第151話 ああ、札束風呂よ!

 じりじりと寄ってくる女たち。たじたじの俺。


「ま、まあなんだ。さすがに札束はないんだけど…はは…」


 焦ってる俺はそんなことを口にしてしまう。いつも札束は持ち歩いているけど、いくら何でも水に入れるなんて罰当たりなことはしたくない。


「確かに…?!札束風呂なのに札束が足りない!?せっかくボク滅茶苦茶泡立つ石鹸持ってきたのに!」


 石鹸持ってる女の子ってなんかエロい。だけど泡風呂ってだけでも十分に背徳的だ。


「それなら大丈夫よ!!」


 綾城がやたらとくびれを強調するように体をひねりながらそう言った。その両手にはなんか紙の束が握られている。


「なにそれ?」


「美魁のテストの答案」


 それはそれは悲惨な答案の群れだった。15,24,9,5,32点等々の赤点いっぱい。


「なんでそんなものもってきちゃったの?!」


 ミランが真っ赤な顔でそう叫ぶ。だがそんなものを気にせずに、綾城はそれらの紙の束をまるでお札くらいのサイズに折りたたんでびりびりと切り裂き、ビニールプールに投げ入れた。


「やっぱりテストの答案は文字だらけだから切り裂くとお札っぽく見えなくもないわね」


 そうかもしれない。だけどミランの尊厳は確実にすり減ったのは間違いない。


「ボクを辱めて何が楽しいのさ?!…うっ…あっ…はぁはぁ…」


 ミランが半泣きで、だけど唇にうっすらと艶やかな笑みを浮かべている。いますげぇこいつといっしょにプール入りたくなくなったんだけど?


「美魁。とりあえず王様の浸かってるプールを泡立てなさいな」


「はい…your hiness...。はぁはぁ」


 ミランはビニールプールに石鹸を持つ両手を入れてそれをシコシコと擦り始める。すると泡がカノジョの手からどんどん膨らんでいく。


「このビッチ!なによその両手の白いやつ…いやらしいわね。ふふふ」


 綾城さんが嗜虐的な笑みでミランのお手々の白い泡を見詰めている。


「そ、そんな!これは!?そ、そう!この泡はボクのじゃないよ!カナタ君が浸かってた水から出てきた泡だからカナタ君の白い泡だよ!」


 俺の白い泡?冤罪はご勘弁いただきたいものだ。綾城はその泡を指で掬うと、ミランの胸に擦り付け始める。


「きゃん!ぬるぬるするようぅ!」


「あらあら。あなたの身体は敏感に反応しちゃうのね。たかが泡なのに。これでプールに入っちゃたらいったいどうなっちゃうのかしら。くすくすくす」


 変なプレイやめて欲しいなぁ。まるで俺が浸かった水がばっちいものみたいなものいいはいただけない。


「いけませんねぇ。泡をそこら辺にまき散らすなんて。ちゃんと閉じ込めておかないと」


 なんか今の今まで黙っていた楪がニチャニチャとした笑み浮かべてミランの手の泡を掬い取る。そしてそれをなんか細長いゴムの中に流し込んでいく。そして泡で膨らんだそれの根本を持ってミランの胸をぺちぺちと叩き始める。


「きゃん!ちょっと!あ!くすぐったいょうう!」


「いけないこ!いけないこ!泡だけで勝手に満足するなんて!王様にごめんなさいしなさい!」


「ごめんなさい!ごめんなしゃい!王様の泡だけで満足しちゃうボクを見捨てないでください!」


 そして楪はそのゴムをミランの腰紐のあたりに結び付ける。白い泡の入ったゴムがミランの太ももを撫でるようにプラプラしている。


「てかそのゴムどうしたの?」


「伊角さんの部屋で見つけました!いろんなサイズ!いろんな薄さ!いろんな匂い付きのが沢山ありましたよ!このびぃいいいいいっちぃいいいいい!!」


 楪はゴムの箱を開けてプールにまき散らす。


「ち、違うよ!誤解なんだ!違うんだよカナタ君!」


「あ、はい」


 なお楪と綾城はゴムにホースを突っ込んで水風船作って遊んでる。互いに投げ合ってはきゃきゃしている。


「か、勘違いしないでよね!カナタ君のサイズがわかんないから!だからいろいろ買っておいただけなんだからね!」


「そんなにいっぱい買っておかれても困るかなぁ…」


 俺はちゃんと自分に合ったサイズを把握しているタイプなので、ヤる気なら直前にコンビニとかで買っておく方です。


「さてそろそろ入りましょうか」


 そう言って綾城はプールに入って俺の左隣に座る。


「はいはい!わたしもわたしも!」


 楪は俺の右隣に座った。そして。


「じゃあ。入れるね」


「入れるね。じゃねぇよ。入るねだよ。馬鹿童貞」


 ミランは俺の正面に堂々と入ってくる。そして胡坐をかいている俺の太ももの上に跨ったのだった。


「しかしこれ…いいわね…」


「ええ…。涼しいのにぬるっとしていてなんかきもちいいです」


 俺の両隣の綾城と楪はまるで温泉に入ったときのようなリラックスムードの笑みを浮かべている。あれ?札風呂ってそう言うものだっけ?


「おかしいよぅ。プールなのに。水が熱すぎるきがしゅるぅ。。。」


 俺の正面に抱き着くミランは頬を真っ赤に染めて俺の首筋に抱き着いている。なおこの女泡で隠れた水面の下では必死に腰を振っている。そのせいで泡がさらに泡立っていく。


「なんだろう。なんか想像していたのとちがう。…まあこれが俺たちの空気か。ふぅう。はぁ…気持ちがいいなぁ…」


 俺は三人の柔らかな体温を感じて穏やかな気持ちを感じていた。俺はこの暖かさを愛おしく。そして失いたくないと思った。












 のちにこの札束風呂写真が五十嵐に流出してとある事件を引き起こすことになるとは今の俺には関係のないことだったのだ。










****作者のひとりごと****


次回は綾城家のウザさやりまーす。





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