第13話 復活

 暗い。暗い。暗い。

 真っ暗でなにも見えない。……そうか、俺は負けたのか。

 なにも守れず、約束も守れず、ただの負け犬。なにも出来なかった。本当に酷く、最悪な話だ。


 きっとこれは夢なんだろう。それはわかっている。

 でも……それでも目を覚ましたくない。怖い……これからのことが怖い。

 どうなっているのか。知りたいけど、見たくない。そんな気持ちでいっぱいになる。


 後、一歩の勇気が出ない。

 ミクが倒れていたらどうしよう。俺の体が壊れていたらどうしよう。

 

 そんな時、真っ暗の中。声が聞こえて来る。


『大丈夫じゃ、ファクト。勇気を出せ。ファクトならなんでもできる』


 でも俺は負けたんだ。負けてしまった。


『なんとかなる。このわしが保証しよう! だからファクト、勇気をだせ。一歩を踏み出すんだ』


 …………うん、わかったよ。頑張ってみる。


『よし、それでこそわしの息子じゃ。最後に一つ言っておこう。ファクトは頭がいい。だから色々考えてしまうだろう。だが、そんなに思いつめるな。辛くなったら誰でもいい。ちゃんと相談するんじゃぞ』


 うん、ありがとう。またな、爺さん。

 

 こうして会話は終わった。

 

「……ん……」


 そして体が覚醒する。やっぱり今のは夢だったらしい。あんな夢を見たのは初めてだった。

 そして、どれくらい眠っていたのだろうか。考えても答えは出てこない。 

 場所が違う事からどこかに移動したのだろう。

 とりあえず立とうとする。


「……痛! って怪我したところか……」


 右手に痛みを感じる。戦いのとき、火傷したからだろう。

 しかし、生身の腕じゃなく、ちゃんと包帯で包装してあった。一体誰が……


「……ていうかここは一体どこだ……」


 白い天井。白い壁。そして白い服のナース。

 ……ん、ナース!?


 茶色の長髪で白いナース服を着ていて、美しさを感じる。

 しかもメガネをかけていて様になっているようだった。

 凄い……初めて見たぞ。ナースなんか。


「あら、気が付いたのかな。よかった……ってことで。どうも君が起きるまでちょっとだけここにいさせてもらったよ。嫌だったかな?」


「嫌っていうかなんというか……あなたはいったい……」


「ああ、自己紹介がまだだったわね。エレミヤ・ロゼよ。よろしくね」


「えっと……よろしくお願いします」


 不覚にも笑顔を振りまえているところが可愛いと思ってしまった。

 ちょっと照れくさくなり隣を見てみると。


「……なににやけているのよ」


「ミク!? いや……別ににやけてないけど!」


「ちなみに私もいるよ~」


 ミクともう一人の女性が出て来る。

 

「別に……私にとってどうでもいいけど」


 ふん、と俺から目を逸らす。

 俺ははぁ……とため息をついた。


 そうはいってもちょっと不満そうな顔をしているのがわかるんですけど!?

 ていうかなんで怒ってんの!?


「……もう知らない。せっかく起きるまで待ってやってたのに……」


「そ、それは……ごめん」


 待っていてくれたのか。それは申し訳ない気がする。

 素直に謝って置いて、正解だろう。

 ホント、すまん……


「あの……さっきから私のことを無視しないでもらってもいいかな」


「……知らない人だったのでつい……」


 ってあれ……この人よくよく見たらどこかで見たことがあるような気がする。

 どこでだろう。


「知らない人だからって……まあ、それはいいか。私はこの町のギルドの総長をしているレイン・ダージリンだよ。あの子……ラグナロクは最高責任者とかいってたけど別にそんなに偉くないから。よろしく!」


 そうだった。

 この人はギルドをラグナロクが壊した時、怒っていたあの人だ。

 遠目でしか見ていなかったけど、ちゃんと見てみると、色々特徴がある。


 碧眼の目に凛とした顔つき。

 それに少し威圧感がある。流石はこのギルドの総長……最高責任者様だ。

 こんな喋り方を除けば意外と凄そうだ。

 さっき変な人とか言ってホントすいませんでした。


「いやぁ……私も見てて思ったけど、最近の子は凄いねぇ。あの子もちょっとあなたのこと認めてたし。でもやり過ぎだと思ったけどね。ホント、子供には厳しいんだから」


「そ、それです、それ! 結局どうなったんですか!? ミクがここにいるってことは無事なのは分かりましたけど」


「……それは私から言うわ。あんたのせいで大変だったんだからね!」


 ミクがそう言った。真剣な顔つきで語り始める。


「……あの後、ラグナロクはどこかに行ってしまって、私とあんただけになっちゃったのよ。あんたの怪我が酷かったから周りにいた冒険者とレインさんと話し合って病院に連れて行くことにしたのよ」


「私で~す!」


 手を挙げる。

 ホント、こういうところがなければね……


「そしてあんたをナースさんに預けて今ってわけ。別に私は怪我とかしてないわ。その分、この数日間、凄く……凄く大変だったんだけどね」


「ちょっと待て。数日間ってなんのことだ? どういう意味だ?」


「ファクト君はこの病院で5日間も眠っていたのよ。結構危ないところがあったけど、どうにかなったわ」


「マジですか……」

 

「マジです」


 レインさんが言う。

 信じられない。俺が何日も寝たきりだったなんて。

 どこまでヤバかったんだ……


「まあ、私のスキルでほとんど完璧に直せたから大丈夫のはずよ。とりあえず、立ってみて」


「……はい」


 とりあえず言われた通りに立ってみる。右手はまだ少し痛い。

 でも他の場所は何事もなく普通に動かせる。ちょっと安心だ。


「やっぱり大丈夫そうね。これなら今日中にこの病院から退院しても良さそうだわ」


 goodのポーズを俺の方に向けて来る。にっこにこだ。

 ナースだからかわからないけど、特別感があるよな。話すこともほとんどないとおもうし……っていかんいかん、これじゃあまたミクに怒られてしまう。もう止めておこう。

 

 ミクの方に話しかける。


「……それで、お前はなにが大変だったんだよ。全然わからないんだけど」


「はぁ……ここまで聞いてもまだわからないのね。想像力の欠片もないわ」


「そこまで言う!?」


「まあいいわ。聞いて驚きなさい。私……この数日間でお金を稼いでました!」


「……は?」


「は? じゃないわよ。凄いでしょ。ねぇ凄いでしょ!」


「凄いもなにも状況が全然読めないんだけど……」


「だ・か・ら。あんたが入院しているこの病院代。そしてご飯代を私が稼いでいたのよ。お金を借りるって手段もあったらしいけど、やってみたかったからちゃんとやったわ」


「正確に言えば、私が依頼をだして、ミクちゃんにはそれを解決してもらってんだよ。本当に助かったんだ~」


「へぇ……このミクがそんなことを……」


 にわかには信じられない。いつもなら文句ばかりなのに。


「なに、その信じられないって表情。嘘じゃないわよ。ちゃんと言われたことは完璧にやったもの。しかもギルドの人と仲良くもなったし!」


「これは本当だよ。私も見てたし」


 器用な奴だ。こんなことも出来たのか。

 ……ミクって意外といろんなことができるのでは!?


「そうだ。起きたらやろうと思ってたんだけどギルドの登録しに行こう。ミクちゃんもまだだしさ。ほらほら行こう!」


「そうだわ。忘れてた。ギルドに入りに行きましょう!」


 


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