1-15:慣れない体

「そういや種族クエストはクリアしたの?」


「うん、二つ目をクリアしたよ。なんか狐になっちゃったけど。」


「えぇ!?何それ!!つまりモフモフってこと!?」


「え・・・あぁ、うん。そうだよ。なんか街には入れないみたいだけど。」


「そっかぁー、狩場には来れるの?」


「それはいけるみたい。」


「じゃぁ一緒にできるね!この後一緒にやる?」


「いや、慣れるまではソロでやるよ。今日一日はソロかなー。スキルも色々増えたし。」


「了解ー。じゃ、僕は配信してるねー。」


「はいはいー。」


 そして私たちはSLAWOを起動しログインする。目を開けるといつもの宿屋ではなく、よくわからん人の家にいる。


 さて、まずはそもそも立てるかどうかだけど・・・。うわっ、全然上手く立てない。生まれたての小鹿みたいなんだけど。バランスが中々とれない。


ドテッ


 転んじゃった。これまともに戦闘できるようになるのめっちゃ時間かかりそう。


 それから一時間ほど色々と思考錯誤してようやく立てるようにはなった。しかし歩けない。右前足と右後足を前に出して、次に左前脚と左後脚を前に出せば進めるってのはわかるんだけど、中々難しい。途中でバランスが崩れて転んでしまう。まさか移動するのに苦労するとは思わなかった。こりゃしばらく練習だな・・・。



 それからずっと歩く練習をしてたらいつの間にか17時になっていた。晩御飯つくらないと。ログアウトする。んー、人の身体は安心するなぁ。普通はこんなこと思わないんだろうけどね。


 そして晩御飯を作る。今日のご飯はロースカツ丼にする。


 豚ロースを程よいサイズに切り、衣をつけて油で揚げていく。普通は揚げてからカットするんだけど、面倒くさいので先にカットする。この方が早く火が通るしね。揚げてる間に様子見しつつタレを作っていく。


 一度まな板を洗い、玉ねぎを薄くカット。そしてフライパンにカットした玉ねぎとめんつゆを入れ、玉ねぎがしなるまで火に通す。その後、揚げ終わったカツを入れ、卵をいれて半熟状になるまで軽く火を通し、終わったら火からおろす。器にご飯をよそい、作ったカツを乗っけて完成。


 朝作った味噌汁もよそってテーブルに並べていく。


「んー、いい匂い。今日はカツ丼?」


「うん、そうだよー。」


 できたカツ丼と味噌汁をテーブルに並べ、食べ始める。


「んー、美味しい!翔はいまどんな感じ?」


「今歩くのに苦戦してる。まだ2,3歩しか歩けない。この調子だとまともに戦闘できるようになるまで結構時間かかりそう。」


「え!?そんな難しいの!?」


「うん、多分システムアシストがないからじゃないかな。ランダムで動物系になることあるのか知らないけど、普通はアシストあるだろうし」


「うわぁ。そういうのもアシスト有る無しで変わってくるんだ。でも確かに、現実よりもVRの方が動きやすいってのはよく聞くもんね。」


「そうなの?むしろ私はそれを知らないんだけど。」


「あー、そういや翔は全然ゲームしないんだったね。今やってるのが初めてハマったゲームだし。」


 そうそう、私は今やってるのが初めてハマったゲームなんです。それまでは興味なかったから何も調べてなかったしね。話してても流し聞いてるだけだったし。


「あ、そういえば翔は個人配信しないの?」


「え?なんで?」


「いや、コメントにもいい感じに反応できてたから配信に向いてるんじゃないかってマネージャーが言っててさ。あと個人配信を見たいって人も結構いるよ。」


「そうなの!?まぁやるとしても狐の身体を上手く扱えたらかな。」


「えー、生まれたての小鹿から成長するところを見たい」


「いやいや、だって昼からいままでずっと歩く練習してたんだよ?歩いては転びを繰り返してる配信とか見てても面白くないでしょ」


「デモ見タイナー」


「なんでそこで片言なのさ。とりあえず今はまだやらない。」


「むー、了解ー」


 うわっ、その頬を膨らませて上目遣いしてくるのはズルい。めっちゃかわいい。けど、やらないもんはやらないから。


 そしてご飯を食べ終えて、再度SLAWOにログイン。


 夜もまたずっと歩く練習をしていて、表に出てきたここの主にその姿を見られて爆笑された。まともに動けてたら妖術の一発や二発ぶち込めたのに。悔しい。


 結局その後、記録を5歩に更新してログアウト。夜は一葉と約束した通りにやってから寝た。


 それから一週間、余った時間の殆どをSLAWOに費やし、ようやく歩くと走るの両方 ができるようになった。ここまで来るのに、狐の動画を見て真似してみたり、更に細かく骨格や筋肉の付き方、動き方を調べて実戦したりとめっちゃ大変だった。


 この一週間の間に、東西南北の第二エリアが解放され、第二の街に進んだりとストーリーも結構進んでいて最前線プレイヤーのレベルは既に30までいってるらしい。


 そんな中、私はずっと動く練習をしていたわけだ


 ワールドアナウンスが流れるたびに「早くゲームしたい!いや、してるんだけど遊びたい!!冒険したい!戦闘したい!!」っていう気持ちがどんどん強くなっていって、その気持ちを糧にひたすら頑張った。


 結果としては問題なくなった。次は戦闘できるかどうかだ。なんだけど、今は6月13日の12時00分。丁度アップデートが走り始めたところで、今はまだログインできない。13時には更新が完了するようなので、丁度昼を食べ終わったくらいにログインできるようになるはずだ。ちなみに午前中は友人の梨花とショッピングしてた。夏服を買ってました。


「翔ー、早く一緒にやりたいよー」


「もう少しまって。いまやっとまともに動けるようになったところだから。てかいまレベル差結構あるでしょ。30だっけ?立派に最前線じゃない」


「そうだけどさー。ゲーム内でも会いたいー。リスナーもみんないってるよ。」


「リスナーは関係ないでしょ。さっさと追い付いてあげるから待ってなさい」


「むー・・・わかったー・・・」


 日が進むごとに段々拗ねていってる。早く追いついてあげないと・・・。とりあえず今日の夜もたくさん構ってあげないとね。


アップデートが終わったので、ログインする。


ピコン『サーバーアップデートが実施されました。詳細は公式HPをご覧ください』

ピコン『リアルモード適応対象種族のため、当該機能がONになります。』

ピコン『セクシャルガード対象外のため、当該機能はOFFになります。』

ピコン『キャラリメイク券がインベントリに送られました』


 ログインするとアップデートされた時のログが流れてきた。リアルモードは予想した通りだね。キャラリメイクは余程のことがなければ使わないかな。


 あとはログには流れてないけど、時間加速機能が追加されたんだよね。


 えーっと、今のゲーム内時刻は15時。リアルは13時ね。これからは時間管理に気を付けないと。気が付いたら17時過ぎてしまいそう。さて、今日から戦闘の練習をしようか。庭に出て転移をする。



ピコン『転移先を選択してください』

  ・エンジの森(西)

  ・エンジの草原(西)

  ・エンジの草原(南)


 初めて転移を使うけど、こういう感じで選択肢がでるんだ。んじゃ、森で。目の前が一瞬白くなり、直ぐに懐かしの森に出る。視線が低いからか新鮮に感じる。


 さて、狩りに行きますか。


 少し移動すると、丁度ウルフが一体で浮いていた。狐火を・・・って、これ試すの忘れてた。えーっと、とりあえず蒼を点けておけばいいのかな。この感じだと複数点けれそうだけど、とりあえず一つだけ。それで看破を使って確認する。


◆ウルフ:Lv11 属性:風

 使用魔法:ウィンドアロー


 おぉ、なんか情報が追加されてる。スキルレベルが上がったわけじゃないから、これが本来の看破なのかな?それとも倒しまくったから情報が追加されたとか??まぁいいや。


 ライトボールをセットしておいて、ウルフに向かって走って距離をつめていく。そしてこちらに気づいたウルフがウィンドアローを放ってきた。


「うわっ!?」


 人型の頃と同じように体を横にそらそうとするが、当然同じ動きはできないので、変な力が入り転んでしまう。


 幸いウィンドアローは避けれたようでダメージは受けてない。そして転んでるところにウルフが近づいてくる。急いで身体を起こし全力で走って距離をとる。


 後ろを確認すると、ウルフが木を蹴って方向転換していた。なるほど、そうやって方向転換するのか。ってそうじゃなくて。とりあえず一旦ライトボールを後ろに放ってけん制し、動きが止まった間に振り向いてウルフに向かって走っていく。


 相手もこちらに向かってくる。そしてある程度距離が近づいたところで、ウルフは更に踏み込んでこちらに足を振るってくる。今度は身体全身を使って横に飛んで回避。すぐにウルフの方に向き脚を魔力強化して攻撃を仕掛ける。


「わわっ!」


ドンッ!


 しかし魔力強化したせいで移動速度が上がってしまい、体のコントロールに失敗してウルフに体当たりした形になった。HPも半分減り、かなり体が痛い。


 けど幸い今の一撃で吹き飛んだようで、木にぶつかってかなりのダメージを受けている。今度は速く動き過ぎないよう速度を調整して、スタンしているウルフに前脚の爪で攻撃。今のでHPが0になったようで、無事倒すことができた。


ピコン『スキル:爪撃』を入手しました。


おっ、スキル習得した。


ぐぅぅぅ・・・


 あぁ・・・、お腹空いた。そういや強制リアルモードで色々再現されてるんだっけか。先にHPポーション飲んで回復。


 肉は・・・生肉しかないけど食べるか。食べれるかな?もしかして味覚も狐仕様になってて美味しかったりして・・・。


ガブッ!


 うぐっ!!狐仕様になってもまずいもんはまずい・・・。いや、そもそも彼らは生でしか食べないのか。そりゃ美味しく感じるはずないよね。食べられないわけじゃないから頑張って食べるけど・・・。


 ふぅ、これで大丈夫かな。あと便意もあるんから外でしないといけないわけだけど。お尻拭けないのいやだなぁ・・・あ、まって、性欲ってどうなるの!?え、狐とするのは流石に嫌だよ!どこまで再現されてるの!?いやいやいや、九尾はユニーク種族。つまり私しかいないわけだから、そもそも繁殖機能とかない・・・はず。帰ったらあのクソ野郎に聞いてみるか。


 とりあえず狩りを続けますか。次は紫炎を試してみようかな。次の獲物を探して歩いていると、ゴブリンを見つけた。しかも一匹で浮いてる。影に隠れつつ看破を使用して情報を取得


◆ゴブリン:Lv10 属性:無


 よし、これなら問題ないはず。紫炎を発動すると紫色の炎の玉が3つ私の周囲に展開された。感覚的に狐火よりも動かしやすく、弾丸のように発射することもできそう。とりあえず一発ゴブリンに対して撃ってみる。


ゴウッ!


かなりの速度でゴブリンに紫炎が飛んでいき、ゴブリンが紫色の炎に包まれる。


「ギャギャギャ!!」


 かなり強い火力らしく、皮膚がどんどん焼けていく。当たったときの火力は低いが、その後の火傷による継続ダメージは結構あるっぽ・・・いや、そんなことないみたい。よくみると全然元気だ。なんせこっちに全力で走ってきてるからね。


 ゴブリンがこちらに近づき攻撃してきたところ、横に飛んで避け、すれ違いざまに紫炎を放つ。先ほどとは違い、かなりの威力を発揮してゴブリンの身体を突き抜け、内側から焼いていき、光となって消えていった。


 うわっ、めっちゃ威力ある。これでMPが150。3つ展開してるから1つにつき50か。かなりコスパがいいし、扱いやすい。とりあえず戦闘は問題ないけど、威力でゴリ推してる感じがあるから、一つ一つ丁寧にいこう。


ピコン『HPが0になりました。???の森で復帰します。』


「あぁ・・・負けてしまった。」


 その後、しばらく一匹で浮いてるのを狙っていったのだが、途中3匹で群れているウルフに襲われてしまい、さばき切れずにやられてしまった。


 やっぱりまだ人間だったころの戦い方が体に染みついていて、つい立ち止まって受け流そうとしてしまう。本来はヒット&アウェイでかき乱す戦い方をする必要があるんだろう。かなり集中して疲れたので一旦ログアウトしよう。

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