ドライネーム

仲仁へび(旧:離久)

第1話





――神様は、その少年を見て渇き世界と引き合わせた。





 とある少年。


 アステルはゲーム好きの少年だ。


 三度のご飯より、は大げさだがそう言ってもいいくらいには好きだった。


 たくさんのサイトでゲームのクリアレビューを書いていた。


 遊ぶのは、有名なゲームからコアなゲームも。


 色々なものをやるため、多くのファンに知られている存在だった。


「何か面白いゲームないかな」


 だからアステルが、その変わったゲームと出会ったのも、必然だったのかもしれない。


 いつも通りの訪れたゲームショップ。


 そこで、アステルは興味深いゲームに出会った。


「面白そうなゲーム発見、なになに? 荒廃した世界で冒険?」


 それは、枯れゆくばかりの世界を舞台にしたRPGファンタジーゲーム。


 砂漠の景色がパッケージに描かれているのが特徴だった。


「安いし、買っていこうかな」


 その価格は五百円。


 学生のお小遣いでも購入できる値段だ。


 アルバイトをしているアステルは、普通のゲームも買えるが、安いに越したことはなかった。


 そのゲームは、フィールドにもの悲しい廃墟が多い特徴がある。そんな世界観が目立つ商品だった。


 主人公がいなかったら、近い未来消滅していただろう村や町を舞台にしている。







 アステルは、荒廃していく世界で冒険する、そのゲームに夢中になった。


 その世界は、だんだんと水の恵みが得られなくなっていく世界。


 人々は水の少ない生活の為に、苦難の時を過ごしていた。


 井戸はいくつも枯れていて、川や湖も干上がりかかえていた。


 雨は何日も降らない日が多い。


「今日も雨がふらない」


「川の底が見えてしまっているよ」


「海があれば。近場にあった泉もかれてしまった」


 拠点としている村のNPC達はいつもそんな事を言っていた。


 そのためゲームの中の人々は、祈りの巫女という存在にすがるしかなかった。


 祈りの巫女は、雨ごいを行うための存在だ。


 村はずれの神殿で、祈祷を用いて天へ祈りを捧げている。


 アステルが訪れた時も祈っていた。


「雨よ、天よ。どうか私達に水の恵みをください」


 中学生程の年代の少女だった。


 神殿の祭壇を前にして、真剣な表情で祈りの言葉を口にしていた。


 彼女が祈る事で、天は水の恵みをもたらすはずだった。


 しかし、巫女が祈っても、一向に状況は改善しなかった。


「やっぱり、雨が降らないわ。このままじゃ、皆の生活がまわらなくなってしまう」


 雨は降らず、世界は枯れるばかり。


 一か月ほどもそれが続くと、人々は、次第に余裕をなくしていった。


 そして、巫女に辛くあたるようになっていった。


「役目を果たせない巫女なんて、巫女失格だ」


「きちんとはたらけよ」


「なんでちゃんとやってくれないんだ」


 そのため巫女は、人々の手によって茨の檻にいれられ、外に出られなくなってしまう。


 それでは余計に事態が悪化するばかりだというのに。


 余裕のなさは、人々から正常な判断力を奪ってしまったのだ。


「なんだか世界が物騒になってきたな。一人の女の子によってたかって責めるなんて。気持ちはわかるけど、見てられないよ」


 そんな世界を冒険するでアステルは、巫女の祈りが力を発揮しない原因を調査する事になった。








 さっそく行動していくアステルは、色々な土地にいって、雨ごいの儀式を調べた。


 様々な巫女に合って、儀式のやり方や効果を聞いていく。


 そして、分かったのは。


「触媒が問題だったのか」


 雨ごいを行う代々の巫女は良質な触媒を用いて、雨を呼ぶ魔法を行使していた。


 しかし、枯れつきていく世界では、その触媒はとれない。


「悪質な触媒しか、のこってないんだ。この土地には」


 必要になるその触媒は、みずみずしい草花だったからだ。


 だからアステルは旅をして、遠くのまだ枯れていない地から草花をもってくる事にした。


「お兄さんこんにちは、たびびとさん?」


「遠くからきた人なんだって?」


「何の目的でこちらまで?」


 それはその土地の人々に聞いては、あちこちでより質のいいものを探す日々だった。








「やっと見つけた、この触媒があればどうにかなるかも」


 そして、それをとうとう発見した。


「この土地は、とても肥沃だ。それにまだ雨が降っていて、水が豊かだ。ここならきっと」


 アステルは、アイテムの品質が変わらない保存バッグを使用して、それを運ぶ事にした。


 ゲームの設定で最初から持っているものだ。


 他の人はもっていないため、なぜなのか思っていたが、こういった役割の為かと納得する。


 はるばる遠方の地へ向かったアステルは、拠点の村へと戻る。


 肥沃な大地から土ごと運んできた触媒。


 枯れた土地にとって、貴重になるそれは、見事に触媒の役目をはたした。


 人々に旅の事を告げて、祈りの少女を開放し、祭壇へ。


 祈りの少女はアステルにお礼を言った。


「アステルさん、ありがとうございます。これで雨を降らす事ができます」


 そして、巫女が行った雨ごいの魔法は成功。


 その結果祈りの巫女は、人々と仲直りする事ができるようになった。


「今までごめんね」


「余裕がなくてむしゃくしゃしていたとは言え、酷い事を言ってしまった」


「なんであんなことをやっちまったんだろう。悪かったよ」


 雨をふらす曇り空に歓喜する人々。


 人々は今までの事を巫女にあやまって、彼等は仲直りする事が出来た。


 その光景を眺めたアステルは、そのゲームをやってよかったと心の底から思った。


 ゲームはエンディングになり。


 そのまま、終わるかに思えた。


 しかし、なぜか情報誌やネット情報にもない続きがあった。







 水の恵みを取り戻した世界。

 

 しかし、それは一時的な恵みにすぎない。


 その世界の人々は、再び世界が枯れていくかもしれない、と不安に思っていた。


 そして、枯れていく世界の中で余裕をなくし、心が鬼の様になってしまう事を恐れていた。


「アステル様、どうか引き続いてお知恵をおかしください」


「奇跡をもたらしてくださったアステル様なら、さらなる奇跡を呼び起こせるかもしれません」


「我等をお導き下さい」


「えっと、困ったな、こんな事になるとは思わなかったんだけど」


 アステルは、困った人達を見て、放っておけなくなっていた。


 その世界の状況をなんとかしたいと思うようになっていた。


 しかし、その世界はゲーム。


 それ以上何か手を加える事などできない。


 アステルは、どうしようもなかった。


 けれど、二度目の奇跡が起きたのだった。


 その様をどこかで見ていた神様が、アステルに微笑んだ瞬間だった。








 枯れゆく世界の中の一人、神の力を有する巫女。


 祈りの巫女の願いが、アステルをその世界へ呼び寄せたのだった。


「この世界にいる神様、どうか奇跡を。今までの十分に感謝しています。しかし私達はまだ足掻いて生きなければなりません。どうか私達のような、非力な人間をお導き下さい」


 光がはじけ、世界が繋がり、奇跡が形を成す。


 その時、世界は再構築され。


 データだった者達の塊には、確かに存在感がやどっていた。


「えっ、これって異世界転移とかそういう?」


 アステルは、巫女の祈りによって顕現したその世界に転移していたのだった。








 異世界に転移してしまったアステルは戸惑い、巫女もデータだった世界の真実を知ってショックを受けた。


 しかし、彼等はその真実を乗り越えて、世界の存続をはかる事にした。


「正直ぜんぶわりきれたわけじゃないけど、ここに生きてる人達を見捨てるなんてしたくない」

「アステルさん、巻き込んでしまった罪は必ず償います。ですからどうか今は、力と知恵をおかしください」


 彼等は、枯れ行く世界をどうにかするために、様々な手を打った。


 その世界の各地を歩き回り、地質や天候を調査し、歴史をひもとき、


 そして、潤いを奪う古代の機械を見つけ、壊し、


 降り注ぐ水の恵みを逃さぬよう町や村の形を作りかえた。


 そして、途絶え絶滅した緑の芽を復活させ、緑の少ない土地へ芽吹かせ、様々な命を育んでいった。


 アステル達の尽力により、世界はゆっくりとゆっくりと息を吹き返していった。


 生ける奇跡と化したアステルと巫女はやがて、時の流れから切り離されてしまったため、長い間その世界で過ごす事になった。


 しかし、彼に後悔はなかった。


「この世界に出会えてよかった。こんなにも人から求められる事は今までなかったから。役に立ててこっちの方が救われたよ」


「本当に後悔はないのですか。貴方は巫女である私もこの世界の人達も責めないけれど」


「少しもわだかまりがないと言ったらうそになるけど、大切な感情の方が今は大きいから」







 アステルと巫女はその世界とともに、長い時を過ごした。


 そして愛する世界が十分に回復するのを見届けて、彼等はの世界を去っていったのだった。




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