神様に成るために生まれた猫

渡邉 峰始

童話

 むかしむかし、未開の地に若い人間がおりました。その若者は、神様のお導きにより、神様に成るための厳しい修行を毎日続けておりました。神様に成るための修行をするためにこの世に生まれた人間は、他にもいたはずですが、神様に成るための修行を続けていたのは、この修行者しかおりませんでした。

 また、神様に成るための厳しい修行をするために、この世に生を受けた一匹の猫がおりました。この猫以外に神様に成るための厳しい修行をするために生まれた猫は、おりませんでした。人間は、何人もいたはずですが、神様に成るための厳しい修行するために生まれた猫は、一匹しかおりませんでした。

 すべては神様のお導き、修行者と猫は、出会うことになるのです。それは、猫がまだ目も見えない子猫のころのことでした。修行者は、母猫とはぐれた一匹の子猫を見つけました。修行者は、「これは、これは、かわいそうに。私も、まだ修行の身であるが、これも神様のお導き。ともに、生きていこうではないか。」と子猫に話しかけました。この時、子猫は、まだ、人間の言葉がわかりませんでしたが、「みゃう」と返事を返していました。それから、子猫は修行者と厳しい修行をする日々が続くのでした。

 いつの頃からか、子猫の首には、きれいな布が巻かれ、結ばれていました。修行者が子猫のために首に巻いた布を、子猫もたいそう気に入っていました。

 人間でも挫折する神様に成るための厳しい修行を、猫は平気な顔で修行者とともに生きることで、全うするのでした。気まぐれやと思われがちですが、猫は、修行者のもとから逃げ出さないで、修行の日々を送っていました。それには、当の神様もとても驚いたことでしょう。まさか、人間にも耐えられない、厳しい神様に成るための修行に猫が耐えられるとは思わず、神様候補の猫に関しては、一匹だけ、この世に送り込んでいたのです。

この世で、修行を続けた猫は、その生態から、人間の言葉を話すことはできませんでしたが、人間の言葉を理解することが出来るようになっていました。それどころか、猫は人間以外の言葉も理解できるようになっていました。例え、猫がこの世のありとあらゆる生き物の言葉を理解できたところで、猫は、猫の言葉しか発することが出来ないのでした。だから、猫が言葉を返しても、返された猫以外の生き物には、猫の言葉が理解できないので、会話が成立することは、ありませんでした。それでも、猫は、ありとあらゆる生き物と会話をすることをやめませんでした。それは、全てが神様から与えられた修行だったから、だけかもしれませんが、猫が他の生き物に生まれ変わってみたいと思ったとしても、おかしなことはありません。

 何年、何十年たったころか、修行者にもようやく猫の言葉が理解できるようになっていました。修行者は人間の言葉を発し、猫は猫の言葉を発しているのに、両者の間の会話が成立していました。当然、傍から見たら、人間と猫の会話は成立していませんが、お互いに相手が発する言葉を理解することのできる修行者と猫の会話は成立していたのでした。

 果てしなく続く神様に成るための厳しい修行の日々。しかし、この世の生き物には、死というものがあります。死を迎えると、その魂は、この世から、三途の川を渡り、この世で悪い行いをしたものは、閻魔様が地獄へ案内し、鬼の監視の下、永遠の苦しみが始まります。しかし、たいていの生き物は、天国で永遠に幸せに暮らすか、全ての記憶を消すことを条件に、別の生き物として、この世に生まれ変わることが出来るのです。

 さて、修行者と猫の神様に成るための厳しい、厳しい修行の日々が終わり、死を迎えます。修行者と猫の魂の行き先は、天国でも地獄でもありません。天国より、さらに上の神様だけの楽園に、神様に成るための厳しい修行を終えた修行者と猫の魂は、いくことが出来るのです。そこで、修行者と猫は神様に成るのです。

 神様の化身が神様に成るものを迎えに行きます。修行者と猫を迎えに来たのは、天空龍でした。修行者は、しっかりと猫を抱いて、天空龍の背に乗りました。天空龍が天国に昇った時、猫の目には、生まれ変わりの順番を待っているものたちが見えました。

 (この世で修行の生涯を終えて、これから神様に成る。それが一番の安泰であることは確かだ。しかし、人間等に生まれ変わって、この世にまた舞い戻るも一考。)

 猫は瞬時にそんなことを思いました。と同時に、修行者の手を振り解いたので、修行者は猫の首の布を掴みましたが、布は、猫の首を離れ、布だけが、修行者の手に残りました。

 猫は、天空龍の背を転げ落ち、さらには、天国へと落ちていきました。天国から、天空龍を見上げる猫の目は、希望に満ちていました。

 そして、天空龍で神様だけの楽園に着いた修行者は神様に成り、猫の代わりに猫の首にあった布が神様に成りました。



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神様に成るために生まれた猫 渡邉 峰始 @T-Watanabe2021

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