第150話 ママ城さんとかいう嵐/カクヨムコン9特別賞受賞記念ss前編
綾城のバイトがママ城さんのせいで駄目になったことを俺はとても残念に思っている。大学生にとってバイトとはそれ自体が一種の青春の思い出なのだ。ダイヤモンドや黄金よりもなお尊い記憶の欠片になるはずのものである。
「とは言えおかあさんの説得って出来るのかぁ?」
あの人絶対に人の話聞かないと思う。その上戦闘能力も滅茶苦茶高い。俺は部屋で一人寝っ転がりながら悩んでいた。そんな時だった。ぴんぽーんと俺の部屋の呼び鈴がなった。俺はすぐに玄関に向かいドアを開ける。そこには金髪に白い肌の女がいた。
「綾城?!…じゃない…」
「はぁ?!私は綾城よ!!」
ドアを開けるとそこにいたのはママの方の綾城さんだった。
「なんか用です?」
と俺が言うや否やママ城さんは俺の部屋に土足で上がり込んでくる。ベットをひっくり返したり、クローゼットを開けて中を確かめたり、部屋をしっちゃかめっちゃかしていく。
「いったいなにしてんだよ?!」
「お前こそ何をしたぁ!?うちの娘に何をしたのぉ!!?」
なんだこの話の噛み合わなさ。ママ城さんは瞳に涙を浮かべながら俺の部屋を荒らしていく。
「なにがあったんすか?」
「ヒメーナがぁ!ヒメーナがぁ!いなくなった!お前が隠しているんだろう!返しなさい!返せぇえええええ!!」
ママ城さんが俺の胸倉をつかんで前後にぶんぶんと振ってくる。だけどそんなことを言われても心当たりがない。
「いや。俺は知らないんですけど。お友達のところじゃないですか?」
「それならもう調査済みだ!!だからお前以外考えられん!出せぇ!私の可愛い娘を出せぇえええええ!!!」
それを聞くと心配にはなってくる。だけど綾城は見た目に反してすごくしっかりしている子だ。そもそも雲隠れしたって変なことはやっていないだろう。そんな時だ。今度は俺のスマホが鳴りだす。画面にはスオウの文字が表示されていた。
「電話出てもいいっすか?」
ママ城は返事をしなかったが、かといって邪魔をする素振りは見せなかった。俺は電話に出る。
「どしたん?」
『カナタ…助けてくれ…』
スオウが憔悴しきった声で俺に助けを求めていた。普段凛としてしゃんとしているスオウがこんなつらそうな声を出しているなんてきっとよっぽどのことが起きているに違いない。
「どうした?!すぐに行く!何があった?!」
『…ヒメーナがウちに居着イてしまッたンだ…助けてェ…』
「はぁ?」
伏線回収があっという間になされてしまった。
『生活費も入れてくるし、ウちの家族も同情的で追イ出すに追イ出せなイ。だけどベタベタくっついてきて鬱陶…じゃないウザ…じゃない。困ッてイる』
スオウのどこかげっそりした声が憐れに思えた。
「エディーニャのこえぇ!?うーーーーーーーらーーーーーーーーーーーー!!!」
ママ城さんは奇声を上げながら俺からスマホをひったくって満面の笑みを浮かべる。
「エディーニャ?!エディーニャなのね!ああ!エディーニャ!私の可愛いエディーニャ!」
『ひぃ?!その声はマルセラ?!』
「そうよ!あなたのもう一人のママのマルセラよ!ああ!エディーニャ!こんな形でももう一度あなたの声を聞けるなんて!私は嬉しいわ!エディーニャ!」
ママ城さんはマルセラっていう名前なのか。
『…カ、カナタに代わってくれないか?』
「代わる必要なんてないわ!うちの娘がどうやらあなたに迷惑をかけているみたいね!いいわ今から迎えに行くわ!待っててエディーニャ!私の可愛いもう一人の娘!うーーらーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ママ城さんは俺のスマホを放り投げてベランダから飛び降りた。そして見事に地面に着地してそのまま近くに停めてあったバイクに飛び乗り走り去っていった。
「何て女だ。やばすぎだろ」
『カ、カナタァ!』
電話の向こうのスオウの声は震えている。
『マルセラがくるぅ!は、早く逃げなきゃ…。いや!?逃げ切れるわけがない!?!詰んだ!!』
どんだけビビってんだよ。
「落ち着け。そっちに俺も行く。だから安心しろ。いいね」
「カナタァ!ワタシ絶対に待ッてるからァ!」
スオウの必死さがすごい。俺も部屋から出て、すぐに車に飛び乗りスオウのお家に向かったのであった。
続くぞ!
小ネタ
(*´ω`)<カクヨムコン9特別賞とったぞー!!!(*‘ω‘ *)
(/ω\)<とても嬉しいです!みんなありがとう!
(*´▽`*)<これからもヨメウワをよろしくね!
以下小ネタ
『何の脈絡もないプールイベントをやろうの巻』
俺といつメンは夏の炎天下の駒場キャンパスをフラフラと歩いていた。大学は夏季休業だが、研究セミナーとか特別講義とかは良く行われている。俺たちはそれぞれが興味のある講座を受けてから時計台の近くで合流し、涼しいはずの田吉寮を目指して歩いていた。
「…ねえ常盤…」
「…なんすか綾城さん…」
お互いに汗だくながらも、綾城の目は爛々と輝いていた。その視線は俺たちの前を歩くミランと楪の背中に向けられている。
「張り付いた、色つきブラジャー、いとエロス」
色つきブラジャーは大人の季節を示す季語である。
「…俳句という偉大なる文化を綾城菌で汚染するな…綾城菌熱殺菌!」
俺は綾城の腰に両手を巻き付けて後ろから抱き着く。首筋に俺の髭の生えかけの頬をこすりつけるのが殺菌のコツである。
「きゃー!暑いぃ!その上くすぐったいわ!きゃははあ!」
そんなこんなで気がついたら田吉寮に辿り着いた。いつもならここでケーカイパイセンに挨拶をして寮の遊戯室で涼むのだが。
「そう言えば今日はケーカイパイセン出かけてるらしいよ。なんか悟りを開くためにインドにバックパックで行くって」
寮の中庭にある屋根のあるバーカウンターで涼みながらミランがそう言った。
「意識高いですねぇ。インドと言えば数学的にはゼロの発祥の地。でも陽キャなバックパッカーたちの憧れの地でもあります。陰キャのわたしが行ったらきっと暑さに蒸発してしまうでしょうね」
バックパッカーの旅はちょっと憧れがある。ユーラシア横断とかかっこよすぎると思う。
「あら?でも先輩がいないってことは…」
綾城が何かに気づいたようだった。彼女はケーカイパイセンの愛用のピザ窯の近くにしぼんだビニールプールがあるのを見つけた。
「常盤!あたしたちを歓ばせるためにバキバキに膨らませて!」
「目的語はちゃんと使ってよぅ」
綾城は萎れたビニールプールを手に持ってお目目をキラキラとさせていた。
「さすが綾城さん!ボク実は憧れてたんだ!ケーカイパイセンのあのプール王プレイ!」
「いよいよこの時が来たんですね!雑誌の裏にある幸運のアクセサリーの札束風呂が!!」
ミランと楪もまたお目目をキラキラさせながらきゃきゃと飛び跳ね踊りだす。
「女子寮に僕がグラビア撮影で使って貰った余ってる水着があるから二人とも来てよ!」
「いやん。どんな際どいやつなのかしら」
「きっと紐みたいなやつですよ!この童貞女!厭らしい女!」
女子たちはきゃっきゃと女子寮の方へと向かって行った。あれ?これ断れる流れじゃないよね?仕方なく俺はビニールプールを膨らませるのだった。
ビニールプールに水を張り俺はボクサーパンツ一丁で水に浸かっていた。
「すげぇ気持ちいい」
見上げる空は何処までも青く澄んでいて、雲は輝くほど鮮やかに白かった。まさに今は夏真っ盛りである。寮の軒先に吊るしてある風鈴も涼やかに音を響かせている。これだけでもう十分に夏を満喫している。もう十分かな?俺はプールから上がろうと思って立ち上がりかけた時だった。
「あら?札束風呂はまだ完成していないのよ!!」
それは綾城の声だった。女子寮からやってきた綾城は白い肌によく映える黒い色の紐ビキニ水着を着ている。乳房を覆うブラの面積はとても狭い。下乳が柔らかそうに覗いていた。
「そう!札束風呂の完成には姫たちが必要だよね!ボクたちのような!!」
ミランは白いモノキニだった。正面から見ればワンピースだから清楚な印象だが、後ろから見れば背中が丸見えで蠱惑的でありイケナイ女の雰囲気がプンプンである。
「札束風呂!それは陰キャが求めた黄金郷!!わたしはなる!黄金の女に!!!」
楪は赤色の臍まで開いた深いフロントスリットが入ったワンピース水着だった。谷間に一喜一憂するのは素人だ。大きなおっぱいが自明である女は谷間なんて作らなくてもいい。正中線からおっぱいを見たってそのふくらみの豊かさと滑らかさと美しさがわかるのだから。
「「「ふ、ふ、ふふふふふ!」」」
綾城達はビニールプールに入る俺の方へとじりじりと寄ってくる。俺はそのプレッシャーを紛らわせるために缶ビールを仰いだのだった。
(;´Д`)<つづく!
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