第12話 馬鹿にも馬鹿なりに策はある

 ザクザクと炎の弾丸が降り注ぐ。

 避けるといっても勘で動くしかない。こんな速さのやつ見えるはずがない。


「ああ……ヤバいヤバい! ミクは大丈夫か!?」


「ええなんとか。どっちかっていうと私じゃなくてあんたが中心に攻撃されているみたいだから頑張って避けなさい」


「避けるって……無理だろ……!!」


 全力で走ってもギリギリだ。しかもその避けた後に合わせて、追い打ちをかけて来る時もあって難しい。今、避けられているのも不思議ってくらいだ。


「誰かに助けを……」

 

 周りの冒険者たちは俺たちのことを見物しているだけで、なにもしていない。

 むしろ楽しんでいるような感じがする。ニヤニヤしてるし。


 助けは……無理か。仕方ない。このまま避け続けてチャンスを狙うしかないのか。


「避け続ければいいと思っているなら無駄だぞ。この魔法は俺のスキルから発動してるから魔力が全く減っていない。無限に打てるからな」


「マジかよ!?」


 さらにどんどん降ってくる。 

 マジでこの人俺を殺しに来ているみたいだ。容赦ない……


「そして……ちょっといじると……こんな風に」


 さっきまで地面に落ちるはずだった弾丸が急激に軌道変更してこっちに来る。

 避けれるわけがねぇ……


「痛い!」


 当たった。もろ右手に当たった! なにこれ痛い……痛い痛い!

 痛すぎて立っていられない。その場でうずくまる。


「ほら見たことか。威勢はいいらしいが、結局は弱いじゃないか」


 完全に火傷してる。ほとんど右手の感覚がない。

 痛すぎる……


「大丈夫!?」


「ああなんとか……でも、本当にどうにかして対策しないと本当に死ぬ。死ぬ!」


 俺はもう一度立ち上がり、走りだす。

 ……考えろ。頭を回せ。この状況を打破できるためになにか策を考えなくてはいけない。

 考えろ……考えろ……なにか、なにか……もしかして!

 

 近くに来た弾丸を目で観察する。

 

 スキル:炎の幻想スルトの具現化能力、フレイムバレット。

 素材:測定不可。

 効果:道が炎の弾丸によって火の海と化す。

 欠点:一度軌道変更した場合、それ以上変更できない。


 やっぱりそうか。俺の目ならあいつのスキルを観察できるらしい。

 それはそうとして、なにこの鬼畜能力!? 勝てるわけないんですけど!

 欠点は一応あるっぽいけど、こんなん欠点なの!? 一回変えれるだけでも十分強いんですけど。


 はぁ……と走りながらため息をつく。俺のスキルの新しいことはしれたのはいいけど、これか……

 なんか無理そう。あんなに啖呵切ってたのにこれは無理だな気がしてきた。ミク……すまん…………


「……ってそういえば、さっきギルドに穴を開けた時、最高長官だがなんだか最高責任者だがなんだかで攻撃をやめていなかったっけ」


 少し前の出来事を思い出す。

 確か……変な女の人が出て来て、それにこの人が怒られて……そうだ! 具現化で直したんだ。つまり…………この人はギルドを攻撃できない。

 そういうことだな。


 そして極めつけは……さっき目で見た欠点!

 ……思いついたぞ。浮かんだ。俺の案!

 

「ふふふ……ちょっと悪っぽい感じの案が思いついちゃったけど、勝つためには仕方ないよな」


「何言ってるのよ。それよりも……これをどうにかしなさい!」


 走りながら会話をする。

 少し声がかすれているようだ。疲れているのだろう。

 かくいう俺も大丈夫かと言われれば嘘になる。相当バテテいる。

 ……早々に決着をつけるべきだな。


「……わかってるって」


「わかってるってどういう意味よ。この状況で馬鹿にしているのかしら?」


「違う違う。いい作戦が思いついたんだよ。……とりあえず俺がいいタイミングで絶対に右手を大きく上げて合図するからその時になったらアイツの方に走ってくれ」


「……わかったわ。走ればいいのね。……! 危ない……また後で」


 走りながらどうにか伝えられた。

 後は俺がふんばるだけだ。ここでふんばることが出来たならきっと勝てる!


「行くぞ!」


 俺がやることは

 まずは俺はギルドの方に走って行く。


「っち……面倒だな……しかもあの目……魔眼か? ……これだからする急にスキルに目覚めた者は面倒くさい。自分を過剰評価するのが鬱陶しい」

 

 よし! 予想通りついて来ていた炎の弾丸を戻したようだ。作戦の確認は済んだ。

 まあ……どうやらスキルのことはバレているらしい。ミクはわかってない顔をしているからまだよかった。


 ……でも、正直に言って自分ことは過大に評価してないんだよね。むしろ逆なんだよね。……悲しい現実だ。

 ってなんでここで悲しまなきゃいけないんだ。集中。集中だぞ、ファクト。

 ここからが正念場だ。


 そして今、一番重要なのはどれだけ俺がこの人を引き付けられるかだ。

 俺の方にターゲットを寄せなければ、この作戦は完全に失敗し、破綻する。

 どうにかして俺の方に向けさせる。


「……なあ、どうして俺じゃなくてミクの方も狙うんだよ。しかも一発しか当たってないし。余裕ぶってるけど、本当にはあんたの方がきつかったりするんじゃあないのか」


「ほう……挑発か。いいだろうその挑発に乗ってやろう。どんな作戦をしているのか気になっていたところだ。楽しませてくれよ」


 炎の弾丸が俺の方だけになる。

 当然数はさっきとは段違いだ。完全に増えている。


「…………!!」


 苦しい状況だ。危なすぎる。

 いや……ホント、孤児院の時、みんなでよく鬼ごっことかかくれんぼとかしといてよかった……本だけじゃなくて……

 そうじゃなかったら絶対体力持たないよ、これ!


「うおおおおおおおおおおおおおお……気合いだ気合い! 走れえええ!」


 力いっぱいに走る。少し離れた場所に行き、そこからもう一度ギルドの方に行く。

 こうしないと俺の読みがバレるかもしれない。


「ここまで行けば……後は……頼む! うおおおおおおおおおおおおおお!」


 ギルド前につく。打合せ通り、攻撃が引いていく。

 俺は右手を上げ、合図を送った。その瞬間、アイツの方に突進しだす。

 

「……そういう狙いか。ただ……邪魔なだけの退屈な作戦だ。やはり子供ということか。この右手でお前を落とそう」


 炎をまといながら右手の拳を引く。きっとこれが当たれば間違いなくダウンするだろう。だが、それでいい。俺はそれでいい。だって後ろには……


「そっちだけじゃないわよ。私も居るわ」


「……っち」


 来た。この時が。

 俺の予想していた通りのことが。


 俺はあいつの目の前に突進する。そしてその後ろでミクが攻撃する。

 だが、炎の弾丸は一旦軌道を変え、まだ発動していない。つまり、使えない。


 拳は俺の方。ミクの方の後ろは完全に無防備。どちらかの攻撃は確実に当たる。

 俺からミクの方に拳を変えても俺がいる。

 絶対にこのチャンスを逃してはならない。ここでこいつを倒す。

 勝機は……ある!


「……本当に面倒だ。子供というやつは……少しばかり本気を見せねばならないとは……な!」


 体の周りの炎が一気に燃えだす。

 その炎は瞬間的に針状へと変化した。さっきとは違う。俺の方向だけじゃない。全体方向へと変化したんだ。


 嘘だろ……これがこいつの実力……


「いつから俺が一方方向しか攻撃できないと思っていた。俺の能力は具現化。別にこれくらい大したことじゃない。悪いな。大人げなくて……バレット装填完了。発射。ラージバレット!」


 攻撃が届く前に弾丸が飛んでくる。

 あ……終わった。あと一歩のところで。ギリギリで……


「いや……まだだ! 終わっちゃいない。これでなんか終わらない。弾丸が当たったくらいで俺は諦めたりなんかしない!」


 力を入れる。

 体全体に力をこめる。あと一歩だと。なら踏み出そう。その一歩を。

 弾丸は何発当たったか、覚えていない。痛みもつらさも感じない。今はこいつだけを倒す。これだけしか頭にない。足を踏み出す。


「ああ……くそ。熱くなってきた。……燃え滾る」


 相手も拳を構える。

 一騎打ち。倒す。


「はあああああああああああああああ!」


 渾身の一撃の拳をふるう。


 ドンと大きな音がした。

 拳が当たった音だ。俺の顔面に。


「…………ぐは」


 俺の拳はあいつの顔のすれすれをカスった。

 つまるところ当たらなかった。

 ああ……クソ……負け……た。


「……惜しかった。少しばかりは……認めてやろう。強くなってから出直してこい。傷も治してな」


 なにか言っていたらしいが、聞き取れなかった。

 そして俺の視界は真っ暗になって行く。悔しさばかりが残っていた。

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