第10話 第八章 アマゾンのいいところ

 KDPとPODの利点


 前記の比較表には記載しませんでしたが、出版社の紙の本に比べてKDPとPODには書籍自体の魅力があります。それはともに在庫を抱えなくていいという点に結びつきます。

 電子書籍を紹介する本は多数出ています。それらのほとんどがKDP、つまりアマゾンで販売する電子書籍をモデルにして書かれています。今やそれだけ電子書籍と言えばアマゾンのKDPだと言われるほど(半ば)独占的な状態になりつつあります。

 私はKDPとPODは作家サイドから見て大変使い勝手のいいメディアであると考えます。それは、改訂のしやすさに尽きます。世の中の事柄は常に変化します。法令の改正、新たな事実の登場、従来公知であった事柄についての修正の必要性などなど、書き出したらきりがありません。

 あなたが書く本が、これらを常に追っかけて行かなければならない分野のものだとしましょう。そうすると、変化した事柄は著作の中に修正して盛り込んでいかなければなりません。

 出版社の紙の本ではこれは簡単にはいきません。原稿の変更は行きつくところ組版の変更なのです。初版で5,000部印刷した本が現在3,000部売れているとしましょう。残りは2,000部です。幸い本の評判は上々で、残り2,000部を売り切った上で、このままいけば重版対象のリストに載ると目されています。

 この段階で新たな事実が明らかとなり、作家は自著にこれを修正して盛り込まなければならなくなりました。作家は出版者に連絡を取り、改訂はできるかと尋ねます。この時の出版社の判断は、彼ら特有の、最も悩ましい問題になります。

 改訂するためには、本は印刷物なので、変更箇所を組版し直さなければなりません。変更箇所が本の最後のページならばまだ悩みも小さなものかもしれません。しかし、その箇所が全体の真ん中や第一章だとするとどうでしょう。

 その部分を組み替えして新たに組版を行うとすると、以降のページ番号も変更しなければなりません。当然目次ページも変更です。今どきの印刷技術ならば組み換えはさして難しくはないでしょう。しかし次の場合はどうでしょう

 新たに加わる章の容量が80頁に及び、本全体の厚みが数ミリ増える…。これは印刷技術の問題ではありません。物質的な紙によって作られている本は、文章量が増えるとこれを記載する紙の量が増え、その結果コストが上がってくるのです。

 作家としては、新事実のいち早くの掲載は読者に対しての大きなアピール要素です。しかし、出版社にとっては頭の痛い問題です。

 このケースのようにまだ在庫を2,000部抱えている段階で改訂を行えば、残り2,000部の在庫は全て死に在庫(デッド・ストック)です。加えて改訂を行うならばその分費用が発生します。初版時と同じく5,000部印刷するとして、初版時からの予想累計販売で、目標の利益を回収できるでしょうか。

 少し前までは重版対象の金の生る木だったものが、勢い2,000部の在庫を残して絶版になることも考えられます。出版社としても、作家の機嫌を損ねるようなことはしたくありません。同時に社会に対しても、文化の発信者として最新の情報を世に出す責任を負っていると自負しています。

 しかし、出版社も営利企業です。そんなこんなですったもんだ議論をしているうちに、他社の新刊に美味しい所を持っていかれてしまった…。よくある話の様です。

 KDPとPODならば、こんなことは発生しません。作家が鋭敏に世の中の変化にアンテナを張ってさえいれば、すぐに改訂し翌日にはネット上のページで最新版を配信することが出来ます。

 PODもKDPよりは若干時間がかかりますが、それでも従来版を廃刊して改訂版を登録すれば数日で従来と同じように販売が開始されます。この場合も費用はかかりません。

 そのスピードは目を見張ります。KDPでは、修正部分をアマゾンがチェックをして、早ければ半日で差し替えが行われます。

 そしてそれまでは従来本が販売されており、途切れなく販売されるのです。改訂部分がこまかな、例えば校正のミスで見落とされた「て に お は」等であれば、題名に「改訂」の文字も必要ないでしょう。つまり、読者は改訂されたことさえ分からないこともあります。(もちろんアマゾンの処理上はそれが二訂・三訂と記録が残ります)

 出版社が改訂版出版を決意した場合のことも書いておきましょう。まず作家は修正原稿を出版社に送ります。ここまではアマゾンと同じです。出版社は大急ぎで編集作業を行い、組版を作ります。

 印刷会社は新たな組版で、そうですね、初版と同じ5,000部印刷し製本します。このケースでは連合体のうちの印刷会社・製本会社・取次・運送会社にとっては仕事が増える美味しい話です。

 取次と運送会社はこれらをトラックに積んで(あるいは貨物のコンテナに載せて)最終的に書店に送り届けます。ここまでは物流にのってスムーズに進みます。

 しかし書店は違います。従来の本を店頭と倉庫から取り出して段ボールに詰め、取次を通じて返品の作業をします。次に届けられた段ボールの梱包を解いて、改訂の本を店頭に並べ、また広告宣伝のポップがあればこれを店内に張り出します。

 これらは全部人間の手作業です。ここまで持ってくるのにかかる日数は都会と地方では差があるでしょうが、少なくとも数週間はかかるでしょう。

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