嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!結婚生活経験を生かしてモテモテのキラキラ青春です!なのに若いころの嫁に何故か懐かれてしまいました!
第63話 番外編・πを見て興奮するのは中学生までにしておけ!
第63話 番外編・πを見て興奮するのは中学生までにしておけ!
GWがあけていつものメンツとランチしてた時のことだ。
「二乗を教えるのって意外に難しいのよね。分数並みに鬼門よね」
綾城が所属する教育系サークルでの話をしていた時に、自然と算数の話になった。
「あ、なんかそれわかるかもー!ボクもいまだに二乗とか三乗とかには苦手意識あるよ!いったい人生のどこらへんで使えばいいのかわかんない感じ!」
ミランのこういうところが、五十嵐と波長が合ってる部分なのかな?
「よくその苦手意識でうちの大学入れたわね。でも結局のところ、苦手意識と出来る出来ないは違うモノなのよね。ところでこの間サークル活動で子供相手に算数を教えていたんだけどね、子供から質問されちゃって、答えられなかった問題があるのよね。算数なんだけど…楪、教えてくれない?」
「なんでも言ってください!数学だけは取りえですからね!ふんす!」
他にもとりえはいっぱいあると思うけど、まあ自信があるのはいいことだ。
「流石数学科の姫ね。じゃあ聞くけど。πのπ乗ってどんな数なの?」
はて?πはよく聞く数字だ。この国で数学を使って大学受験すれば見ないことはあり得ないレベルだ。だけど…。
「あれ?そう言われるとわかんねぇな。πをπ乗するってどういうことだ?やべぇ。俺理系だけどわかんねぇや」
俺は一応この大学に入れるレベルの学力がある。けどさっぱり解法がわからない。もしかして大学教養数学レベルなのか?まあそれなら楪なら簡単に解いてくれるだろう。そう思って彼女の顔を見た。そこには目を見開いて眉をぴくぴくと震わせて動揺する楪の姿があった。
「…あら?もしかしてあなたでもぱっとは計算できない感じかしら?」
地雷系のくせに根は真面目な綾城は答えをちゃんと理解して子供に伝えてやりたいらしい。その熱意には答えてあげて欲しいと楪に期待した。だけど楪がいつもと違ってなんか元気がない。
「すみません。…わかりません」
「あら?そうなのね。ならその答えが載っている教科書とかを教えてくれない?こちらでまとめてその子に伝えるから」
「いいえ、綾城さん。わたしはπのπ乗の答えを知らないんじゃないです。わからないんです。わかんないんですよ!キエェエエエエエエエ」
突然猿声を上げて、髪の毛を掻きむしりはじめる楪は恐ろしい形相をしていた。
「あら?え?どうしたの?あたしなにか地雷ふんじゃった?」
「違います綾城さん。違うんです。πのπ乗は…有理数なのか無理数なのか超越数なのか。何もかもがわかってないんです!πのπ乗はぁ!数学上の未解決問題の一つなんです!!!キェエエエエエエエ!!!!」
ありゃとんでもない回答が出てきてしまった。数学上の未解決問題って言葉からしてすごく難しそう。
「あらそうなの。それは残念ね。子供たちにはどう伝えましょうかね?悩むわ」
「3.1415…を3.1415…乗するってどういうこと?でもなんかボク安心しちゃった!楪ちゃんにもわかんないことがあるってなんかかわいく感じる!」
綾城とミランの二人は未解決問題と聞いて、そこで興味を失ったらしい。だけど楪が一人なにかブツブツと早口で何かを唱えていた。
「ネイピアとオイラーが辿り着いた、超越数の果て。有理数に惑わされるな。そう。まずπの定義から洗い出して…そして…近似して…駄目!うがぁあ!!」
楪は呻き声を上げて、頭を抱えだす。
「え?楪大丈夫?」
「大丈夫じゃないです!!取り合えず!黒板あるところ行きましょう!!ええ!」
楪は残っていたご飯をすぐに平らげて学食から出ていった。俺たちもランチを平らげて、楪の後を追いかけた。
楪は講義棟の空き教室を一つ見つけて、黒板にひたすら数式と論理を書き上げていった。
「いやーいいね。こういう理系仕草!ボクも白衣着てこういう役やってみたいね!」
「あなたは似合いそうね。ヘタレ攻めドクターの役とか。ふふふ」
綾城とミランの二人はふわふわなトークを続けているけど、俺は気が気でなかった。この二人は文系だ。故に理系の業のようなものをわかってない。理系にとって『知らない』『わからない』はひどく不愉快なのだということを。
「うう、うううううう。うわああああああああああああああああああああああんんんん。がにゃだぁざぁぁあんん!」
そしてとうとう数式を描く手をとめて、楪はポロポロと泣き出してしまった。
「わたしにはぁ!ここまでしかわからないんですぅううううわぁああああああんん!ふぇえええええええんんんんん!」
「あーよしよし。お前は頑張ったよ。よく頑張った。えらいえらい」
俺は楪を抱きしめて頭を撫でてやる。文系二人は、突然泣き出した楪に困惑していた。
「え?何で泣いてるの?わかんない問題は飛ばせばいいんじゃないかな?ボクはそうやって数学を乗り切ったよ!」
ミランはとてもいい笑顔でグッジョブしてる。そのまま予備校の広告ポスターにでもなれそうなカッコいい笑顔。だけど楪はさらにピーピーと泣き出す。
「問題を解くのが数学者の仕事なんですよぅううううううう!わたしはそれができない駄目な子なんですぅ!わあああああああああんん!」
「いやいやいや!楪大丈夫だよ!数学上の未解決問題ってことは世界の誰も解けてないだけだから!楪が解けなくてもそれは全然普通の事だから!」
おれはさらにぎゅっと抱きしめて、額にキスして楪を慰める。
「でもぉ!でもぉ!ふぇええええええびえぇええええええええええええええええええんんんんん!」
子供のように泣きじゃくる楪がとても可哀そうだった。そして近くからパシャって音がした。
「ヤクザが女泣かしてる図を撮ってしまったわ!」
「うわぁ。エグいねぇ!でもこういうゴーインな感じボク憧れるなぁ…」
2人はスマホを見ながらケラケラ笑ってた。楪と違っていつもの平常運転である。これだから文系は!!
「しかし興味深いわね。πのπ乗…」
「πのπ乗ねぇ。そう言えばはじめてπ習った時、男子たちがπで下ネタ言ってたなぁボク今でも覚えてるよ」
「それって
「敢えてボクが口に出さなかった意味をみじんも思いやってくれねぇ!さすが綾城さんだぜ!!」
「本当は数学ではπOって書かなきゃ駄目なのよね。だからあえてOπと書くならベクトルにして、
「うぁ!より高度な下ネタ言った!ぱなぃよ!さすがだよ!逆に尊敬するよボクは!あはは!」
なんかこういう平常運転って逆にありかも知れない。楪も二人ののほほんとした空気に当てられて、だんだんと落ち着いてきてるのを感じる。
「あ!今降りてきた!降りてきたわ!」
「絶対ロクなモノじゃないでしょ?あはは!わかってるー!」
「美魁!少し身を屈めて!そして胸を張って頂戴!」
ミランは言われた通りにする。じつはわりと大きい方なミランのおっぱいの形がそれで強調される。そのせいかミランの顔が少し赤い。
「このポーズちょっと恥ずかしいなぁ…」
「恥ずかしいのはこれからよ!一発ギャグ!πのπ乗!!せや!!」
そう言って綾城はミランのおっぱいの上に自分のおっぱいを乗せたのだ。おっぱいの上におっぱいでπのπ乗!まさしくバカの所業である。
「ぶほぉお!」
俺の胸の中で楪が噴き出していた。俺だってそのバカさに噴き出していた。
「やっと笑ってくれたわね。楪…あなたは笑顔の方が素敵よ…」
「あ、綾城さん!わたしも!わたしもぉ!えい!」
楪はπのπ乗している二人に近づき、背伸びをしながら綾城の上におっぱいを乗せる!
「わたしも…πのπ乗です!!」
バカが一人増えた。そして三人の期待の目が俺に降り注ぐ。
「いや。お前ら忘れてるのかもしれんけど、俺におっぱいはない!」
「「「?!???そ、そうだった!!」」
やっぱりこいつらはバカだったQ.E.D.....
***πのπ乗がどんな数かご存じなお方はいらっしゃいませんかー!!***
楪が落ち着きを取り戻して、俺たちは空き教室で駄弁る。こういうのも大学生活の醍醐味の一つだと思う。
「あたし思ったのよね。まずはOπの定義からちゃんとはじめるべきだって」
「おっぱいかぁ。あんまり真面目に考えたことなかったなぁ。やっぱり大きさは重要だよね?ちなみにボクはFです」
「あたしもFよ。あたしたち仲間ね!」
綾城とミランの二人は黒板になんか落書きを謎の数式を書き込み始める。Oπ=F 式の意味が謎過ぎた。
「カナタさん!カナタさん!あの二人!Hカップのわたしのことを仲間外れにしようとしてます!」
「楪。そもそも俺にはおっぱいがないんだ。でも俺たちは仲間だよ。おっぱいのあるなしじゃないんだ。人間の価値はおっぱいなんかじゃ決まらないんだ」
でもおっぱいの大きさでやっぱり目を奪われがちなのが男なのは黙っておこう。
「Oπは不思議よね。いまでも不思議なんだけど、そもそもおっぱいって単数なの?複数なの?」
「あれ?そう言えばそうだ。乳房の片方の柔らかさだけを感じても、おっぱいが柔らかいって言うし、二つの乳房の間の谷間をもっておっぱいの谷間とも言うしね。っていことはOπは1でもあり2でもあるってことなのかな?」
ミランはOπ=F&1&2と黒板に書き込む。
「複数の解がある。つまりOπとは関数なんじゃないかしら?」
綾城はさらにy=Oπ などと書きだし始めた。
「そっか!だからOπは曲線を描くんだね!憶えてるよ!ほら!関数って確かこういう曲線を描くよね!!」
そしてミランがωのような線をxy軸上に描いた。
「美魁。忘れていることがあったわ!おっぱいは!揺れる!!すなわち周期的に振動しているってことよ!!すなわち!!」
y=Oπ(ただしsinθ<O<cosθを満たす) 何を書いてるのかさっぱりわからない!!
「ん?ん?!はっ?!ボク気づいちゃった!」
「美魁!あなた、何に気がついたの?!」
「大文字のYっておっぱいの谷間みたいじゃない?!」
なにその中学生の童貞並みの発想…。
「それだ!!」
そして綾城は
「がはは!やべぇマジバカ!超ウケるんだけど!!ぎゃははは!楪もそう思わない?!あはは…え?…」
楪は笑っていなかった。ただただ真剣に
「そ、そっか…そんなアプローチがあったんだ!ああはは!あははははははははは!あーはははははは!!!キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
黒板に額をこすりつけて数式を穴が開くように見つめて、突然大声で笑い始める。そこにはいっそ狂気さえ宿っているように思えた。そして猿声を上げながら、彼女は数式と論理をひたすら黒板に書きなぐっていく。
「足りない!!黒板一枚じゃ余白が足りない!真に驚くべき証明があるのに余白が足りない!!!キェエエエエエエエ!チェストオオオオオオオオオオオオオオ!」
楪は教室を飛び出して、隣の空き教室に飛びこんだ。そしてそこの黒板にも数式の続きを書きなぐっていく。
「足りない足りない足りない足りなあああああああああああああああああああああい!!キェエエエエエエ!!」
俺たちは講義棟の中を奇声を上げながら走る楪を追いかける。黒板の数式はちゃんとスマホのカメラで撮っておいた。楪は空き教室を見つけては黒板に殴り書きをして叫ぶ謎の妖怪のような存在に成り果ててしまった。そして彼女はとうとうとある教室にてチョークを止めた。そこにはQ.E.Dと書かれていた。
「あああああああああああああああ!解けたぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!み、皆さん!聞いてください!πのπ乗の正体がわかりました!」
ドヤ顔を浮かべて楪は俺たちに向かって胸を張る。その顔には一点の曇りもない。
「πのπ乗!その正体は…!」
「すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」
教室にスーツを着たおばちゃんたちが入ってきた。首から下げている身分証には教務チームと書かれている。
「先ほど教授と学生の皆さんから、苦情が寄せられました。奇声を上げて走り回り、あちらこちらの黒板に落書きしていく女の子がいると。あなたのことですね?」
「落書き?!違います!あれはちゃんとした数式です!撤回してください!!」
「こっちとしてはあれがなんなのかはどっちでもいいんです。とりあえず話を聞きたいのでついてきてください」
そして楪は両脇をがっちりとおばちゃんたちに捕まれて、引っ張られていく。
「は、放してぇ!皆さん!πのπ乗は!πのπ乗はぁ…!」
そして結局どんな数かを言い切る前に楪は教務チームによって連れ去られてしまった。きっと地獄のような説教が待っているだろう。可哀そう。
「ねえボクたちってもしかして歴史的瞬間に立ち会っちゃったのかな?」
「かも知れないわね…でもよかったわ。これで子供たちにどんな数なのか伝えられるわ」
こんなのが重要な歴史的発見の瞬間とか嫌すぎる。綾城Xの下ネタが後世に残るとか、なかなかに人類の汚点ではないだろうか?
そして注意を受けて半べそ書いて釈放された楪は参天浪を呼び出して、数式の検討を行った。そして彼らによる理論の修正が施され、楪のπのπ乗の証明は論文として世の中に出されたのである。それによって数学界の姫とマスコミに呼ばれるようになってブー垂れた楪についてはまた別の話である。
***作者の独り言***
筆者も忘れてたけど、大学ってそもそも研究機関なんですよね。
サークルでカーストの椅子取りゲームでマウントし合うのはおまけでしかないという。
まあそんなお話でした。
次は四人組でテニスするお話をやります。
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