第33話 行動の果てに見えるもの

 複数人だったのにラブホにはあっさりと入れた。部屋に入った瞬間、綾城はテンション高めにベットに向かっていった。


「ふぅ!一番のりぃ!」


 ベットに仰向けに寝そべり足をジタバタさせて楽しんでいる。俺は瓶ビールを飲みほしながら動く足とはためくスカートを見ていた。だけどこの女いつだってパンチラだけは拝ませてくれない。どんだけ鉄壁なんだよ。俺はビールの瓶をテーブルに置いて、楪の方へ行った。


「キエエエエエエエエエ!!!ここがラブホテル!思ってたより地味ですね!もっとギラギラに輝いてるんだと思ってました!!普通です!メッチャ普通!あはは!あははは!あー!でも見てくださいカナタさん!!お風呂!!お風呂の壁!!透明ですよ!!いやん!」


 楪は部屋のあちらこちらを探索してはうんうんと頷いて回り、最後に辿り着いたお風呂場でものすごく楽しそうに興奮してた。そして透明な壁の裏側に回り込む。俺とはちょうど硝子の壁越しで見つめ合うような状態。


「一発ギャグやります!パントマイムしようとしておっぱいデカすぎて壁に手が触れられない人の真似!!チェスト―――!!」


 そう言って楪は壁におっぱいを押し付ける。手を一生懸命硝子の壁に向かって伸ばすが届かない謎の演技をはじめる。可愛らしくもなんか壁に押しつぶされるおっぱいがなんかエロいので俺は笑ってしまった。



「とどかないよー!なんでー?!どうしてー!?あれぇ?おっぱいが邪魔だ!でもこれ取れないよぅ!壁に手が届かないよぅ!」


「ぶっ!!そのギャグズルい!ひゃははは!」


 当然これもスマホで撮ってる。素面の時にこれでいじめてやるんだ!


「ところで伊角さんはなんで、さっきからカナタさんの袖をぎゅっと握ってるんですか?」


 パントマイムごっこをやめて、楪が俺のそばにちょこんともじもじ立っているミランに尋ねた。


「さっきさ…他のお客さんのカップルと廊下ですれちがったよね?」


「そりゃここはホテルだし、他のお客さんもいるし、すれ違うのは当たり前ですよね?」


「あのカップルが今頃、…エ…ッチ…してるって思うとなんかその…すごく恥ずかしいんだ!ボクこんなに恥ずかしい気持ちは初めてだよ!!」


 ミランは両手で顔を覆っていやんいやんと首を振っている。


「「うわぁ、まじで童貞っぽい!!ぎゃははは!」」


 俺と楪はミランの初心いを通り越してもはや童貞丸出し仕草に爆笑してしまった。その時ベットの方から綾城の声が響いてきた。


「みんな来てー!!とんでもないものを見つけてしまったわ!!」


 何となくオチはわかってるけど、綾城の方へと向かう。


「へぇい!楪パス!!」


 綾城は何かを満面の笑みで放り投げる。それを楪はキャッチした。


「こ、これは!!いやん!女の子なのにこんなのに触っちゃった!伊角さんパス!童貞のあなたにはこれが必要です!!」


 楪は顔を少し赤くして、それをミランにパスした。ミランは華麗にそれを受け取ってそれの正体を知って、あわあわと慌て始めた。


「こ、これってあれじゃん?!コンドーム?!嘘?!つけなきゃ?!ボクは童貞だからこれをつけないと!ってボクにつけられるところはないよ!!」


 ミランは綾城の方にそれを投げた。そうそれはみんな大好きコンドームさん。まだ封は開けられていない。綾城はそれをキャッチして、何の戸惑いもなく開封する。そして俺がさっきまで飲んでいた瓶ビールの口に被せる。


「おい!お前何処に被せてんだよ!!」


「あんたがビールで妊娠しないようにしてあげてるのよ!ほらぁ!咥えろ!咥えろぅ!!」


 綾城はゴムが被せられた瓶ビールの口を俺に近づけてくる。実に楽しそう。こんなセクハラありですかぁ!?


「何もしないって言ったじゃないですかぁ!」


「先っちょだけ!先っちょだけでいいから!おーほほほ!」


 俺の頬っぺたにゴムのかぶさったビール瓶をツンツンと押し付けてくる綾城さん。こんな意味不明な状況は初めてです!楪は近くでそれをスマホで撮ってる。


「カナタさん!その顔いただきです!後で待ち受けに設定しちゃおうっと!」


「や、やめろ!そんなのが他の人に見られたら!俺の大学生活が!これ以上の悪評はノーサンキューだぁ!!」


 俺はビール瓶の口につけられたゴムを剥がして綾城にパスする。綾城はそれをキャッチして、そこにワインを少し注ぐ。


「いぇぇい!見てるぅ?!これが常盤君の処女を奪ったゴムでーす!!ほらぁ!こんなに処女の血がべっとり!」


 綾城はそれをキャッチしてきゃきゃと楽しそうに指でつまんで楪のスマホに向かってドヤ顔決めてる。悪趣味極まりない!


「いいこと思いつきました!!どうせならそのコンドーム水筒でカクテル作りましょうよ!!芋焼酎いれまーす!!きゃはは!」


 芋焼酎をワインに足す。それカクテルかな?なんか違くない?そしてそこに。


「ボクは童貞じゃない!!ジン!決めてくれぇ!!インサート!!ほぉおおおお!」


 ボトルからコンドームさんにジンに注がれる。だからカクテルじゃねーよそれ。


「あは!こんなにヤバい酒はじめて!!誰からイク?じゃなかった飲む?」


 コンドーム水筒がパンパンに膨らんでいた。なんだろうこのすげー間抜けな絵面。だけど果たしてこのコンドームくんに女性陣の口をつけさせていいものだろうか?俺は激しく悩んだ。そして。


「俺行きますよ!みんな見ててくれ!」


 俺はコンドーム水筒に口をつけてその謎のカクテルモドキを一気に飲み干す。ぶっちゃけ不味い。なんというか普通に美味しくない。だけどアルコールの回ってくる感じと喉を適度に焼くような感じはよかった。


「ぷはぁ!ごちそうさまでした!あひゃ!」


 コンドームくんはしなしなに空っぽになった。


「「「ふぇええええええい!かーなたくーん!ロストヴァージンおめでとう!!!!」」」


「ありがとうみんな!!」


 何だろうこのノリ。まあいいや。だって楽しいもの。こうして二次会がスタートしたのである。




******



「マジでカラオケあるんですね。ふふーん。実はわたし…はじめてなんです…!」


 ベットの上に座る楪がどことなく恥ずかしそうに顔を伏せる。


「安心しなさい。美魁も初めての童貞だからね。そこで処女童貞同士大いに励みなさい!あたしは最後まで見ててあげるわ!」


 ソファーに座る俺の太ももの上に、綾城は靴を脱いだ足を乗せていた。綾城はひじ掛けに背中を乗せてゆったりモードで缶チューハイをぐびぐびと楽しんでいる。時たま綾城は足の指先で俺のふくらはぎとかをなぞってくる。なにかピリッとするような甘い感触がそのたびに足に広がった。


「そっちの意味じゃないでしょ!?まあ、楪ちゃん、カラオケならボクにまかせてよ。…ちゃんとリードしてあげるからさ…!」


 ミランは楪を後ろから抱きしめて、甘い声で彼女の耳もとに囁いた。しかしはじめてのカラオケがラブホとかやばくね?


「いやん!ヅカボイスが子宮に響くぅ!はいじゃあまずは伊角さんからお手本いっちゃってください!」


 そして楪はカラオケ機を操作して曲を入れた。俺にとっては懐メロ。この子たちにとっては最近の流行りのアイドルの曲が部屋に流れ始める。最初はミランからだった。やっぱり上手い。そして歌詞の一番を歌い終わった後、マイクを楪にパスする。


「頑張って!!」


「しゃーーーーー!しゃーーーーーーーーーー!ちぇすとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!紅葉楪!はじめてのカラオケ行きます!!」


 楪がその曲の二番を歌う。いつもよりもどことなく高くて、少し甘い感じの声だった。可愛らしくも、顔を少し赤く染めて頑張って歌っている。


「いいわね。(カラオケ)処女の初めてって…」


 綾城はしんみりと曲に聞き入っている。実際楪の歌は結構うまかった。ボッチあるあるだけど、いつかカラオケに誘われた日に困らないために、メッチャ一人で練習しちゃうの!きっと楪もそれだろう。いとはかなし!そして歌い終わり。


「みんな!ありがとう!ありがとう!わたしの歌を最後まできいてくれて!ありがどう”うう”ぅうえええええええええん!」


 楪は感極まったのか、ボロボロと涙を流している。ボッチだった楪にはいまや一緒にカラオケに来れる仲間がいる。寂しくないのはいいことだと思った。


「ふふふ。良かったわね楪。あたしたちの出会いはいいものになったわね。ええ、本当に良かった」


 綾城は立ち上がって、楪の傍に行き、彼女の頭を優しく撫でる。そしてマイクを取って曲を入れる。


「ひゃっはー!次はあたしのターンよ!!みなさま!あたしが歌っている時は絶好のおトイレタイムですわよ!!おーほほほ!」


「それカラオケで一番いやなやつじゃん!?」


 カラオケあるある陰キャが誰も知らないバラード系の曲を入れると、陽キャ系の奴らが一斉にトイレ休憩し始める現象。屈辱である。ちなみに綾城は普通に上手だった。なぜかやたらとコブシが表示されまくってたのには笑ったけどな。


「はい、常盤の番」


「おしゃあああ!まかせろ!」


 俺はめっちゃ気合い入れる。楪はなんかワクワクしている感じに見える。綾城は相変わらずニチャニチャしてる。間違いなくなんかこけたら弄られる!そしてなぜかミランは心配げに俺を見詰めていた。そして…。


「~♪…どうよ!けっこう点数も高くない?!ありでしょ!あはは!」


 だが女性陣の反応がなんか微妙だった。楪はぱちぱちと手を叩いて。


「ジョウズデシタヨ!ワタシハスキデス!」


 なんか片言になってる?!笑みもなんかぎこちない。


「ああ、美魁…これは…あれよね?」


「あれだねぇ。音程はとれてるし、演技練習の時と違って声もいいんだけどね。…その曲なに?!全然知らないんだけど!!」


「なにって…俺が中学生の時はやってたバンドの曲だけど?」


「ギャップを感じるなぁ。世代じゃなくて男女の方!上手いんだけど、その曲を知らなさ過ぎてノリづらい!!芸はわかりやすくだよ!!せっかく演技力あるんだから勿体ないよ!みんなが知ってる曲入れよ?ね?」


 楪がうんうんと頷いていた。綾城はやれやれと肩を竦めている。


「このままじゃあんたの曲の時がおトイレタイムになっちゃうわよ?いいの?んー?いいのかしら?んー?」


 綾城さんが俺を煽ってくる。望むところだこの野郎!


「おお?この野郎!楪!おれと一緒にデュエットだ!」


 俺は楪の隣に座り、カラオケの機械を弄る。


「デュエットいいんですか?!わたしアニソン系なら自信が…」


「あっこれなら知ってる。どう?」


「いいですね!入れましょう!!」


 俺と楪はベットの上に立って飛び跳ねながら歌った。その後はひたすらカオスなカラオケだった。飲んで歌って騒ぐ。


「横になりながら歌うのむずかしいわね!きゃはは!」


「マイクにゴム被せたら破れちゃいました!やだん!デキちゃうぅううううう!!わははは!!」


「ボク、やってみたかたんだよね!マイクを二本同時に使うの!!ぎゃはは!!」


 もうカオスである。普段のカラオケではできないことをありったけやりまくった。



***ちょっと下らない小ネタ***


 綾城が額に手を当てて、ううっと謎い声を出して中二病ごっこを始めた。


「なに?前世に目覚めた?異世界行くの?」


「思い出したの!この部屋の秘密を!!」


「なに?元カレと来たとか?俺そう言うの気にしないよ。あははは!!」


 嫁元カレいっぱい。我そういうの慣れてるなり。ラブホ入り給いて、嫁のスマホwifiに繋がることいと悲しす。慣れたる手つきにてベット周りのスイッチを弄る様ははなはだわろし。


「カレシなんていたことないわよ。そうじゃないの!この部屋!人気ハメ撮りシリーズでよく使われてる部屋よ!!」


「は?なに?」


「エッチなビデオよ!!ほぉおおお!!まさかの性地巡礼となるとは!上がって来たわ!!」


 良い子の皆は行ったラブホの部屋がエッチなビデオで使われたことに気がついても彼女には絶対に言わないようにしようね!絶対だぞ!



***からおけをたのしんだ!そしてみんなはおやすみです!ぐーぐー!***




 どれくらい歌い通しただろうか?6時間から先は数えるのをやめた。みんなはしゃぎながら歌いまくって気がついたら、みんなでベットの上で横になっていた。右に楪が抱き着いていて、左側にミランが寄り添っていた。綾城は俺のふくらはぎを枕にしてやがった。彼女らしいことだ。俺は天井を見ながら、彼女たちの息遣いを感じていた。ところどころに触れる柔らかさに高揚感と同時に安心感も覚える。俺が知る女の柔らかさと心地よさは嫁だけだ。それを思い出したときふっと怖くなった。あの柔らかな体は、一瞬にして裂かれて血まみれで息絶えた。懇願も、謝罪も、愛を告げられることも、もうなくなった。そして時は巻き戻り、別の柔らかさが今傍にいる。今日この瞬間の愛おしさは俺の行動の結果だ。じゃあ前の世界の結果もまた俺の行動の結果なのだろう。だから思うのだ。









この世界の彼女は何処へ至るのだろう。







その時に俺は何処にいるべき・・・・なのだろう?










俺がとりとめもない妄想に囚われていた時だ。太ももにふっとくすぐったい感触を感じた。綾城の指が俺の太ももをなぞる。


綾城の青い瞳と目が合った。それはカラコンとは思えないほどに鮮やかで綺麗な蒼だった。


「ねぇ。とっても楽しかったわね。そうでしょう?」


 彼女はそう問いかける。穏やかでとても美しい微笑を浮かべて。


「あたしは楽しかった。そして今この時も楽しいって思えるわ。あなたのおかげよ。ありがとう。だから聞きたいの。ねぇ。あなたはどうなの?」


 俺はその問いかけに笑みを浮かべてしまった。答えなんて一つしかないのだから。


「ああ。俺も楽しいかった。そして今も幸せだよ」


「そう。よかった。ならもうお休みしましょう。良かったら、夢の中でもあたしと遊んでね。おやすみなさい」


 綾城は目を閉じて穏やかな寝息を立てはじめる。俺もそれにつられて目を閉じる。願わくばよい夢が見れますように。そして俺は眠りについた。
















そして起きてチェックアウトする時、ちょっとたまげるくらいの額を請求された。根が庶民の俺にはなかなか衝撃だった。ありがとう未来知識。君のおかげで株に勝ってなかったら、余裕の笑みを浮かべることなんてできなかっただろう。俺は颯爽とカードでラブホ代を清算して男のメンツを守ったのである。


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