3章.異世界からの来訪者

3-1:聖妖国

 よくわからないところに転移し、辺りを見回すと怖い人たちに囲まれていた。


 まず、目の前には平安貴族のような服装をした黒目黒髪のイケメンがいて左には執事服の恰好をした人が。右には着物を来た女性が。そして周囲には西洋の鎧を装備した騎士団?と思う方々が私を囲んでいる。騎士団の方々は皆強そうだ。暴れてもすぐに抑えられそう。ただ一つ言わせて。ここの世界観どうなっとるん。日本人的にはどっちかに統一してほしい。


「おや、これは妖狐族、いや半妖ですか。それも二尾。これは随分と珍しいですね。さて、神託通りであれば言葉は通じるはずなのですが、私の言葉はわかりますか?」


 ひたすら周囲を見回してると黒目黒髪のイケメンが話しかけてきた。


「え・・あ、はい。わかります」


「そうですか。あの神託は本物だったということですね。安心しました。言葉が通じなかったら色々と面倒でしたから。コチョウさん、予定通り案内をお願いします。では英雄殿、また後程お会いしましょう。」


 そしてイケメンの周囲に数多くの式神が舞い、それが収まるとイケメンは消えていった。あれは転移?この世界の転移はお気軽に使えるものなのか?例えゲームだとしても習得難易度はめちゃめちゃ高いイメージなんだけど。あと英雄って呼ぶのは辞めて欲しい。


「英雄様、私についてきてください。」


「えっ、あ、はい。」


 コチョウさんの後ろについていき、その後ろから執事さんと騎士団の方々が付いてくる。そして階段を上がると煌びやかな廊下が目に入った。西洋のお城といった印象を受ける。ただ、侍の恰好をしている人や、メイド服の恰好をしてる人、軍服を着ている人などがいる。ほんと世界観どうなってるんだここ。ぐちゃぐちゃだ。


「お入りください」


 そして、部屋にたどり着き、案内されるまま中に入る。中は完全に高級旅館の和室といった雰囲気。ベッドも木で出来ていて、和室の雰囲気を崩さないようになってる。大きな窓からは和風庭園が見え、燦々と輝く太陽がそれを照らしている。とても綺麗だ。


「ではこちらに。この後陛下との謁見がありますので、お召替えいたします。」


「あ、はい」


 なすがままに服を脱がされ、白と紅の綺麗な着物を着せられた。メイクも施され、自分でもビックリするくらいの美人になったと思う。尻尾については服に穴をあけてくれたのでそこを通してる。ただ、明らかに高級な服をその場で躊躇なく裁断したのはさすがにびっくりした。すごく申し訳ない気持ちになる。


「では案内を呼んでまいりますのでここで少々お待ちを。」


 そして侍女?のコチョウさんは出ていった。テーブルに置かれたお茶を飲みながらゆっくりしてると、コンコンとドアがノックされる。


「英雄様、お迎えに上がりました。」


「はい、今行きます。」


 なんで英雄って呼ばれるのかなって思ったらまだ名を名乗ってなかったね。まぁ、後で名乗ればいいか。ドアをあけ、迎えに来てくれた騎士についていく。私の両隣にも騎士がいて、ちょっと威圧感を感じる。


「陛下、英雄様をお連れしました。」


 謁見の間につくと、騎士はその場で敬礼した。よく警察とか軍人がしてるあの敬礼だ。


「ええ、よく連れてきました。あなたたちは下がりなさい。」


「はっ!」


 そして騎士は下がっていった。


 玉座には先ほどのイケメン平安貴族が胡坐をかいて座っており、左右の壁には騎士が控え、その手前に恐らく貴族など地位の高い方々が並んでこちらを見ている。そんなにみられると居心地が悪い。


「英雄殿、先ほどぶりですね。名前をお聞かせください。」


「雨宮翔です。」


「雨宮殿ですね。私はこの国を治めるアベノセイメイと申します。よくぞ召喚に応じていただきました。」


「い、いえ」


 応じたというか、半強制だったんだけど。拒否権なかったし。あ、この人たちはそれを知らないのかな。神託云々って言ってたし。


「早速ですが、雨宮殿には3か月後にやってくる来訪者をまとめ上げ、魔王の討伐に赴いていただきたく思います。無論、報酬は用意いたしますし、討伐が完了した際には元の世界にお返しいたします。この仕事、受けてくださいますか?」


 は?いやっ、ちょっと待って。来訪者って・・・えっ!?てことは一葉と会えるってこと!?やったー!!っていやいや、それよりも元の世界に帰れる?ヨーグルトソースさんは今は無理って言ってたよね。だとするとそれを魔王が妨害してるってこと?それさえ解決すればいいのか?ってめっちゃ視線が痛い。そんな睨まないで。とととりあえずこの話は受けよう。というか受ける以外の選択肢がなくない?


「わわっ、私でよければお受けいたします」


 そういった瞬間、この場の空気は途端に軽くなった。みな安心したという表情を浮かべている。


「おお!そうですか。ありがとうございます。皆の物、聞いていましたね。聖妖国からはこの者を代表として救世軍に向かわせます!騎士団長、そして魔法師長、あなたたちには来訪者が来るまでの3か月の間に、雨宮殿を鍛えてもらいます。よいですね。」


「「はっ!」」


「では雨宮殿、これからよろしく頼みますよ。」


 アベノセイメイさんの周りには地下室の時と同じように紙吹雪が舞い、そして紙吹雪が収まると姿を消していた。謁見の間は西洋のお城という造りなのでそういう転移のされ方をすると違和感があるけど、こういう場だと思うしかないか。その後、各々が自由に謁見の間から退場していく。


「雨宮様、お疲れ様でした。お部屋にご案内いたします。」


 そしてすぐにここまで案内してくれた騎士が私の元にやってきて、さきほどの部屋まで案内してくれた。そして騎士は直ぐに部屋から出ていった。


 ふぅ・・・、疲れたぁ。色々ありすぎて頭パンパンだよ。転移・・・転移かぁ。一葉悲しんでるんだろうなぁ。早く会えるといいなぁ。ていうかさっきはさらっと流したけど来訪者がやってくるってSLAWOのプレイヤーのことだよね?まさか私と同じように全員が転移してくるとかないよね?だとしたらかなり怖いんだけど。死んじゃうじゃん。あぁ、そうか、気を付けないと私も死ぬのか。ゲームじゃないから無理できないね。・・・落下死には気を付けておこう。ゲームでの死因No1だし。英雄が落下ししたとかとんだ笑いものだよ。


 コンコン


 椅子に座り、庭を眺めながらゆっくりしてると、ドアが鳴る。


「どうぞ」


「失礼します。本日より雨宮様専属の侍女となりましたコチョウと申します。よろしくお願いします。」


「あ、はい。お願いします。」


「お食事は必要ですか?」


「いえ、大丈夫です。」


「承知しました。ではこの後は騎士団長との顔合わせをしましょう。恐らくそのまま訓練施設に向かうことになるかと思いますので、お召替えをいたします。」


「あっ、はい。お願いします。」


 人に着替えさせられるのって嫌だけど、それよりもこの高級な着物を私なんかの素人の手で扱うとか恐れ多い。大人しくお願いしよう。


 そして振袖を脱がされ、侍が着ているような服に着替えさせられる。下が白で上が紅色、袴の左側に薄く何かの花が描かれている。これも多分めっちゃ高いやつ。肌ざわりがよくて軽い。相変わらず尻尾を出すところは躊躇なく裁断してるんだよね。せめて私の目が届かないところでやってほしい。



「では、ご案内いたします。」


 コチョウさんについていき、騎士団長がいる部屋に向かう。


「アデル騎士団長、雨宮様をお連れしました。」


「おう、ちょっと待ってろ。今行く。」


 言われたまま、部屋前で少し待つと、鎧を来た騎士団長が出てきた。身長は2mくらいはあるだろうか。かなりデカい。茶髪の短髪で目に傷跡があり厳つい顔をしてる。


「おう、よく来たな。騎士団長のアデルだ。このまま訓練所まで行くぞ。用意はいいな?」


「はい、雨宮様には戦闘装束を着せてありますので。問題ありません。」

 

 あ、コチョウさんに聞いてたのね。私に聞かれたのかと思ったビックリした。


「おう、用意がいいな。ってかこれ聖妖布で出来た服じゃねぇか。国宝もんだろこれ。」


 えぇぇぇ!?!?めっちゃ大事なモノじゃないですか!それを躊躇なく裁断してるとか怖っ!この人怖いわ!


「陛下からのご指示ですから。」


「はぁー、気前がいいこって。まぁいいや。いくぞ。ついてこい。」


 言われたままにアデルさんについていく。国宝ものって聞かされてからは汚してしまわないかで気が気でない。戦闘装束ってことはこの服で訓練するってことでしょ。めっちゃもったいない。いやでもそういう用途で作られたものなんだからいいのか。でもボロボロにしないようにしよう。


「雨宮様。ご安心ください。その服には自動修復機能が付いてますので。」


 落ち着かずにそわそわしてると、コチョウさんがこそっと教えてくれた。いや、だとしても緊張するって。まぁ少しは気楽になったけど。ほんの少しだけ。


「ついたぞ。ここが訓練所だ。」


 そわそわしてて気が付いてなかったけど、いつの間にか外に出てたらしい。数多くの騎士がここで訓練していた。私たちに気が付いた一人の若い兵士がこちらに向かってくる。


「騎士団長!そちらの方は?」


「おう、例の英雄様だよ。訓練用の武器を持ってこい。こいつと打ち合う」


 英雄様っていうのは辞めて欲しい。別に何も成してない私には不釣り合いな称号だ。せめて雨宮様ならまだ許せるけどさ。


「失礼ですが、あまりお強そうには見えません。騎士団長自ら手合わせする必要はないのでは?」


 いや本当に失礼だな。仮にも国賓ぞ?レベル的にはあなた方より遥かに下だろうから事実かもしれないけどさ。


「陛下から鍛えろって言われてるんだよ。それにこいつがどれだけできるか気になるしな。」


「はぁ、そうですか。かしこまりました。」


 なんか意味深な目を私に向けて青年は去っていった。睨むという訳ではなく、憐れむような感じだ。別に痛いのには慣れてるから特に問題ないんだけどな。それにしてもここは凄い。魔力強化という技術があるからか、ただの打ち合いでも地球のそれとは全然違う。とにかく早くそして力強い。さっきからいろんなところでドッカンドッカンなっていて、何かと派手だ。


「お待たせしました。こちらをどうぞ」


 先ほどの青年が訓練用の武器をもって来てくれた。もって来た武器は細剣で刃は潰れてる。手に取って軽く素振りしたところ、私にぴったしのサイズだった。よくおいてあったな。


「ありがとうございます。とても扱いやすいです」


「いえ、これも仕事ですから。」


「ほう、いい筋だな。使ったことあるのか」


「細剣ではないですが、似たようなものをそれなりに」


「そうか。そりゃ楽しみだ。よしっ、早速やるぞ!」


 そして訓練場の中心付近に行き、対面してお互いに構える。騎士団長が持つ武器は大剣。私の身長と同じくらいのサイズのものを肩に担いでいる。それといつの間にか騎士たちは訓練を辞め私たちの周りで見物してる。かなり静かになった。


「好きなように打ってきていいぞ。軽いテストだからな」


「そうですか。ではお言葉に甘えて。」


 まずは何も強化せずに踏み出して剣を縦に振る。騎士団長は身体を横にして回避。私は剣の勢いを殺さず、剣を跳ねさせて顔目掛けて切り上げる。所謂燕返しとよばれる技だ。


「おっと。」


 しかしこれもバックステップで回避される。まぁ、魔力強化も何もしてないし当然と言えば当然か。更にそこから何度か追撃するも全て回避され、再び中心で向き合う。体もあったまってきたところだし、次は全身に魔力強化を軽くかけていこうか。脚だけだと移動速度しか上がらなくて、攻撃速度は変わらないしね。あ、頭には使わないよ。痛くなるし。


 魔力強化を瞬時にかけて強く踏み込んで剣を振る。


「おおっ?!」


 私の移動速度が突然上がったからか、騎士団長は態勢を崩した。その隙を狙い更に追撃する。


 ガキン!


「おらぁ!」


 しかし追撃は剣で受け止められ、そのまま弾かれて身体が大きくのけぞる。


「はっはぁ!」


 そして更に私が態勢を整える前に追撃してくる。私は弾かれた反動を利用してバク転して回避。騎士団長の攻撃により先ほどまでいた場所には大きな穴が開いた。私は次が来る前に距離を詰めて剣を振る。相手も下から攻撃してくる。私は身体を一瞬止めて剣を振りぬかせ、懐に飛び込んで攻撃を仕掛ける。


「うぉっ!」


 しかし篭手でガッチリ受けられる。大分体が流れてたはずなのに何で受けれるんだ。


「おらぁ!」


 そして下から蹴りが飛んでくる。私は避けきれずに顎に喰らってしまう。


「ごふっ」


 ---いったぁ。そのゴツゴツの厳つい見た目でそんな柔らかい攻撃してくるとか予想してないって。


「まだまだぁ!」


 私が倒れてるところに容赦なく剣を振るってくる。急いで魔力強化を強めてこれを回避。すれ違い際に首を狙う。


「ふははは!おらぁ!」


 しかしまた下から剣を振ってきて、私の剣を受けとめ更に弾かれる。しかも今ので剣が手から離れてしまった。相手の手は止まらず、さらに攻撃を仕掛けてくる。何とか手で受け流し、首を狙って貫手を放つ。


「ふんっ!」

 

 ボキッ!


 だがこれも首に力を入れて受けられ、私の指が折れてしまう。なんとなく通用しない気はしてたけど、首で受けて挙句折るとかどんな身体してるんだよこの人。


「はぁ!」


 私が次の手を打つよりも先に腹を蹴られて吹き飛ばされ、そして首に剣が添えられる。



「・・・ふぅー、参りました。」


「「「お・・・オオオオオオオオオオオオ!!!!」」」


 そして私が参りましたというと同時に歓声が上がる。割と一方的だったと思うんだけど、そんな盛り上がるほどだったろうか?まぁいいや。


「おう!なかなかいい動きだったぜ!医療班、治療してやれ!」


「はっ!」


 その後は医療班に回復してもらい、コチョウさんに連れられて風呂に入り身体を洗ってもらった。いやぁ、骨が折れてもすぐに回復出来るっていいね。向こうで同じ怪我したらしばらく動けないからなぁ。無理できる時間が増えるのは純粋に嬉しい。より強くなれるしね。


 とはいえ、初日から色々あって疲れたから、少し横になろう。おやすみなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る