第8話 ここが町……
「ぜはぜは……ぜはぜは……マジで疲れた」
「わかってるけど声に出さないでよ。余計に疲れるでしょうが……しかも息を吸う音がうるさいし」
「うるせぇ、いつもお前は余計な一言が多いよな……」
歩きながら会話をする。
あれから何時間歩いたんだろう。山を抜け、川を越え、谷を駆け抜けた。
そして、体はもう疲れ果てていた。限界のちょっと前といってもいいだろう。
ちょっと軽い気持ちでここに来すぎた。そこは反省だ。
もう少しいい感じに整えてからこればよかった。
「め、飯、ご飯をくれ……」
「……もうとっくにないわよ。さっき食べたばっかじゃない」
「じゃあ水は……」
「ないわ。川で飲んだ水が最後よ」
「……くそ! マジでいつになったらつくんだよ! 道はこっちで合っているはずなのに」
「知らないわよそんな事。でも歩くしかないじゃない。御託よりも足を動かしなさい。じゃないと余計に疲れて、最悪死ぬかもしれないわ」
「わかってるよ……」
歩く。歩く。歩く。いったん止まり休憩して、また歩く。
そしてさらに歩く。
こうしてどんどんと進んでいった。
「く……ホント、ヤバい。マジで水が飲みたい……」
「だ、だから、喉が渇くから水って言わないで欲しいんだけど……」
はあはあ言いながら俺たちは進んでいく。
水もないし、食料も尽きた。これ以上はもうなにもないだろう。
「もう、着いてくれ……頼む。じゃないと……死ぬ……」
「本当よね。早くつい……て……って………………」
「!? ミク!? 大丈夫か!?」
すると、ミクがその場で倒れる。
無理をしていたのだろう。一気に倒れた。
「おい、大丈夫なのか! おい!」
返事はない。
体を近づけ息を吸っているかどうか確認する。
「……息はあるってことは生きてはいる……気絶してるってことか。ひとまずよかった」
なんとかなったらしい。
「あれ……安心したら俺の方まで眠気が……嘘だろ。まだミクだけならなんとかなるけど俺まで気絶したら……ってあ……」
そのまま俺も倒れる。
もう力が入らない。起き上がれない。まぶたがどんどん閉じていき、眠りそうだ。
やべぇ……これは死んだ。
マジかよ……まだなにもやっていないってのに……せっかく生き残ったっていうのに……本当に最悪……だ、ぜ。
そして意識を失った。
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「おい……おい……おいってば。起きろってば兄ちゃんや」
「!?」
誰かに触られた感覚がして起き上がる。目を開けると、少し暗く、もうすぐで夜になりそうな感じだ。
……なんだろう。むず痒い。
「やっと起きたか。お前さんたちが倒れていたのを見てびっくりしたぞ。大丈夫なのか?」
体が少し太っちょというかゴツイ男性がそこにはいた。
年齢は爺さんよりも少し若いくらい。近くには大きな荷台が置いてある。
「ここはどこだ……俺は死んだのか? 天国とか?」
「なーに寝ぼけたこと言ったんだ。お前さんは。まだ、眠いんじゃねーのか」
寝ぼけている……本当に何をいって……
「あ! そう言えば、ミクは!? 無事なのか!?」
「なによ。私なら無事よ。怪我とかもしてないし大丈夫だわ。この人が優しく介護してくれたのよ」
よかった。無事らしい。
ってことは俺は死んだんじゃなくここは現実か。
ビックリした。
すると、安心したのか俺の腹がぐうとなる。
「……仕方ないな。ほいよ」
おにぎりを渡される。
少し暖かく、美味しそうだ。
「食べていいんですか?」
「おうよ。よくお食べな」
その言葉を聞いた瞬間、すぐに手が動き、それを食らった。秒で食い終わる。
うん、美味しい。体が生き返る……
「お水もはいよ」
コップに入った水をもらい、それも一気に飲んだ。
完全に回復した。
「ありがとうございます。えっと……おじいさん」
「別にいいよ。お腹減ってたんだろ。この世は助け合いで出来ているからな。これくらいは当然なのさ!」
ニコッと笑う。
あらなにこのイケメン。めちゃ、カッコイイ。男前!
「それにしても……こっちのお嬢さんもお腹が減っていたしどこから来たらそんな風になるんだ……」
疑問に思っていたので、ミクが説明をする。
「私たちは山の奥に住んでいたんだけど、そこが火事になって燃えちゃったから町の方にお金を稼ぎに来たのよ」
「そういうことか。じゃあお前さんたちの目的地はこの奥にある町――リンクってことでいいのか?」
「リンク……多分そうだと思うわ」
名前とか聞きそびれた……爺さんも教えてくれればいいのに。
ちょっとその辺爺さんはおっちょこちょいだよな。
「そうか。なら……俺とも同じだな。一緒に行こうか」
「おじいさんも同じ場所なの!?」
驚いた。
まさか目的の場所も一緒だなんて……
「ああ、元々俺はリンクの町の商業を営んでいる。この辺にはちょっとした採取で来たんだ。お目当ての物もゲットできたし、さっさと帰ろうと思った矢先、お前さんたちが倒れていたんだよ。仕方ないから起きるまで待ってたってことだ」
「優しい……優しすぎる!? なんでそんなに優しんだ!?」
「さっきも言ったろ。人はみな助け合いで生きている。商人になったら嫌というほどわかる。客先との取引やものの品質。それだけじゃない。もっといろんなことが巡り巡って俺は生きている。だからもし困っている人を見かけたら手伝うのさ」
「マジかよカッコよすぎる……」
これしか言えない。もし、この人が居なかったら俺たちは今頃死んでいたのかもしれない。
感謝しかない。
「よしてくれよ。照れるだろ……」
笑いながら肩をさする。
本当に照れていることが伝わってきた。
「……まあ、話はその辺にして。お前さんたちはもう休憩は大丈夫か? お腹とか空いていないか?」
「大丈夫です」
「大丈夫よ。ありがと」
「なら、出発しよう。俺も今日休んでいた分、早く帰って明日の店の準備しないといけないし。ついてきな。案内してやる」
「はい!」
おじいさんについて行って数十分後、ついに町についた。
案外早く着いたってことはあそこからもうちょっと頑張れば、町についたらしい。
「うわぁ……これが町か……」
「凄いわね……本当に凄いとしか言えないわ」
初めての町に驚きを隠せない。
こんなに人がいる。1人、2人、3人……数えられない。
それにちょっと形が違う。
猫耳があったり、肌の色が違かったり、そもそも人間のようには見えないものまでいた。
なんだよ、これ……なんなんだよこれ。今ままでのとは全然違う。
家とは違う! ワクワクしてくる!
「お前さんたちどっちとも驚いた顔をしてやがる。いいよな、この町。俺はこの町が好きだ。大好きだ。愛しているといっても過言ではない」
「……」
「だからお前さんたちのような新しい人が入ってきて、喜んでいるのを見ると嬉しいんだ。助けたことにはやっぱり意味があったな」
「……そんな、これに意味なんて……」
「意味はあるさ。俺が意味があるといってるんだから間違いない」
本当に思っている顔で言っているからなにも反論できない。
「そうだ。早く着きすぎたからお前さんたちにこの町を案内してやろう。どうだ? 見てみるか?」
「……それなら是非、お願いします」
この町を案内してくれるらしい。楽しみで仕方がない。
それにこのおじいさんは本当に優しい。なにからなにまで教えてくれるしやってくれる。
こんな人がいるのか。
……尊敬できる。
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