53日目 私の名前は

 私の名前の由来を説明するには、父と母の名前についても話さなければならない。 

母は、姓は東海林、名は笹倉大字孝則惟康美沙、と言う。

 名前の意味は、まず笹倉大字というのが、生まれの地域を指す。孝則惟康というのは、東海林の家の初代と二代目で「子供には必ず自分の名前をつけるように」と言い残したのだそうだ。

 とても長い名前なのだが、母は伝統が積み重なった誇りある名前なのだと実家で言われて育ったのだという。

「こんなに積み重なった名前は世の中にはいない。それだけ素晴らしいってことなんだ」

 そんな風に言われていたが、実際この名前は目立った。就職で都会に出ると、それはさらに拍車がかかった。普段は東海林美佐として過ごしていたという。

 そんな中で、同僚から「同じ感じで、名前で苦労している人がいるよ」と言われて父を紹介され、名前で苦労したという共通の苦労もあって、父と母は仲良くなった。それが二人の馴れ初めだったそうだ。


 二人が結婚する時に、子供の名前は短いものにしよう、と決意していたらしい。

実家の圧力をはねのけるために、結婚の挨拶をする時に両親はそのことを宣言しなければならなかった。

 挨拶の時、母の家には笹倉大字の各家から人が集まり、威圧を掛けるような形になった。しかし、父が名前を告げ、免許証を出すと、皆がひるんだ。

 父の名前は、姓は佐藤、名は鈴木美濃部鈴木柏の葉三代加持定優太郎といった。

「皆さまであればこの名前に含まれる歴史の重みをご理解いただけるかと思います」

 強い気持ちでやってきた村の爺様たちはその名前を見て心くじけて、逃げるように出て行ってしまったのだった。


 そういうわけで、あやうく佐藤鈴木美濃部鈴木柏の葉三代加持定笹倉大字さくらになるところだったのだが、両親の尽力で佐藤さくらという名前になったのである。

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