第43話 色戦争-0 S.N.O.W.
空を覆う曇り空は暗く、雨を閉じ込め続けているのが不思議なくらいだった。地上の湿気を閉じ込めているように感じられ蒸し暑さが体中を包む。
「ここが出現予定地の山」
黒騎士は誰にでもなく短くそう言った。場所はS.N.O.W.の
時刻は午前十時四十分を過ぎていた。
「いよいよだね。二人とも大丈夫かい?」
「大丈夫。ここまで来たら、なるようにしかならないよ。二人は前衛だから言っておく。全員無事で帰ろう」
わかりにくいがいつになく緊張した様子の剣、かえって落ち着いている風名だった。
その二人に五木は黙って頷いた。
「ちょっと、なんかないの?」
「いや、ありすぎて、何を言ったらいいのか」
ゴールデンウィーク、あの事件の最後。抜け落ちた記憶。風名に何を言って一人で
「まあ、みんな無事で、無理はしないでくれ。特に、風名」
風名の眼を見て言った。なぜかは言わなかった。理由は一言ではまとまらない。
「ご心配ありがと。そっちもね」
顔を背けて風名は言った。彼女が何を考えているのか五木にはわからない。あの日、五木が風名とのことを忘れていることを青龍が示した日。その前後で彼女の態度は大きく変わらなかった。変わらな過ぎて、不審なくらいだ。あの青龍が黙っておけなかったほどのものを抱えているはずだというのに。
「黒騎士、赤騎士。くれぐれも油断せぬように」
「まあ、言われるまでもないわね」
「白騎士のおっちゃん、俺はともかく黒騎士のねーちゃんならそんなこと言わなくてもわかるだろ」
「赤騎士。なぜ私がおっちゃんで、黒騎士がねーちゃんなのか、じっくり議論を交わしたいところですがそんな暇はなさそうですね」
「悪かったって……」
「白騎士、あなたも。赤騎士を睨む暇があったら気を引き締めなさいな」
騎士団の面々も何やら話し合っている。保護者のような白騎士が静かに怒気を滲ませるのは怖い。白騎士と黒騎士では十近く年が違うのだから、呼び方の違いも当然に思えるが五木は黙っておく。
「獅子、いや今は青騎士って呼んだ方がいいか」
「不要なのな。俺はとうに四ツ橋を放逐された身だが、元の名を捨てたつもりもないのな」
「……そうだな。こうやって戦うのもあの船以来だな」
「あのでかいウナギは大変だったのな」
「その時はお前寝てたろ。そん次のタコだタコ」
五獣の力を身に纏い使用する自身と同じような力――妖化を使う二人だ。機会があれば話を聞いてみたいと五木は思った。
「さて皆さん」
白騎士の静かな号令、その場の全員が黙りそちらを見る。
「逃げずに立ち向かうことを選んでくれてありがとうございます。いよいよ予知夢のその日を迎えました」
白騎士は泰然と笑顔を浮かべ一礼した。
「では配置につきましょうか。鳥居氏は早速空へ。マルコシアスの本体を叩いてください」
「わかった」
そう言うと鳥居は脚を妖化させた。武者の具足のようなそれで跳躍する。ある程度の高さまで行くと階段を上るように上空へと向かっていった。天翔ける雷獣の力の一端なのだろう。
「他の者は先日指示した陣形で待機。前、中、後、それぞれおよそ十五メートル間隔でスタンバイしてください。いいですか。召喚士を探してください。それが最速です。後衛のお二人は自分の身を守ることを優先とし、できるだけ召喚士の探知をお願いします」
風名と黒騎士をその場に残し、五名は前進する。
「言いたいことは言えましたか? 心の準備は? 初めてではないでしょうけど、前の時と同じくらいだと覚悟しておいてください」
白騎士は微笑んでいた。彼なりの
「私はここですね。前方お願いしますよ」
白騎士は立ち止まる。四人になった。
「刀刃、調子はどうだ」
「うん、いいよ」
「間違って斬ったらごめんなぁ」
「それは万に一つもないから安心していいよ」
赤騎士と剣はそんな会話をしている。剣は赤騎士に絡まれて迷惑そうかと思うとそうでもない表情をしている。
「この位置は任せるのな。できるだけ後ろは守るのな」
「できるのか、できるだけなのかわかりませんね」
青騎士――
「君は、ええと……アスモなんちゃらに集中するのな。この役割は君にしかできないのな」
「……ありがとうございます。あの、獅子さん」
この戦い、そのあとを考えるのは気が早いかもしれない。自分の力のことについての理解を深めたい。まずは
「今度、
「……わかったのな。約束、する。健闘を祈る」
最後に獅子は普通の口調でそう言い、立ち止まる。前衛のラインに到着したらしい。剣と赤騎士も歩みを止めた。
五木は一人前に出る。先頭を飾らせてもらう。主目的は守ることなので先陣を切るというほど気持ちのいいものではない。少しの心地よい緊張感。最初の一撃を防ぐのは自分だ。ドラゴンブレスは必ず防がなければならない。
全員が配置に着いた。空を往く鳥居の動向はわからないが、これで陣容は完成した。あとは召喚士を待つだけだ。
五木はそっと左腕を構える。すぐに玄武の盾を出せるように。
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