67日目 ルール違反の告白

 田井中が死んだのは、水上さんに告白した事が原因だった。


 水上さんは学年で一二を争う美人だ。もちろんクラスの中では一軍に所属していて、何もしなくても勝手に人が集まってくるようなタイプの人だ。正直言って、僕や田井中の様なクラスの底辺に存在するような男子に対して、普通に話しかけてくるような性格が良いタイプではない。そもそも住む世界が違うのだ。

 しかし、そんな水上さんでも、田井中は惚れ込んでしまったらしい。田井中と水上さんが不釣り合いだなんてことは僕も分かっていたし、田井中も分かっていた。それでも、思いだけは伝えたい、と田井中は僕に話した。

「それくらいは許されるだろ」

 田井中としても、振られる前提で告白するのは辛いようで、覚悟を決めていても、少し悲しげな表情だった。

 そこまで覚悟を決めた友人を止める言葉は僕にはなかった。応援するよ、と僕は告げたのである。


 田井中が死んだ事を知ったのは、学校の教室でだった。朝、遅れてやったきた教師が、落ち着いた口調で告げたのだ。

 僕は田井中が昨日告白し、散々な目に遭ったことを知っていたので、最初は自殺したのか、と絶望した。

 昨日、田井中は水上さんに手紙を出して校舎裏に放課後呼び出した。理由はもちろん告白するためだ。ダメだったときは一人で帰るから、と言われ、僕は一人で帰った。

 そして校舎裏に向かった田井中に対して、同じクラスの阿手川が殴りかかってきたらしい。

 今日の朝も阿手川は、田井中が水上さんに告白したことを笑いながら、大きな声で昨日の武勇伝を喋っていた。

「田井中が告白とか、ダメでしょ」

「ほんとそう。阿手川君偉すぎ」

「だろー」

 どうやら彼らの間の理屈では、田井中がルールを破ったことになっていて、阿手川は仕方なく止めたと言うことになっているらしい。

 阿手川は、田井中が死んだというのに悪びれもしない。仲間内で、小さな声で「あれ、オレやっちゃったかな」と言いつつ、クスクス笑っていた。


 その後、田井中の葬式をする辺りになって、死んだ原因についても分かってきた。

 どうやら、阿手川に殴られた田井中は頭をぶつけたらしい。その時は、まだ問題は出てきていなかったようなのだが、その日の夜に家で寝たまま、朝になった時にはベッドの中で冷たくなっていたのだそうだ。

 どうやら殴られて頭をぶつけたときに、脳内で出血したらしい。

 それが分かると、さすがに阿手川も少し口をつぐんだ。しかしそれも、一、二時間程度だった。

 阿手川はその後先生から話を聞かれたりもしたが、最終的に田井中の死因は、「学生の喧嘩の際の不慮の事故」という扱いにされてしまった。

 僕は田井中から聞いて、阿手川が後ろからいきなり殴ってきた事を知っているが、それももう証拠は残っていない。

 そしてしばらくして、阿手川と水上さんは付き合い始めた。阿手川は、周りの評価としては「不審な奴から相手を守れる、頼りがいのある男」と言う物であるらしかった。


 僕は家で倉庫にあったナイフを自分の部屋に持ち込んで、外側を簡単に包み込み、学校に持って行く鞄に入れた。

 田井中にも間違えた部分はあったのかもしれないが、人を好きになるのは犯罪じゃない。

 ハッピーエンドなんかには、絶対させないぞ。

 僕は覚悟を決めて鞄をしっかりと持ち、学校に向かった。

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