第40話 8月22日- 早まる脅威
アメリカンブラックウォールナットの床はワックスが丁寧に塗布されているようで確かな光沢を放っていた。それでも経年劣化は隠せておらず、年月を経た独特の風合いを
二人掛けのテーブルに着いているのは白騎士と黒騎士だった。互いに自身が担当する色とは全く逆の飲み物を
「最近おかしいです」
「あなたがおかしいのは、知ってる」
「いやはや、あなたまでそんなことを言うようになってしまいましたか」
二人の部下、黒騎士と赤騎士からあまり上司として接してもらえないというのも白騎士の悩みではあったが、今言いたいことはそれとは違う。
「昨日、残念ながら場所の特定はできなかったものの、召喚が行われた反応がありました」
「五行五木君のせいかな?」
「その通りです。彼が風名嬢救出の障害となった、悪魔カイムを倒したせいで得られたエネルギーを使ったのでしょう」
召喚士が元々用意する予定の悪魔だったのかはわからない。それでも準備が前倒しにできたのなら、予知夢の二十六日を待たずに決行する可能性がある。
ジョルジュが言うには、
迎撃の準備はできている。不可解部と榊橋鳥居の招集はいつにすればよいだろうか。いつ来襲するかわからないというのは落ち着かない。
「悪魔召喚ののち、一日は最低空けるでしょう。いくつの召還を行ったかはわかりませんが、消耗するのはエネルギーだけではありません」
「だからって一日休むとは言い切れないんじゃない?」
「そうですが、我々と不可解部相手に、焦って準備を怠るでしょうか? それに召還した悪魔と同調する時間も必要です」
明日、ではないことは確かだろう。黒騎士の言うように低い確率で強襲を仕掛けてくる可能性はあるが、捨ててもいいだろう。
「では明日は私とあなたで山に行きますか?」
白騎士の提案。五行五木以外でドラゴンブレスを防ぐことができるのは黒騎士の天秤だけだ。五木ならば、連絡を入れれば朱雀の力で飛翔し、五分もかからずに到着する。二発目には間に合うはずだ。
「オーケー、明日はナシってことでいいのね?」
「黒騎士、あなた面倒に思いましたね?」
明日ではないという確証はある。悪魔との同調が不十分だと制御から外れる可能性が大いに跳ね上がる。早くとも二十四日だが、日付の特定はしたい。毎日不可解部と鳥居にS.N.O.W.まで来てもらうのは忍びない。
「ねえ、白騎士」
「なんでしょう?」
「ここのチョコレートケーキがおいしそう。食べたらなんかいいアイディア浮かびそう」
「……わかりました。領収書はもらいますよ」
早速店員を呼ぶ黒騎士だった。金髪の美少女が珍しいのだろう。ウェイターは黒騎士を見る。日本語を話したことに安心しているようだった。
「はいこれ」
ケーキが運ばれると同時に黒騎士は一枚の紙を白騎士へ差し出した。白騎士が受け取ると同時に黒騎士はケーキを食べ始める。
「え、なんですかこれは?」
「
「飲み込んでから話しなさい。はしたないですね」
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色の騎士団、不可解部の皆様
二十四日、午前十一時、S.N.O.W.にてお待ちしております。
召喚士
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書いてある内容に思わずコーヒーを戻してしまいそうになった白騎士だった。
「こんなものがあるならさっさと出しなさいな。私の悩みの半分以上がこれで解決しました!」
「あー、うるさい。他のお客様もいるからお静かに」
召喚士襲来は明後日、あと四十時間もない。
「偽物? ではありませんよね?」
当然の疑問。こんな手紙を送ってくる義理はないはずだ。
「本日観測されたのと同じ魔力が手紙に残ってる」
黒騎士がそう言うのなら間違いはないだろう。本物、らしかった。ホテルの部屋、その前まで来たとは恐れ入る。
「明日、伝えます。私は不可解部。あとで夜回りの時青騎士と会いますよね? 鳥居氏へ伝えるようにお願いしておいてください」
「はいはーい」
二十日に伝えたばかりだというのに訂正するのは少し気が引けるが事実は伝えねばならない。すぐに準備してもらうほかないだろう。作戦の基本は変わらない。
「あ、そうだ」
「はい、なんでしょう」
「二十四日に事が済んだら、どれだけここに滞在できる?」
「……予定通り、三十日の飛行機で帰ります。報告書を書くのに少しばかり協力をお願いしますが、そこまで時間を取らせないつもりです」
「わかった」
白騎士は事情を聞かなかった。不可解部嵐呼風名の姉風使い嵐呼日方の失踪。魔法使いの間では有名な事件だ。当然その友人であった生徒たちもある程度には。
「無事に済んだら、です。そうなるように動いてくださいね」
白騎士がそれだけ言うと黒騎士は首肯した。すでにケーキは食べ尽くしたらしい。会計の為に席を立つ。
領収書を貰うのを白騎士は忘れなかった。
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