第121話 傍にいないのはあかんやろ

小ネタ ミリシャの王との通話


(会話はポルトガル語にて行われていることとする)


ミリシャの王「やあ、久しぶりだね。エディレウザの方から電話をかけてくるとは思わなかったよ。どうしたのかな?ブラジルが恋しくなったのかい?」


スオウ「ブラジルは恋しいが、お前の声は聞きたくない。聞きたいことと、伝えなきゃいけないことがある。お前はなんで私の秘密を知っている?そしてなぜそれを葉桐に伝えた?」


ミリシャの王「葉桐先生のお孫さんにお前の秘密を伝えたのは、お前が葉桐宙翔のコントロールから逸脱したときのための保険だ。実際に役に立っただろう?私にとって葉桐先生から受けた御恩は大事なんだ。お孫さんは好きではないが、それなりには尊重しなければならない。もちろん言っておくが葉桐以外には漏らしてないし、今後も漏らすことはないよ。君の御父上への恩に誓う」


スオウ「そもそもその恩人の娘の私の不利になることを漏らす神経が理解できないのだが?」


ミリシャの王「それは実に女の子らしい勘違いだね。君はあくまでも恩人の娘でしかない。キミへのサポートはもちろんするがなんでもかんでも面倒を見てやるつもりはさらさらないんだ。調子に乗らないで欲しい」


スオウ「ふん。ではどうやって知った?私の秘密を!」


ミリシャの王「ちゃんと観察していれば君の罪の秘密なんてすぐにわかるさ。私は伊達にミリシャの王などと称しているわけではないよ。私の目から罪を隠すことは出来ない」


スオウ「………まあ、いい。他に漏らすつもりがないのであれば、お前を殺さないでいてやる。今日は手切れを宣言するために電話した。私は金輪際ブラジルの裏社会から足を洗うし関わる気は一切ない。絶縁宣言だ」


ミリシャの王「ふむ。まあいまや堅気の職に就いた君にとっては過去の闇は捨ててしまいたい汚点でしかないだろう。いいよ。好きにすればいい。私から・・・君にちょっかいをかけることはしないし、部下にもそうさせることを徹底させる」


スオウ「随分と素直に受け入れるな?」


ミリシャの王「無理に引き留めるつもりはないよ。やる気のない者に仕事をさせてやるほど、私は真面目な王様ではないんだ。好きにしたらいい」


スオウ「…何かを企んでいるのか?」


ミリシャの王「企みはいつも持っている。野心が尽きることはない。だけど言っただろう。やる気のないものを引っ張りこむほど私は真面目ではないのだ」


スオウ「わかった。私はもう堅気の人間だ。お互いに二度と関わることがないことを祈るよ。ではさようなら」


(通話はここで途切れる)















ミリシャの王「くく。そう。私はやる気のないものが舞台に上がることは認めない。エディレウザ。君は自らの意思で再びこの地にやってくる。過去の罪を王に雪がせ奉るために」






---そしてすべては進歩と秩序のために---















小ネタ・ホラー


カナタ「お前はホラーって大丈夫?」


トモエ「べ、別に!普通よ!普通!まあたまには見るわよ」


カナタ「そうだよ!そういう反応!ホラーにビビってるけど、恥ずかしがってそれを隠しちゃう!そういう普通の女の子の反応が欲しかった!!かわいいよましばかわいい!」


トモエ「え?そ、そう?ありがとね。えへへ」


カナタ(なんか普通にかわいい。オチはないけどまあいいや)






小ネタ・ホラーその2


ムムミ「私ホラーって苦手なんだ。一人だと見れなくってぇ」


カナタ(一人だとホラーが見れない→誰かと一緒なら見れる→俺と一緒なら見れる→絶対俺のこと好きだよね!)「じゃぁ俺と…!」


ムムミ「そう。私一人でホラー映画見ると、いつもツッコミを入れちゃうんだ。だって幽霊なんて物理学的にはその存在そのものが定義がないよね?つまりそれって存在しないも同然でしょ?」


カナタ「(。´・ω・)ん?まあ、お化けはいないと思うけど」


ムムミ「でも逆にいないことを証明することは困難よね。私フィクションは本当にあるんだって前提で設定を考えちゃうんだぁ。だから幽霊があり得る可能性をわたしなりに考えちゃうの。例えば幽霊の存在を未発見の素粒子による何かの現象だと仮定するわ。その時、空間上における対称性の破れが局所性の部分的破綻を導いてしまうことはきっと自明のものだと導かれる。その時χ=Ψβrad(abc)が満たされてしまい、前提が循環論的に自己言及命題を構築してしまい、特異点でありながら原点をも兼ねるという..」


カナタ「おめぇさんはなにいってるだぁ?」


ムムミ「つまりそこには観測者問題の硬直としたマクロ的決定論へのアンチテーゼ染みた一種のアイロニー的な新たなる関数が導かれるの!!つまりこうすればお化けがいてもこの世界にきっと馴染めると思うのよ!」


カナタ「お願いします!オチを!オチをつけてぇ!!!」













では本編をどうぞ!!








 温泉に連れて行ってて女の子に言われたらどうする?もちろん答えは決まっている。


「連れて行くのはいいけど、どうして真柴もいっしょ?」


 五十嵐と俺だけで温泉。それは想像しただけでもうほっぺたがにやけて仕方がないのだが、そこに真柴が入ってくるのがよくわからない。


「そのね。友恵がなんだか最近元気がないの。だから気分転換に連れて行ってあげたくて」


 なるほどと思った。だけど真柴は葉桐の女だ。葉桐に嫌がらせはしたいけど、あいつの女を連れて遠出ってのは、なんか違う気がする。まあ前の世界では妻を葉桐に寝取られてるんですけどね!だから自分は同じことをしたくないみたいなところはある。


「それはわかったけど、お前の幼馴染の葉桐くぅんが真柴を励ましたりするんじゃねぇの?」


「それがねぇ。宙翔は外国に旅行に行っちゃったんだ。なんか学生のうちに世界一周旅行をしてみたいんだって。お土産は何かな?ちょっと楽しみ。うふふ」


「え?旅行?まじ?いつ帰ってくるの?」


「夏休み中はずっと外国にいるみたいだよ。だから宙翔が友恵のことを励ますのは無理なんだよね。お願い。私と一緒に友恵の気分転換に付き合って!」


 そういう事情か。個人的にはあいつが日本に夏休みいっぱいいないのが…。




 すごくうれしい!(*´Д`)




 俺の気持ちはまじでバイブスあげぽよでうぇーいになった。


「いいぜ!お・ん・せ・ん!いっちゃう?うぇーい!!」


「うん?温泉ってうぇーいな場所だったけ?でもありがとう。じゃあ温泉に行こう!いまからすぐに!!」


「え?いまから?」


「うん!いまから!」


 うわー。無茶ぶりがすごい。でも五十嵐という女は人の話を聞かないのだ。俺はすぐにPC立ち上げて今からでも泊まれる温泉宿を探す。今は夏休みなので、予約サイトはどこもいっぱいだった。だけどたまたまいい感じの宿が空いているのを見つけた。四万温泉という場所らしい。鄙びた街並みと建物。そしてコバルトブルーの湖に心ひかれた。あと取れそうな部屋にはなんと部屋専用露天風呂があった。


「おーっとこれはだめでしょ!この部屋は風紀が乱れてるでしょ!!………ぽち」


 俺はその部屋を取った。広い畳の部屋で実に昭和レトロ感がある。それに飯もうまそうだし、エステとかマッサージとかもついてるし。卓球とかもあるし。なにより専用温泉風呂がある。まあ、そんなのあったらきっと二人でその温泉に入っちゃうよね!仕方ないなぁ!あはは!あははははは!


「部屋取れたよー!」


 電話の向こうの五十嵐にそう伝える。


「わーい!いくらだった?私も半分出すよ」


 そういえばこの子はなんでも割り勘したがる子でした。俺は部屋の値段を見ずに即決でぽちっちゃったので改めて値段を見ると。


一泊 20万円


 と書いてあった。だめだろ!?これは伝えたいかんわ!大学生が止まっていい部屋じゃない!割り勘させるわけにはいけない。俺は必死に屁理屈を考えた。


「いや。実はこの間、俺真柴にすげぇ助けられたんだよ!そのお礼をしたいから今回は俺の奢りでいいよ!」


「え?でもそれは…」


 ちょっと食い下がってくる。大人しく奢られて欲しいんだけどな。


「いやまじですごく真柴にはお世話になってる感じなんよ!それにこれってデートじゃないでしょ!真柴いるわけだし!だから割り勘はノーカン!おーけー?」


「そう?うーん。そこまでいうならお世話になっちゃうね。でもお金きつかったら言ってね。私もちゃんと出すからさ!」


 フォローが嬉しいが、五十嵐に奢っているという事実がなんか男心にちょっと滾るものがある。なんだかんだと言って男は女に貢ぐのが好きである。こうして温泉宿に行くことに決まったのである。








 俺は車を走らせて五十嵐のお家の前までやってきた。サングラスをつけた俺は運転席から外に出る。


「き、きみは?!あの時の!?」


 庭で野良作業していたと思われる五十嵐パパが俺の存在に気がついた。


「あ、どうも。五十嵐さんは御在宅でしょうか?」


「娘に会いに来たのか?!今すぐに帰ってくれ!理織世には宙翔くんがいるんだ!」


 まじで五十嵐家は葉桐くぅんのシンパだな。だけど今日ここに来たのは、その娘さんに呼ばれたからなんだよねー!


「あ、常盤くんやっほー!」


 二階の窓から顔を出して五十嵐がこちらに手を振ってくる。その横にはどこか少し暗い顔をした真柴がいた。そして二人はすぐにトランクを引いて玄関から出てきた。


「荷物後ろに入れていい?」


「おう。どうぞどうぞ」


「ま、まさか旅行?!理織世!?いまからその男と旅行に行くのか!!?」


 五十嵐パパは理織世に詰め寄る。だけど五十嵐はのほほんとした笑みを浮かべている。


「そうだよー友恵と常盤くんと一緒に温泉行くんだ!」


「そ、そんな?!温泉だと?!」


 この世のすべてに絶望したような顔で、五十嵐パパは俺の方に視線を向ける。俺はにっこり笑って五十嵐パパを安心させるためにこう言った。


「娘さんは俺が責任をもってお預かりします。御安心ください」


「反社面の男にそんなこと言われて安心できるわけないだろうが!!認めんぞ!そんな怪しげな男と一緒に旅行なんて!!絶対に認めない!!」


 顔を真っ赤にして五十嵐パパが文句を言う。でももう行くって決まってるんだよね。五十嵐も父親のことを年頃の娘らしく邪険な目で嫌そうに見ている。何か言ってとりあえず煙に巻こうと思ったのだが、真柴が口を開いた。


「大丈夫です。うちがこの男を監視するので不埒なことはさせません。ご安心ください」


「だが…!」


「ですがひろも今回はよくありません。せっかくの夏なのに彼は日本にいません。大事な人を放っておいてね」


 五十嵐パパは真柴のどこか突き放すような言い方にうっと唸ってしまった。たしかに大学生の夏と言えば関係を深めるチャンスのはずだし、ともに思い出を積み重ねる大事な時のはず。なのに葉桐は日本にいない。それってどうなのかね?男としては軽蔑するよ。そういうの。五十嵐パパはそれで大人しくなってしまった。その間に俺たちは車に乗り込み、旅行へと出発した。





***作者のひとり言***



『大事な人を放っておいて』って言葉がすごく痛いなって思いました。


ちなみにですが、進歩と秩序って言葉はブラジルの国旗に書いてある言葉です。



次回は温泉だ!



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