第11話 第九章 作家は何をするの?
アマゾン出版で作家が行う作業
出版社による出版とアマゾンによる出版の違いはご理解いただいたでしょうか。大括りに言うと、編集作業でやりとりは発生しますが、基本的に本の内容以外の全ての手続きや作業は出版社が行うのに対して、アマゾンでの出版は販売以外の作業を自己責任で自分で行うのがその特徴です。
では、アマゾンで作家が出版までに行う作業、そして出版されてから行う作業にはどういったものがあるでしょうか。
出版までに行う作業は比較表の「作家の作業」欄の項目と、「権利確認作業」がそれです。一つ一つ見ていきましょう。
原稿のデータ化
アマゾンの電子書籍はデジタル・データで、買い手に配信されます。PODは紙の本に印刷されて届けられます。一冊ごとに印刷されるので原稿はデータ化されています。そのためどちらも出版の準備にあたっては原稿のデータ化を行わなくてはなりません。
具体的には電子書籍はword.形式またはEPUB形式というテキスト・データにする必要があります。
あなたが書いた原稿が、パソコンのマイクロソフト・ワードやテキスト・エディタ、メモ帳と呼ばれるエディタなどで作られたものなら、すでにデジタル・データになっていますから、作業は難しくありません。パソコンを使ってword.形式またはEPUB形式に変換すればOKです。
PODの場合は、word.形式またはEPUB形式というテキスト・データをさらにpdf.形式に変換する必要があります。このpdf.形式のデータをアップロードするのです。つまり、どちらも一度はword.形式またはEPUB形式というテキスト・データにする必要があります。
EPUB形式はword.に似たテキスト・データの形式です。電子書籍に適した形式として普及しています。しかし、EPUB形式は経験の少ない方には扱いづらい形式です。難しいわけではなく、スペックの古いPCなどでは変換がうまくいかなかったりします。
現在では、マイクロソフト社のオフィスに梱包されて普及しているワードで電子書籍が作れるようになっています。ただし、拡張子がdocx.形式でなければだめだったりと、制限もあります。
pdf.もヴァージョンの制限があり、作家のPC環境によってはアップロードがうまくいかなかったりします。
問題になるのは、かつての作家がそうであったように、原稿用紙に手書きしたものや、絶版になった本しか残っていない場合は、これを最初から最後までデータ入力してデータ化しなければなりません。原稿用紙の枚数や本のページ数にもよりますが、厚手の本だったとしたら、作業量は膨大です。
しかしアマゾンで出版するなら、この作業は避けて通れません。自分でやりこなせないなら、ネットを探せばデータ化してくれるところをたくさん見つけることが出来ます。費用はピンキリでしょうが、基本は1文字いくらの計算がほとんどです。
校正作業
校正とは、簡単に言えば誤字脱字の修正です。校正と校閲は混同しやすい作業です。本来は目的の違う異なる作業なのですが、経験のない人がやろうとすると、両方の作業を同時に行ってしまうことがあります。その場合、両方とも不十分な結果に陥ることもしばしばです。
もともと原稿は作家が原稿用紙に手書きするものでした。これはこれで味があるものですが、今どきはパソコンのテキストに打ち込んでデータ化されているものがほとんどです。
紙の原稿を本にするためには、当時は活版印刷でしたから、一文字ずつその活字(逆さ文字になっている)をピンセットで順番に並べていき、組版を作ります。これが版型になります。活版印刷は、原理としては版画と同じです。この組版された1ページにインクを塗り、紙に押し付けてインクを紙に移すことで印刷します。
昭和の頃、街中の年賀状やチラシなどの印刷を請け負う店は、多くは印鑑を作ってくれるハンコ屋さんがやっていました。つまり、組版作業には逆さ文字を間違わずに素早く見分ける技術が必要だったのであり、この技術は同じく逆さ文字で彫り出す印鑑つくりの技術と同じものでした。
しかし、人間が組んだ組版の活字はどうしても間違いが起こります。文字を間違わなくても、版に入れる時に横向きになってしまったりすることもあります。
この最初の組版で印刷したものがゲラ刷りで、校正は原稿とこのゲラ刷りを両方見ながら活字の間違いを正していく作業です。
出版社における校正作業は、まずプロの校正人数名が最初のチェックをかけます。この時の修正箇所は赤ペンで行われます。
次にこの段階で再びゲラ刷り(トンボが入っているやつ)がされ、作家に送られ、作家自身が通読して今度は青ペンでチェックします。多い時はこの作業が数回繰り返されます。
コンピューターという機械は全くもって凄い代物です。マイクロソフトのWordには『スペルチェック』という機能があります。これは校正作業の強い味方です。
誤字については全面的に任せるわけにはいかないところもあります。たとえ一般的には使わない文字や表現であっても、敢えて作家が意図的にその文字や熟語表現を使用していることは多々あり、優秀ですが「機械さん」であるWordはそこまで斟酌してはくれません。もちろん忖度も。
このようにアマゾンでは、作家がすべて行わなければなりません。
校閲作業
校閲とは文章表現の適正化の作業です。順番としては上記の校正作業が終わったのちに、ゲラ刷りを読むことで行われます。読むと書きましたが、校正では文章を読むことはしません。文字の間違いだけがチェックされます。そのため昔は読みながら進めるのではなく、原稿を左に、ゲラを右に置いて、文章を文末から文頭に向かって反対側にチェックを進めていくことをやっていたそうです。校閲の作業に至って初めて文章を読む作業になるのです。
具体的には日時や場所、法律や条令、地名やデータ類、固有名詞や内容の矛盾がないか、人物関係や編年に間違いがないか、おかしな表現はないか、法律や慣習・常識、公序良俗に抵触する表現はないかなどの修正作業であり、簡単に言えば文意の適正化作業です。出版社との編集作業で作家が関わるのは主にこの作業です。
これももちろんアマゾンでは作家がすべて行わなければなりません。
編集作業
厳密にいえば校正・校閲も編集作業です。ここで言う編集作業は章割り・節割りといった本として読みやすい構成にしていく作業です。
簡単に言えば目次をまとめる作業と言えるでしょう。場合によっては章の順序を入れ替えることなどもあります。
これもアマゾンでは作家がすべて行わなければなりません。
表紙作成
比較的ハードルが高いのが、この表紙作成作業です。世間にはデザイナーというクリエイティブな職種の人たちがいます。専門職であり、誰でもができる事ではありません。私もこの方面はからきしです。私が出版したKDPもPODも、プロのデザイナーに頼んで作ってもらいました。これもネットを探せば安価で請け負ってくれるところを見つけることが出来ます。
大切なのは、表紙は文字通り本の看板であり、その良し悪しは結果に大きく影響するということです。よく言われるのが、音楽レコードやCDのジャケット買いの例えです。
レコード・ショップでジャケットが気に入って、それだけでつい買ってしまったという経験は、多くの人に共通しています。同じことがアマゾンでも起こり得ます。
自分で作ったはいいけれど、白背景にゴチックのタイトル文字だけ…、などはあまりに色気がありません。映画やドラマの台本ではないのですから、我が子同然の作品にはきれいな着物を着せてあげたいものです。
出版社では、もちろんプロのデザイナーがいくつもの案を作り、作家の意見を聞いた上で、編集会議で決定するという過程を経て作られます。
これももちろんアマゾンでは作家がすべて行わなければなりません。
権利確認作業
【著作権、出版権に関する確認】
前述のように創作物である本は、創作した作家が著作権を所有しています。出版社は作家と契約してその本の出版権を得ます。この時の出版社の立場は出版者(紛らわしい)または出版人と呼ばれます。
アマゾンでは作家と出版人が同じなので、この契約は存在しません。なのでこの点に関する法律的権利関係の確認作業は必要ありません。
これが必要になるのは絶版本の出版です。絶版になったということはそれまでの作家との契約上の出版権を放棄したことになるので、絶版の事実を証明する書類、例えば出版社から届いた「絶版にします」という通知書等があれば十分です。
受け取った時に頭にきて破り捨てていたら、証明する書類がありません。この場合は出版社と交わした契約書(作家も一部持っている)に基づいて、出版社に問い合わせを行い、絶版にしたことを証明する書類を送ってもらうことになります。
亡くなった親族が書いた本だけが手元にあり、おそらく絶版なのだろうがはっきりわからない場合は、その本の奥付に書かれている出版人(出版社と同一)に問い合わせをすれば教えてくれます。
また本さえも手元にない場合は、記憶をたどるか、故人の遺品の山をひっくり返して当時の契約書や原稿を探さなくてはなりません。それでも分からない場合は、国会図書館で調べる必要があります。
国会図書館は商業出版された本の現物を保管している図書館です。膨大な資料があるわけですが、ここで作家名、本の題名などを頼りに蔵書の照会を行います。この蔵書にある奥付に、求めるデータが載っています。
当時の出版社が潰れて問い合わせが出来ない時があります。また作家名が変名、つまりペンネームで、さらには題名さえも、出版年すらはっきり分からない場合は、文化庁の著作権登録データベースで調べることになります。
商業出版されていれば、当時の出版社が登録を行っているかもしれません。仮に変名で出版が行われていても、登録は必ず本名でされています。
この調査は少々厄介です。というのは登録時は氏名と生年月日および当時の住所(住民票を提出している)でされています。そのため、求める登録者が亡くなった親族であることを証明する為には、当時の住所を証明する公的書類が必要です。具体的には故人の除籍謄本とその除籍簿の附表(住所地の移り変わりが記録されている)を提出します。それでも分からない場合は古書店を訪ね歩くしかないかもしれません。
ここで奥付について触れておきます。本の裏表紙を捲ると、最後のページにあるのが奥付です。これはその本の住民票のようなもので、著者、出版社、発行人、印刷者、初版・重版の発行年月日、ISBN等のその本の基本情報が載っています。
ISBNはInternational Book Standard Number の頭文字を略したもので、日本語では「国際標準図書番号」です。本の識別用に設けられた国際規格コードの一種です。イギリスではじまったものですが、日本では1981年にこの国際的枠組みに加盟しています。
その後規格表示の様式が何度か変更され、現在では13桁の数字による表示形式になっています。
「日本図書コード管理センター」という団体が付与・管理を行っています。このISBNは基本的に出版人を識別し、どのような流通経路で販売されているかという、書店・取次側の必要情報です。つまり、書店で問い合わせがあった時に出版人を特定できる識別コードです。
本が残っていなくてもこのISBNがわかっていれば、発行した出版社にたどり着くことが出来ます。しかし、本が残っていない状況でISBNだけがわかることはまずないでしょう。
1981年以前に発行され、1981年以降に重版されなかった本、つまり1981年以前に絶版になった本には、このISBNコードがありません。
絶版通知書も、本も残っておらず、題名や変名(ペンネーム)も不明の場合、この調査は困難を極めると考えます。調査計画を立てて、専門業者に依頼するか、時間をかけて行うしかないでしょう。
一つだけ救いの神が居ます。やはりインターネットです。記憶を頼りに題名・著者名(変名含む)をキーワードに検索をかけると、出てくるかもしれません。古書店のページや個人研究家といった人たちが在庫やコレクションを発信している場合があります。
こういった方法で本さえ手元に寄せることが出来れば、データ入力の必要はありますが再版は可能になります。
【他者の権利の使用許可】
作品の文中で他の権利者の権利を文章で紹介する場合などは、権利者から使用許可をもらう必要が生じます。
実際私が書いた『あなたのアイデアで特許をとろう! ひとりでできる特許・実用新案取得のススメ』(産業能率大学出版部刊)では、台所用品で特許をとった主婦の権利の内容を例として紹介するために、この方に対して文中での使用の許可を求める手紙を出し、許可する旨の文書にサインしてもらって返信してもらいました。
こういったことは面倒な作業ですが、これを行わずに出版した時はリスクが発生します。権利者が怒って出版の差し止めを求めてきたり、損害賠償を要求されることもあり得ます。
特に私が書いた本は特許権という大変強い権利に関するものだったので、この作業には細心の注意が必要でした。特許権に限らず、世の中には様々な権利があります。昨今の個人情報保護の重要性を考慮すれば、実名表現には特許権同様、細心の注意が必要です。
ここでは、絶版本に関する必要な調査項目としてあげましたが、新たに創作する場合、つまりあなたが本を書く場合も、必要な確認事項です。
【著作権の登録】
前述のように、著作権自体は創作がされた時点で発生しています。しかし、第三者に対して著作権を有していると対抗するためには、文化庁に著作権登録する必要があります。これは必須ではありません。前述のように対抗手段を準備する方法として、登録が最も適しているということに過ぎません。
この場合考えられることは、例えば出版してから他の作家から「盗作だ」などと言いがかりをつけられたりすることが無いように、創作されて公表された年月日を登録して証明できるようにするということです。つまり、その内容をどっちが先に創作したのか、この登録された年月日で証明するのです。
この登録作業には、公表の年月日とそれがされた場所、そしてその公表内容を別の第三者が見た事を証明する申請書が必要になります。
これらの手続きは一般の方々にとっては簡単ではないと思います。特に国会図書館や文化庁への照会や登録手続きは若干の知識が必要です。これらについて、巻末に詳説していますので参照ください。
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