第23話 終わりに ~私の出版奮闘記~
私は1960年生まれで、やがて還暦を迎える人間です。原稿を書き始めたのは1995年、35歳の時でした。この時の原稿は完成するまで実に17年の歳月がかかりました。
出来上がった本は現在KDPとPODで出版している『The Beatles 音源徹底分析 1~8』です。PODではA4サイズで、ページ数で合計1,842頁というとんでもない物になってしまいました。
出版は初版が2018年1月で、PODだけでした。当時すでにKDPはありましたが、私は作家の病気とも言える「紙の本出版病」にかかっていたと思います。
本書で触れたようにその後考えを変え、KDPで出版したのが2019年の4月です。その後KDPでシリーズ小説を11作、KDPの『The Beatles 音源徹底分析 1~8』をPODで同じ装丁にして2020年2月に改訂出版しました。
振り返って見ると私は原稿を書くことはできましたが、それを順次出版していく方法は何も知らなかったのです。シリーズものを一時に一斉に出版するメリットは少ないと思います。
むしろKDPの長所である改訂のし易さを使いながら、順次出来上がるたびに出版していく方法がベストではないかと思います。読者の反応や新しい事実の反映、さらには書きながら原稿の質を上げていくことが出来るでしょう。
この本で私が伝えたかったのは、原稿を持っている皆さんが、私が患っていた「紙の本出版病」から覚めて出版し、「私は作家なのだ」という自信を持っていただきたかったからです。
もうひとつは、今の世の中はインターネットによる変革の時代の中で、自己責任で出版し、堂々と印税を受け取れる時代になっていることを知って欲しかったためです。
それは成人だけでなく、高校生や中学生、また紙の本しかなかった私と同時代の中高年齢層へのメッセージでもあります。
私の趣味のひとつに音楽があります。ギター、ベース、ピアノ、ドラムス、フルートといった楽器を弾き、また歌もソロ、コーラスと合唱団やバンド活動で腕を磨き、アマチュアですが、人前で演奏して恥をかかないくらいには技術を身に付けてきました。
拙著『The Beatles 音源徹底分析1~8』は、そんな私が愛してやまないビートルズの音源の探求を、自身でカタログ化したいと思ったのが書き始めた動機です。最初から八冊もの本になるとは考えていませんでした。
また私が自分の演奏のために使う道具を開発するときに、
「ひょっとしてこれ、特許になるんじゃないだろうか…」
そう考えて取り組んだ結果、三件の特許と二件の実用新案の権利取得につながりました。
特許を取ったとはいえ、何処も製品化してくれず、頭に来た私が特許取得までの経緯とノウハウを原稿に書き殴り、小説投稿サイトに投稿したのは『The Beatles 音源…』を同サイトに投稿してから半年以上経ってからでした。
正直に言うと、
「そういえばあの原稿もあったな…」
程度のことだったのです。
しかし、人生とは分からないものです。この投稿サイトの原稿が出版社の目に留まり(もちろん、企画書を送ってのことです)、あれよあれよという間に紙の本になって出版されたのです。
振り返ってみると、私の出版や特許取得というのは、そのスタート地点には常に音楽がありました。
実はこの本を書いたことも、音楽と密接に関わっています。かつての私は多くの演奏家と同じように音楽のプロになって、自作曲を作って自演し、レコード・デビュー(今でいうメジャー・デビュー)することを夢見ていました。
しかし、多くのアマチュア演奏家同様、私にはそんな機会は訪れず、何よりもプロとして人気を博すような能力も、ルックスも、そして環境もありませんでした。
あにはからんや…、インターネットの登場はそんなメジャー・デビューの形態も変えてしまっています。レコード盤の時代なら、自作曲を自宅や学校の音楽室・講堂などでどうにかこうにか録音し、そんなカセットテープの音源をレコード会社に送って採り上げてもらう…。そんなことを何年も繰り返す必要がありました。
あるいはポプコン(ポピュラーソング・コンテスト)に出場し、並み居るライバルを抑えて優勝し、レコード会社から声がかかるのを待つ…、等の辛抱強い下積みが必要でした。
しかし、今の時代のメジャー・デビューは様変わりしています。アーティストは自作曲やカバー曲の演奏をアイホンで撮影し動画にしてYoutubeに投稿します。
世界中の人たちがこれを見たり演奏を聞いたりします。そして再生回数が伸びれば伸びるほど、レコード会社の注意を惹きます。その結果メジャー・デビューにつながっていく…。そんな道筋が既に確立されているようです。
レコード会社にとってもメリットは大きいのです。実力はあっても無名の新人をデビューさせ、売れるアーティストにしていくには莫大な広告宣伝費がかかります。アーティスト自身も、ドサ廻りと呼ばれる地方行脚をして、とにかく名前を売っていかなければなりません。
しかし…、です。Youtubeで沢山の再生回数があり、既に名前が知られているようであれば、そんな金も時間もかかる広告宣伝やドサ廻りなどする必要が無いのです。今や時代はこんな風に変わってしまっています。
ここまで読んで頂き、この変化は何かに似ているとお感じになりませんか? そうです。私がこの本で書いた
『KDPの電子書籍とPODの在庫負担の無い紙の本をお金をかけずに出版し、そこでの売り上げを背景に、大手出版社に売り込んでいく…』
と、全く同じ構図です。
そしてそれは、歌手デビューするのに音楽という特殊な才能が必要であるのと同じように、本を出版するための原稿を書くことが出来るという、稀にみる特異な才能を持つ人たちにとって、本当の意味で実力で勝負することが出来る社会と環境がそこにあることを意味します。
私のような回り道と無為な時間を過ごすことなく、様々な立場のたくさんの人たちがどんどん自分の主張を、『本』という形にしていかれることを願っています。本書がその一助となれば幸いです。(了)
本を出版したいけど… @telshun0223
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