59日目 職業引きこもり
もともと買いためておいた食料を使って、一ヶ月ほど引きこもり生活を続けていたのだが、だんだんと溜め込んでいたものもなくなってしまって、ついに外出する事に決めた。
外に出ると、嫌に静かだった。なんだか世の中でひとりぼっちになってしまったようだ。もう死ぬしかないのかな、と思いながら、コンビニに向かう。
コンビニに向かうと明かりがついていない。それに途中で誰にもすれ違わなかった。オレはそこでさすがにおかしいことに気がついた。
駅前まで行けば人がいるだろうと歩いて行くと、途中でバリケードがあった。オレが姿を見せると、そこにいた警備員の人がざわつき始めた。
「おい、そこの君! 止まって、止まって!」
オレが近づくと、声で制止された。
「君、今までどこ居たの!?」
「え、家っす」
「電気とか切れてたでしょ? とにかく一旦そこで止まってて。絶対こっち来ちゃダメだからね」
警備員はそれだけ言うと、どこかに連絡をし始めた。そして数分もすると応援の車が洗われて、警備員の人が増えた上に、警備員以外のスーツの男も出てきた。
オレは何が起きたのかを確認したかったのだが、慌ただしい様子の人たちに話しかけられず、そのままぼうっと突っ立っていた。すると、ようやく出てきた、おそらく偉いであとうろ思われる男がこちらに話しかけていた。
「あー、そのまま聞いてもらえるかな」
「あ、はい」
「実はね……」
その男が説明するには、オレの家の近所にある研究所でとある実験が行われていて、その実験が失敗したことで、研究所から1キロ以内に特殊な壁が作られてしまったのだそうだ。
「その壁は、生物にだけ作用する壁で、中から外には出られるけど、外からは中に入れなくなるんだ。最初はとにかく皆を脱出させよう、としてしまって、今その壁の中にいるのは君だけなんだ」
「はぁ」
「だから、君は今、非常に重要な立ち位置にいるんだ」
男が言うには、研究所の実験装置をなんとかすれば、壁を壊せる可能性もある。さらに、重要なものが壁の中にいくつもあり、それを外に出す作業をして欲しいのだという。
「いや、もう諦めていたよ。君一ヶ月もなにしていたんだい?」
オレはなにも言い返せなかった。
オレの存在はニュースにもなり、「奇跡の引きこもり」として紹介される。
その後、依頼されて指定された箇所のものを持ってくる事をしばらくしたが、壁がなくなることはしばらくないようであった。そのため、とにかく壁の内側にいて欲しい、と要望されて、オレは家に引きこもるだけで報酬をもらえる存在になれた。
誰もいない世界で家に引きこもりながら生活をしていると、オレは壁がなくならないことを祈らずにいられなかった。
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