第13話 8月6日-3 色の騎士団
「十五時五六分四二秒、これはぴったりと言っていい時間ではないでしょうか」
三人の人物を連れている。それぞれ赤、黒、白――よく見ると青みがかっているフード付きローブの人物だ。昨日の白騎士とは異なり、全員フードはしておらず、その顔がはっきりと見られる。
こんな集団が学校の敷地内に侵入しても許されるのかと、五木は思った。
同時に不可解部などという名前の得体のしれない部活動があるのだから大丈夫なのだろうと納得した。半ば考えるのが無駄に思えたからだ。
昨日誰のところにも現れなかった青騎士であろう人物に目を向ける。アジア系の顔立ちをしていて、日本人に見える。昨日会った鳥居と同じくらいの年齢だろうか。
剣にのされた赤騎士は一晩で復帰したようだった。
「どうも」
軽い会釈。
「案内するために待っていてくれたとは、あなたは親切ですね」
白騎士は勝手な解釈をしたらしい。ポジティブシンキングだ。別段待っていたわけでなく急いできて乱れた呼吸をここで整えていただけだったが。
「ええ、こちらです」
五木はその誤解にとりあえず調子を合わせることにしつつ、騎士たちの顔を見やる。
赤騎士、黒騎士の容貌はおおよそ剣と風名から聞いて五木が想像した通りだった。
ただちょっと黒騎士が思ったより
「私の顔に何か付いてる?」
顔に似合わない
五木がそう思ったところで、風名からの情報が頭を
「いや特に、綺麗だなと思って」
「えっ」
黒騎士は目を一度見開き、顔を赤らめる。余計なことを言って怒らせてしまったな、と五木は後悔した。黒騎士はただ照れただけというのが真相だが。
「じゃあ、行きますか」
建物に入る。風名と剣を待たせるのは悪い。
「お前とあいつどっちが強いんだ?」
歩きながらそう尋ねてきたのは赤騎士だ。あいつというのは恐らく剣のことだろう。
「剣かな」
「なんだ、お前のが強かったら、お前を倒せばあいつより強いってことになると思ったのによぉ」
とんだバトルジャンキーのような発言をする少年だった。血の気が多いらしい、赤だけに。
剣の方が強いと言って良かったと心底思う。このままバトル展開に突入などまっぴらごめんだ。
他の三人がどう動くかわからない。白騎士一人にさえ敵わないうえに、多勢に無勢だ。勝てる気がしない。
五木と剣の対戦カードの成立はない。剣の方が強いだろうというのは五木の憶測だが、本当に思っている。
刃物使いとしての才能、そして血をも斬る刀、
「俺は青騎士なのな」
そして何の情報もない青騎士。
騎士団の面々全員の日本語スキルが高いせいで、話し方だけでは日本人とは判別できない。彼は他の三名とは異なり、常識人に思える。語尾に特徴がある以外は。
「本名は|本殿橋獅子(ほんでんばししし)なのな」
急に本名を公開したと同時にその名字に五木は驚く。
橋の苗字。そういえば
それはアウトではないのだろうか。
「俺は本殿橋家を破門になっているのな」
青騎士は五木の疑問を見透かしたように言った。
四ツ橋を破門された人物。先ほど
この人も鳥居と雷獣のように、何かしらの妖怪とコンビを組んでいるのだろう。その姿は今は見えない。
「お喋りはその辺にして、案内、お願い出来ますか?」
階段下で立ち止まった五木に白騎士は丁寧に言った。一番喋っていそうな白騎士に言われたのは心外だが、確かに約束の十六時を過ぎてしまっていた。騎士団員との会話を切り上げ、五木は階段を昇る。
年配の先生なら四階まで階段で昇ると息切れしてしまうが、騎士団の面々にはそんな素振りもなかった。むしろ学校まで走ってきてやっと息を整えた五木が最も疲れていたかもしれない。
無言で歩く。重苦しい空気を感じながら、後ろから撃ち抜かれてしまう可能性もあることに気がつき、小さく震えた。
あまり考え過ぎないよう、歩くことに集中しているうちに部室の前へ
「五木、ギリギリじゃ――」
風名に何か言われることは覚悟していたが、五木の後ろの面々を見て矛を収めたらしい。五木は心の中で白騎士にお礼を言った。
「どうも、風名嬢。初めまして。四騎士の代表、白騎士です」
丁寧に名乗ったのはおしゃべり紳士(五木評)の白騎士だ。
「おおー、風名ちゃん、かわいいじゃん」
「え、ええ、どうも」
チャラ男みたいなことを言ったのは赤騎士だ。
こいつは好きになれそうにないと五木は思った。風名も満更でもなさそうなのが少し気に喰わない。
「ざっくり紹介しましょう。黒いのが黒騎士、赤いのが赤騎士、白っぽくて青いのが青騎士です」
部室に入ると白騎士は本当にざっくりと紹介した。
「我々を案内してくれたのが五行五木君、出迎えてくれたのが嵐呼風名君、奥にいるサムライみたいな人が刀刃剣君です」
と、白騎士は続けて簡単に不可解部の紹介も行った。白騎士と直接会ったのは五木だけだったはずだが、ただでさえ少ないメンバーだ。残りのメンバーの推測は
風名は立ち上がったまま着席せず、入口右手のホワイトボード、その横へ移動した。
一方の剣は頭をホワイトボードに向けているものの窓の外を眺める姿勢から微動だにしない。
「じゃあ、始めましょうか」
何やら風名が仕切り始めた。
流石は風使い、場の空気を掌握するのもお手の物か。などとうまいことを思いついたからあとで言ってやろうと五木は思った。
ちなみに騎士団が帰った後で言った結果、風名は少し機嫌を損ねることになる。
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