『なぞの階段』

やましん(テンパー)

『なぞの階段』 上


 ある日、ふと見つけた喫茶店兼食堂は、表通りから一本裏に入った道沿いにある。


 間口が狭いし、大した看板もなく、見つけにくい。


 しかし、とにかく、静かで、BGMもなく、テレビもラジオもない。


 だが、べつにグルメでもないぼくには、さして問題ではないが、コーヒーもあっさりしていて飲みやすく、品数は少ないけれど、料理も上品で美味しくて、リーズナブルだ。


 野菜鳥肉定食が、絶品である。


 ただ、マスターや、ママとは、オーダーや支払いのときに、ちょっと会話するくらいで、それ以上の話とか、したことがない。


 他のお客様も、あまり話し、してるような人は見ない。


 孤独の好きな人の、カフェなのかもしれない。


 ただ、1つだけ、気になっていることがある。


 階段だ。


 それは、壁に張りつくように存在し、高い天井よりも大分下で終わっている。


 2階席はなさそうだし、天井裏もありそうにない。


 ドアもないし、つまり、どこにも続かない階段だ。


 飾りなんだろうとは思っていた。


 一度だけ、その頃の一月ほど前、背の高い、いささか寂しそうな男性が階段の一番上に座っているのを見たが、そのひとは、その後は見ないのである。


 通いはじめて一年半はたち、なんとなく、ぼくが、そこにいるのが当たり前になった頃、マスターに、ふと、尋ねてみた。


 『あの、階段は、かざりですか?』


 聞き方が、わるかったかな、と、心配はしたが。


 『そうでもありません。まあ。立ち見席と申しますか。そんなものです。でも、上がってみても、なにもなりません。』


 『まえ、上がっている人を見ましたよ。』


 『ああ、まあ、禁止はできないので。でも、お勧めは、しません。あそこでは、なにもできない。おわかりでしょ。』


 『そうですか。』


 それで、終わりになった。


 要するに、飾りである。


 そういう、意味だと思ったのだ。


 

 それから、しばらくして、ぼくはたまたま、行方不明になってる方のうち、公表されてる人のリストを、警察のホームページでながめていた。


 すると、あの階段の上の人に、良く似ているかもしれない、という方を、ふいに見つけたのだ。


 いや、これは、マスター、知ってるのかな。


 そりゃ、普通、知ってるだろ。


 でも、たまたま来た人なら、わからないかも。


 ずいぶんたってるし、似たひとは、多いものだ。


 コメントを見る限り、このあたりの方ではないようだが。


 しかし、この国はせまいよ。


 端から端まで、飛行機なら、三時間半くらいだろうか。


 ま、乗ったこともないけれど。


 ちょっと考えたが、翌日、ぼくは、ママに尋ねてみることにした。



       😸


 

 


 

 

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