった。
寝たきりに近い状態となった私は治療院へと運ばれて、意識が朦朧となる中、数日を過ごさなければならなかった。
そこで知った事だけど、私には遅効性の毒が使われていたようだった。
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