第28話 ジャイアントゴブリン
「なんだ、あのデカい生物――ゴブリンは……」
俺たちよりも数十倍大きいゴブリンがそこにはいた。
ゴブリンロードをまじかで見たばっかりだが、それとは比較にならない。
近くにあるこの王国の城よりも体が大きいのだ。
最近は出て来るモンスターがゴブリンばっかで困ったものだ。
「私、長らくこの冒険者の活動をやってるけど初めて見たよあんなゴブリン。君はあのゴブリンを知っているかい?」
「いえ、全然。全く。俺も初めて見ました。ていうかあれ、なんなんですか?」
「きっとなんらかのスキルを持ったゴブリンだろうね。なずけて――ジャイアントゴブリン! 間違いなくゴブリンの長、ゴブリンロードよりは強いと思うよ。いやぁ、体が大きくて困るな~」
「…………」
レインさんは面白そうにしているが、俺はゴブリンロードよりも強いと聞いて手に震えが出て来る。
昨日のあいつよりさらに強い? じゃあ俺の手に負えるわけがない。
もし戦いにでもなったら絶対に負ける。
殺される……
とりあえず目で見てみる。
最近はこれが当たり前になってきている。
スキル:
効果;体に染みついている復讐の心が自分の体を大きくし、ステータスを通常の100倍以上にする。さらに復讐相手にはステータスをさらに2倍する。
欠点;大きすぎて歩きづらい。
無理だ。無茶だ。
なんだよ100倍ってしかも復讐相手にはさらに2倍だと……勝てるわけがない。
こんなにも復讐の心を持たせるなんて、一体なにをしたんだよ。その人は。
「ファクト……あんた。大丈夫?」
「……ああ、ちょっと驚いているだけだ。心配いらないよ、ミク」
「別に戦うわけじゃないんだから。どうせ、あのラグナロクとかいう馬鹿が倒すと思うわ」
「そうだな、あいつならいけるだろうね」
ラグナロクさんもスキルもちだ。
いくら強いとはいえ、このギルド最強のソロ冒険者なのだ。そう易々とやられるほど弱くはないだろう。
「あ、ラグナロクじゃん。おーい」
「なんです、最高責任者さん」
「前からその言い方はやめてといっているでしょう! レインさんか所長様にしてよ!」
「はいはい、レインさん」
噂をすれば、ラグナロクが颯爽と現れた。
炎に身を包ませて、空からやってきた。
なんかかっこいいのがムカつく。
「それで本題だけど、あれ……いけそう?」
「無理ですね。あんな巨大になると俺一人だと結構厳しいです。多少は効くでしょうが完全に倒すのはキツイかと。せめて他の冒険者たちと協力してならいけそうですが」
「そうか、君一人じゃ厳しいか。う~ん、どうしたものかな。あ……」
なにか思いついたようにレインさんが俺たち二人の方を見て来る。
えっと。レインさん、やめてくださいよ。わかってますよね!?
「ならお供としてこの二人を連れて行きなよ。この前戦ったときよりずいぶん強くなっているから、戦えると思うよ」
「却下です。こんな子供ごときにこの町を任せられない。どうせ、なにもできない」
そう言いながら俺の方をギロっと睨む。
苦手な目だ。内面を見透かしているかのような目だ。はっきりいうと怖い。
「う~ん、じゃあ他の冒険者でも連れて行きなよ。このギルドは駆け出しも多いけどその分強い人たちもいるからさ。まあ、どうにかして倒してね。そうしないと色々と困るし」
「わかってますよ。どうにかするつもりはあります」
「じゃあよろしくね!」
「本当ならあなたに手伝ってもらいたいんですけどね」
「無理だよ、もう冒険者は引退したし。そういうのは私の出番じゃないから」
「わかってますよ。あいつも他の国に行っていていないし。俺ぐらいしか戦えないですからね」
そういってラグナロクは飛んで行った。
あのゴブリンの方に向かっていく。
あいつというのは多分レインさんがこの前言っていたもう一人の紫の人だろう。
でも……大丈夫なのだろうか。難しいとか言ってたけど。負けたりとか……しないよな。
「ファクト、私たちは関係ないし行くわよ。あんなこと言われたし、もう絶対に手伝ってあげないわ」
「手伝ったところでラグナロクの言ってた通りなにもできないと思うよ。剣はほとんど通らなそうだし。魔法も顔面のしかも至近距離から撃てればちょっとは戦えると思うけどさ。俺たちのやることじゃない。これは他のもっと強い冒険者たちに任せておこう」
「わかってるわよ」
まあ、なんとかなるだろう。
ラグナロクだ。俺たちがなにをやっても勝てなかったのだ。それが勝てないはずがない。
「じゃ、帰ろう」
俺たちは来た道を戻ろうとして。
聞き捨てならない言葉をレインさんが言った。
「うわ~てかなんだろうあれ。あのゴブリンの手に火傷の痕みたいなのがあるんだけど、ちょっとグロイな~」
「え、火傷ですか!?」
ま、まさかな。
俺には少し心当たりがあった。
一応違うと思うが、確認しておこう。
「ど、どこにですか?」
「あれだよ、あれ。見える?」
「あ…………」
レインさんに指さされたところを見る。
うんうん、そういう事か。
「どうかしたのよ? 行くんじゃなかったの? なにそんなに終わった……って感じの顔をしているのよ。ねぇ、聞いているの?」
「……うん。まあ、なんだ。さっきはああいったけど、あれ……討伐しないとダメな奴だ」
「…………は?」
ここまで見たんだ。
間違いない。あれは――洞窟のクエストの時に俺が取り逃がしたゴブリンだった。
見た時は子供だったはずなのに今では立派に成長しているらしい。
まあ、立派過ぎるけどね。しかも逃がした俺たちに対して復讐心を燃やしてるけどね!
「いいか。ミク、耳を貸せ」
「な、なによ……」
俺はミクの耳元であいつのことを説明する。
「……え! じゃあ、あいつはあの時の奴なの!?」
「っし! 声がデカい! バレるだろうが、このアホ!」
大声で口走りそうになったのを見て、俺は必死にミクの口を手で押さえた。
なにしてんだよ!
「ちょ、恥ずかしいわよ! は、な、せ!」
無理やりに手を剥がされた。
少し顔が赤い。女の子にこれをやると恥ずかしいらしい。今度は気をつけよう。
「ごめんごめん、お前が大声で言おうとするから」
「なんでいっちゃいけないのよ。言った方が後々連絡が取りやすくなるでしょ」
今度は小さな声で言ってくる。
ちゃんと俺の意図は伝わったらしい。よかった。
「いいか、もしこれがレインさんにバレてみろ。もし、この問題で人が死んだら俺たちの責任ってことになるんだぞ。何事もなく片付いたとしても、町のみんなに迷惑をかけたんだ。なにかしらの代償。多分、お金が絡んでくる! そしたら借金だ。孤児院を立てれなくなる」
「……た、確かに」
「だから、このことは絶対に内密だ。わかってるな」
うんと小さくうなずく。
「だけど、なにもしないってのはちょっと心に残るものがある。だから手伝うんだ。あれに近づくとヤバいから主にラグナロクさんの支援って感じだ。いいな」
「わかったわ。ファクトがやるっていうのなら……やるわ」
俺たちの意見は満場一致で決まった。
あのジャイアントゴブリンを倒す。
でも俺たちにはステータスが200倍まで上がるからあまり手を出すのはやめておこう。あくまでも支援だ!
こうして俺たちにとって重要な戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます